不条識な狼の理12
♗12
暫く、鎖を取ろう頑張ってみたけど、取れなくて苛々していると、佐竹が鎖を外してくれた。なんだ取れるなら最初から取ってよ。
「さあ。時間だよ。追いかけな。人狼。」
どうやらあたしに話してるみたいなので、何か言葉を返そうかと思ったけど、言葉は出なかった。
なんだか言葉の発音の仕方を忘れてしまったみたいだ。
でもまあ。何も問題無いんだけど。
機嫌が良い。
唯一の不満は歩き辛い事ぐらいか。右足が追い付かない。まあでもあいつらどうやって逃げたか分かるから別に鈍足でも構わない。絶対追い付ける。
さっき噛みついた血の味と匂い。この匂いで何処に逃げたのかなんて目を瞑ってても追える。
暫く歩くと、別れ道に当たった。どうやらここで二手に分かれたみたいだ。さて、どっちから追うかと一瞬悩んだが、ここはやっぱりヒカミの方を追う事にした。さっき中途半端に味見してしまったせいで、やはり先にこちらから食べたくなってしまうものだ。
きっと以前のあたしは鼻歌でも歌っていたのだろう。いや、でもあの歌はどうやって発声していたのか?分からない。試しに声を出してみると、犬の遠吠えのような響く声が出た。こんな声だったっけ?まあいいや。どうでも良い。腹減った。殺さなきゃ。
匂いが到達する。奥行きが無い。
ヒカミが待っていたのはこの迷路の行き止まりであった。
「なあ。サク。今君に、おれの気持ちを思う余裕はあるかい?」
そいつは短剣を構えて、そう言った。
ああ。抵抗する気なんだ。大人しい方が絶対苦しまないと思うんだけどね。
脚を蹴っ張り、一気に突っ込んだ。一発で仕留めるつもりが、避けられてしまった。意外と良い動きをする。人間のクセに。
身をかわしてお互いに直ぐに振り返る。振り返った瞬間に、あたしは人間の持つ短剣を飛ばすようにそこを狙って腕を突き出した。結果、短剣はすっとんだ。
さあどうする?丸腰だよ人間。大人しくするなら、首の骨折ってからにしてやるよ。
しかし、まだ抵抗する気なのか、奴は短剣を取りに走り出した。往生際が悪いなあもう。
あたしは走り出すそいつを後ろから抱きかかえるように抑えた。失敗。抑えるだけのつもりがそのまま爪が刺さってしまった。
「あっ、うああああああああああああ、」
本当に雌雄が分からない声をしているなあ。
ぼたぼたと爪先から血が落ちてくる。血って暖かい。大丈夫かな、深く入りすぎてないかな。腸まで傷付けると食い辛いから、腹はあまりやり過ぎない方が良いのに。
ドサッと、身体が落ちたので、あたしはソレを地面に叩きつけた。背中から落ちた所為か激しく咳き込んでいる。まだまだ元気みたいだから腹部の損傷はそこまでか。まあ良かった。
「がは、げっほ、なあっ、おい。サク。」
呼吸呼吸の間に何か言おうとしている。うるさいなあ。こちとらやっと今から食事だっていうのに。
しかし、これ。随分小さい人間だ。食うとこあるのか。
下半身の衣類剥ぐと、腿が露出したが、まあこの可食部の少なさたる事やら。これじゃああまりにも少ない。やっぱりさっきデカい方を追えば良かった。
「やめっ、」
そうか。まだ喋れるなら使えば良いのか。
首筋を掴んだ。そして、爪を食いこませて目を合わせる。さあ叫べよ。仲間を呼べよ。
そのつもりだったのに。ソレは、目の色を無くした。ああ。駄目だ。戦意喪失。その証拠に失禁してるし、もう腰も抜けてる。これじゃあ死んだようなもんだ。
爪先の血を舐めると、やはり若いだけあって味はそれなりに上質だ。まあ仕方ないこれだけの味の保証があるなら取り敢えずこの少ない肉で我慢しよう。デカい方はまた後で追おう。
腿から食おうとしたその瞬間、何か煙たい匂いがした。
その煙の方を向いた所で記憶が一度閉じる。




