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不条識な狼の理11

♗11


「猫が出産したかの匂いね。」

「そうか、おれは動物とゲロの匂いがする。」

「そうね。秋の不忍動物園の匂いがするわ。」




 聞き覚えのある声がする。

「おい、サク!大丈夫か!」

 この声の主は随分小柄な友人だ。いつも一緒にいた。性別は確か雌なんだけど、どうにもこうにも中性的な声をしている。そして、雌の匂いも雄の匂いも感じない。人の匂いしかしない。



「ヒカミ。私ちょっと分からない。」

 この声は雌だし、匂いも雌だ。しかし、雄と同じくらい大きい体躯をした友人だ。



「奇遇だね。おれもなんだ。」

 何か光を照らされているようで瞼の裏に血が流れるぼやっと赤茶色に見える。頭を動かされて、塞がれてた口にあったものが外された。



「サク。起きろ。聞こえるか。」

 目を開けると、やはりそこには友人がいた。ヒカミとハクスイ。ずっと一緒にいた友人だ。

 しかし、二人してあたしを見つめる様子は変だった。まるで変なものを見つめるような訝し気で。それでいて、何か怖いモノを見てしまったかのような動揺もみられる。



 今のあたしはそんなに異常なのか?



 悪いけどそんな風には思えない。頭は冴えているし、さっきまであった頭蓋骨が割れるような頭痛も今は無いし、吐き気も収まった。なんなら聴覚も研ぎ澄まされてるし、嗅覚も冴えている。気分は物凄く良い。



 今自分が何をすべきなのかも明確に理解出来る。というかついさっきまで一体何を悩んで彷徨っていたのだろう。悩んでた自分が馬鹿みたいだ。

 空腹。渇望。憎悪。

 翳された、手の平を自由になった顎で噛みついた。

「っとああああああ。」

「ヒカミ退いて!」



 口の中に、血の味が広がる。そうそう。これだ。人間の味。渇望渇望渇望渇望。人間は食い殺さないと。食って食って殺さないと。やり返さないと。お前らがそうしたように。食い殺してやらないと。



「あーマジかよ。おれ嫌われちゃったよ。」

 直ぐにでも追いかけて食い殺してやりたいけど、生憎まだあたしの自由は口だけだ。腕も足も鎖が付いて動けない。



「あははははー実に滑稽滑稽。その狼は人を食うんだよ。あははは。」

 男の声。佐竹。ああ。こいつのお陰であたしは正常に戻れたんだ。本来の目的にやっと戻ってこれた。



「カンに触るわ。悪趣味。」

 ハクスイはそう言ってるけど、背中まで緊張で汗だくなのも匂いですぐに分かる。

 そんなに怖い?すぐ終わるのに。





「安心しろって、強いの率いて出てくる悪役は死亡フラグだ。」




「じゃあこれからがショータイムだよ。強気なお嬢さんたち。今から十分後に、この狼の鎖を解放しちゃうよーよーいどん!!」

 佐竹が手を叩く音。なんか合図か。

「同意してないってのにいきなり始めんの?」

「ほら、僕悪役モブキャラだから。」

「ここは一旦、逃げるぞ。」





 どうやら佐竹はあの二人を逃がしてしまった。みたいだ。ああ勝手な事しないでよ。あたしは空腹なんだよ。どうして放しちゃうのさ。何とか取れないのかなあ。この鎖。

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