不条識な狼の理16
♗16
「うおおお。すごい本物だ。会いたかったよぉ。ボンジロウぅぅぅ。」
何もかもが予想外なんだけど、ヒカミはあたしの姿を怖がるどころか、あたしのブラウスを捲って胸の獣毛の部分に顔を擦りつけてくるのだ。
「本当にさ、このサクの特に胸から首にかけての部分がさ、ボンジロウのお腹にモフモフってした時と同じ匂いがするんだよね。」
この場合。返答はありがとう。なんだろうか。
いや、ヒカミは凄く嬉しそうだけど。あたしはかなり本気で傷ついている。あたしが内心では一番気にしてたのがこの体臭だったのに、ハクスイは変態解釈だし(嫌われるよりマシと言えない程度には嫌な性癖だと思う。)ヒカミはヒカミでこんなのだし。二人とも悪気が無いのが厄介だ。
本当だったら、お互いに謝って、泣いて抱き合って、これからも友達だよってなって映画館にいる百人のうちの三人ぐらい泣いてくれる流れじゃ無いの?台本と違う。
「本当に、このサクの匂いそそられるのよね。一緒に寝れるわね。」
「やめろよハクスイ。お前のカラダ目当ての愛と、おれのボンジロウへの愛を同じ物差しで測んなよ。」
さらっと、マズイ事言ってると思うんですが、シラミズさん。あなたさっきまであたしと同じベッドで寝てましたよね。次から床で寝てくれませんか。本当にああああああ、
『なんていうか。全般的に台本と違うんだよ。』
前後の脈絡関係なしに、あたしは本音を言ってしまった。
「あはは。最高だろおれらなんて。いつもこんな感じだろ。」
しかし、頭の回転があたしなんかよりすこぶる早い二人には伝わるのだ。
「サク。おかえり。」
ヒカミがあのいつもの笑顔でいてくれた。急なジャブに少し照れてしまって目線を逸らしてしまったのは言うまでもない。
「え?待ってヒカミ。それ逆じゃない?どっちかと言ったらやばかったのアンタの方なんだから。サクがおかえりって言うもんじゃないの?」
『どっちでも良いよ。ただいま。』
あたしはそう応えた。
ちなみにこの小っ恥ずかしい一連の出来事を、歩は煙草を吸いながらずっと見ていた。
「とりあえず。一番の怪我人が回復したのなら、諸々の話合いとしたい。流石に隣でいつまでも寝てるあの子もそろそろ起こしても問題ないだろう。」
切り出したのは歩だ。確かにそろそろ全員で情報の擦り合わせをしたい。そもそも、あたしとヒカミ。そして今寝ているもう一人のあの子は、目が覚めたらここにいたって所から話が始まるんだ。
「シラミズ起こしてきてくれ。怪我人とナリのおかしいアタイと狼とじゃあ、消去法でお前しかいねぇ。」
まあそりゃそうなるよね。見た目だけで言ったら、あたしと歩は目覚めの最初に見るにはちょっと衝撃が大きすぎる。
「任して。可愛子ちゃんと起こすという重大任務。ミスるわけにはいかないわ。」
とぼけた感じにハクスイは言ってたけど、あんまし冗談っぽくないのは触れないでおこう。
ハクスイが、隣の部屋に行くと。ものの数秒で、凄まじい悲鳴が聞こえた。あの女の子らしい。痴漢にでもあったような。
「おいおいハクスイの奴、盛大にミスってるじゃねえか。あの男女見境なく手を出す守備範囲の広すぎるアバズレゴミは、どんな起こし方したんだ。」
「こりゃ、起こしたじゃなくて、犯したんじゃねえの。ったく。ヒト一人起こしに行ける奴もいねえのかよ。このメンツには。」
歩は、呆れ顔で煙草に火を着けた。
「違う。違うって!誤解なんだ誤解なのよ。」
ありがちな弁明の言葉を言いながら、ハクスイが勢い良く戻ってきた。
「おれさ、ここで暴露してちょっとは悪いと思うけど、君さ、おれがたまたま君の浮気目撃した時も二回とも同じ事言ってたよな。」
えっ?なにそれ初耳凄い気になる。ハクスイの浮気癖は知ってはいたけど、ヒカミが二回も現場を見てるってなにそれ面白過ぎるから是非聞きたいけど、話がそれるのでぐっと我慢。
向こうの部屋から足音が近づいてくるのが聞こえた。右耳からしか聞こえてないので、あたしにしか聞こえてないんだと思う。
ハクスイに何かをされしまったであろう被害者にさらなる精神的な苦痛を与えない為にも、あたしはその人にあたしの姿を見られる前に、ヒカミに外されたフードを深く被りなおした。
入室。開口一番。全てが予想を超えた。
「大きな声をあげて、申し訳ございません。
あっ、あの。わたし。白水京香様に会えた事が嬉しすぎて。」
恥じらいを隠すように、顔を手で覆いながら、彼女は言ったのだ。
あれ?どういうことだ?この人はハクスイを知っている?歩も元々ハクスイの知り合いだし。
今ここにいる人たちは、ハクスイの事だけは全員が顔見知り?
なんだか、話がややこしくなってきた。




