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不条識な狼の理13

♗13


 うとうと目を開けるとそこにあるものを最初に認識するのは時間がかかった。

 何せ本来普通に生活していたら絶対に寝起きに見る物では無い物があたしに向いていたのだ。黒い棒。いや筒。決して太くは無い黒い棒状の物を……


 単刀直入に言おう。それは銃口だった。




「お前。言葉は?名前言ってみろ。」

 その銃口を向けたその人は、銃口を下げる事無くあたしに言った。


 握られた拳銃の腕は筋肉が浮き出る程度に無駄なく鍛えられて、柄まではよく見えないがその腕には肩までがっつり刺青が入ってるのが見える。


 知らない。男性?女性?どっちにも見える。ただ眼つきはとんでもなく悪く多分ろくな商売の人ではない。大体銃を持っている時点で普通の人ではない。そもそもあたしは何故銃を向けられてるのか。そんな事を考察する前にあたしは投げられた質問を返す事しか出来なかった。

『樫山さくら。』

 あたしがそう答えてもその銃口は下がる事は無く、次の質問が降ってきた。


「お前、自分が何をして、どうなってるか分かってる?」

 どうなってるって?取り敢えず、突然銃口を向けらえているというあり得ない状況。あたしは自分の姿を見ると、両足にも両手にも鎖がついていた。全く自由が無いわけではないけど、鎖が届く範囲までにしか動けないように。その鎖の元を辿ると、鎖は後ろの石壁に突き出た鉄棒に固定されていた。

 どう考えても外して逃げられる代物ではない。まるで獰猛な獣か何かを捕虜しておくような、人権のまるで無い獣に対する仕打ちだ。


 獣?


 どうしてだか、あたしの片手、いや片腕は灰色の毛で覆われている。そして、今まで見た事のないデカい爪がついている。その爪をよく見ると、何かが付着しているのだ。付着というと何か粘度のあるものが付いているイメージだけど、あたしの爪に至っては完全にソレは乾いた後だし、なんなら獣毛に覆われていて最初は気付かなかったけど、この獣毛の部分にも一度付着してカピカピに乾いた後なのだ。



 何が乾いた後なのか、幸いにもあたしが着ていたのは制服だ。白のブラウス。その本来白かったブラウスが見える範囲だけでもほぼ赤茶色に染まっている事がわかる。

 そう。これは全部血。血塗れなのだ。問題はその血は一体どこから出てきたものなのか。

 あたし自身は何処かが痛む様子も無いし怪我をした様子も無い。という事は、これはあたし以外の何物かの血なのだ。




「誰を食ったか覚えてるか?」

 誰を食ったか?

 だれを……




『あ…あたしは、』

 あのヒカミの顔を思い出した。叫ばそうとしたのに、目の色が消えて、落ちる瞬間を。

 爪先の血を舐めて、質は良いけど、あまりにも可食部が少ないとかそんな事を考えて。

 何で?なんで?あたしは何故そんな事した?あたしは、ヒカミを。

 手が震える。手だけじゃない。全部、あ、なにこれ?なんで?というか、何故あたしはこんな変な手をしてるんだ?あたしはどうして?

『ころしたの?』

「ああ。てめえで食ってたろ。大事なお友達を。」



 嘘だ。





 咳き込むと同時に吐いた。気持ち悪い。苦い。怖い。胃液だけが出てきた。ああ。なんだ?いまどうなってる?あまりにも分からない。殺した?違う。食ったと言われた。お友達を食ったを言われた。あたしはヒカミを、




「もういい。大丈夫。もう正気だって。」

 聞き覚えのある声がした。

 顔を上げると、ああ知ってる。茶色い和服と無駄にデカくて無駄に美人なあたしの親友。

「ごめん。試すような真似をして。サクが本当に正気に戻ったかどうかを確認する必要があったから。」

 ハクスイはあたしを抱きしめてくれた。

 こんなにも汚れてるあたしをハクスイは抱きしめてくれた。汚れてる、いやどう見ても人間じゃないあたしを。いやなんでそもそもあたしは何でこの姿でなぜここに?そしてこの銃を向けるこの人も一体。



「ヒカミは生きてる。」

 生きてる……?



 ヒカミは生きてるという言葉を認識しても理解が追い付かない。あたしはあの瞬間。あの目に焼き付いたあの瞬間。

 あの瞬間のあたしは完全に動物に成り果てたわけではなかった。だって、ちゃんとした思考力があった。


 ハクスイとヒカミを追って。途中の分かれ道で確かヒカミにの血の匂いを追った。噛みついた時に口に残ったヒカミの血の味の匂いで遠くからでも全然追えた。あの異常な嗅覚を持ってして、能力は動物でも思考力は人間のままだった。

 現に、あの後あたしは、ヒカミのあまりもの可食部の少なさにハクスイも呼ぼうと一度ヒカミを叫ばせようとした。


 そんな事考えつくか?何もかもを失ってたらそこまで考えて行動出来るか?現にあたしは一連の動作を当たり前のように行った。当たり前の食事としてやろうとしていた。あの時のあたしは、あたし自身の意思で食事をしようとしていたのだ。

 自分の手と服についたこの血の匂いはどう考えてもヒカミの血の匂いだった。しっかり覚えてる。このおかしな身体は嗅覚が異常だ。

 異常な嗅覚。抱きしめるハクスイの匂い。嗅覚だけで判断がつく。目を瞑っていても体臭だけで誰がどこにいるのかも分かる。



 ハクスイの服からもヒカミの匂いがするのも、この空間のどこかにヒカミがいる匂いがするのも。

 ヒカミの匂い……




『生きてる。』

 やっと理解した。

 良かったヒカミは生きてる。



「ゲロ吐いた時点で、何も食ってない事ぐらい分かるだろ。」

 あたしに銃口を向けていたそいつは素っ気なく言い放って。懐から何かを取り出したかと思えばそれを咥えて火を着けた。

 映画でしか見た事が無い。高級品の煙草というものだ。こんなにも強い匂いがするのかと、今吐いたばかりなのに、また吐き気を感じた。



 というか、この人は一体。

「大丈夫。サク。かなり頼りになる仲間だから。」

 ハクスイがそう言うからには仲間なんだろうけど、如何せん見た目がおっかな過ぎる。いや今のあたしがそういう表現をするのはナンセンスなのかもしれないけど、一般論で格闘家のような筋肉と拳銃と煙草ってもうヤから始まる職業しか知らない。


「ヤクザの余村歩(あまむらあゆむ)。歩って呼んであげて。私は昔から余村って呼んでたんだけど、本当は下の名前で呼ばれたいみたいだから。」

 あたしがオブラートに包んだ表現を探していたのに、ハクスイは堂々とヤクザと言い切った。



「間違ってはねえけど、もっとロクな紹介なねえのかよ。」

 しかし、当の歩はそれを嫌がってような素振りもなく続けた。


「まあ付け加えるなら。昔のツレってやつかな。」

 昔のツレ?あたしはハクスイの事なら男女関係以外はほぼ知ってるはずだけど。え?それってもしかして。


「うん。ちょっと未遂があっただけよ。」

 え?マジで?誰とでも寝るこの糞ゴミヤリチンビッチのハクスイの手腕でヤクザまで手駒にしたって事?


「おいおい思わせぶり抜かすなシラミズ。アタイに女抱く趣味はねえよ。」

 じゃあ一体?何だろう。大体ハクスイの事をちゃんと本名の苗字のシラミズで呼ぶのも珍しい。


「なあ、狼。お前もシラミズの友人ならシラミズが出てた番組ぐらい見た事あるだろ。昔、最強の小学生みたいな企画で、シラミズが剣道で優勝してアタイがボクシングで王座に就いた時の番組で出会ったんだ。」


 そう言われて。あたしはあの動画を思い出した。確かにそんな番組があった。他の競技は男子ばっかりなのによりによってその競技だけは女子が制覇したかと、番組にも持ち上げられてたあの番組で、

『あのハクスイの隣に座ってた?』

「そうだよ。」


 それは……このパーフェクトボディも納得出来る。本物のボクサーなんて。凄い友人を呼んできたものだ。


『つまりそれって、ハクスイの招待状で呼んだって事?』

 最初にヒカミが言ってた通り、出来るだけ強い身内を呼ぶのが攻略のコツであるなら。かなり賢い選択であるのは確か。


「え。あー。まあそう考えるよね。」

 しかし、ハクスイはこの態度だ。そうではないらしい。

「いや。本当に偶然なんだけどさ。私が逃げ回ってめちゃくちゃ後悔してる時に、偶々この迷路で出会ったのよ。それで、サクの暴走を止めてもらったってのが、まあさっくりとしたストーリーかな。」


 たまたま出会った。そんな偶然?この世界にはあたしが思う以上に多くの人が参加しているという事だろうか。


「たまたまってか、納得のいかない必然のような感じなんだけどな。アタイはもうここで一ヶ月近く人狼を待ってたわけだし。」


 意味深に歩は言うのであたしはその先の事を質問しようとすると。その前に、歩はあたしたちの方に、何かを投げてきた。


 それをハクスイが上手にキャッチする。じゃりっと金属の音がして、ハクスイが手の平を開けると鍵があった。

「取り敢えず。話すと長い。その前に狼はシャワーでも浴びて来い。お前今自覚ないかもしれねーけど。獣臭いし、血生臭いしゲロ臭いしで最悪だ。」



 うえ、確かにそうだ。ヒカミの匂いがした事と、歩の煙草に匂いで気が散ってたけど、多分今このゲロ臭と血の匂いと……

『獣臭……』

 あたしからする。どう考えても動物園の臭いとしか言えないあの臭い。




「大丈夫。私、獣キャラも全然抱けるから。」

 何がフォローになってるのか分からない言葉を言いながら、ハクスイはあたしに繋がる鎖類の鍵を外してくれた。

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