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3、バレンタイン・オブ・ザ・リビングデッド(ステージ1)

 あたしは階段を登った所で、もう一度注意深く左右を見た。

どうやら敵はいないようだ。

ここにいたのは、さっきの二人だけらしい。

 今日、この時間は、一般生徒はあまり教室から出ない事になっている。


 右手のライフルが重い。総重量で三キロはあるだろう。


 後ろを振り返る。

すぐ後ろには兵太がついて来ているが、今回は役立たずだ。

なにしろ『兵太こそがターゲット』になっているのだから。


 今回のあたしの使命は

『兵太を敵から守りきり、無事に体育館までたどり着くこと』。


 敵は全部で二十四名。

ヤツラはどこから襲ってくるか解らない。

一瞬も気を抜く事は出来ない。


 あたしは今来た道を振り返った。

大丈夫だ、背後から襲ってくるヤツはいないようだ。


「行くよ、兵太!」


 あたしは小声で、だがハッキリとそう伝えた。

右手のライフルを構え直す。

まだこの学校内に二十人の敵が残っているのだ。


*****


「美園!大変だよ!」


 血相を変えて、七海が飛び込んで来た。


 如月七海は、あたしの一番の親友だ。

そしてこの学校の新聞部に所属しており、同時に学校の非公認サイトの一つ『慈円多ジャーナル』の運営サークルのメンバーでもある。

よって学校の情報には、耳が早い。


 だが今回はあたしも、七海が何を言おうとしているか判っていた。


「知ってる」


あたしは素っ気無く言った。


 あたしは秋の学園祭で、この学校の女子人気ランキングでベスト7に入った。

(実は第七位は同率なので、全部で八人いる事になるが)

この人気ランキングでベスト7に入ると、『インデペンデンツ』と呼ばれ、次の学校を支配する『真・生徒会』の一員である『セブン・シスターズ』の候補となるのだ。


 そしてあたしは、現在の『セブン・シスターズの一人・咲藤ミラン』の後継者と見られている。

(あたしが望んで、こうなった訳じゃない。結果として、現在は周囲にそう見られているだけだ)


 よって最近では、黙っていても学校内の様々な情報が入ってくるようになったのだ。

特に今回の『バレンタイン・デー』のような大きなイベントに関しては・・・。


 七海はあたしの前の席に座ると、勢い込んでこう言った。


「それじゃあ、なんでそんなに落ち着いているのよ!もしかしたら一週間限定とは言えど、中上君を誰かに取られちゃうかもしれないんだよ!」


「わかってるよ・・・」


あたしは深いため息と共に、そう言った。


 そうなのだ。

慈円多学園では、バレンタイン・デーにも大きなイベント、いや、熾烈なバトルが待ち受けているのだ。

 それは

『バレンタイン・デーに男子にチョコレート・ケーキを食べさせれば、無条件に一週間だけ恋人同士になれる』

と言うものだった。


 そもそもこの学校では

『男子生徒は女性生徒から弁当を十日間連続で受け取ったら、その女生徒と生涯において責任を持つ前提で交際しなければならない』

と言う鉄の掟が存在する。


 だがバレンタイン・デーに関してだけは、特別免除が与えられるのだ。

それが上記の件だ。

 たとえ『既に結婚前提のカップル』となっている男子生徒でも、チョコレート・ケーキを食べさせる事が出来れば、その後一週間だけは問答無用で恋人にする事が出来るのだ。

 無論、一週間という期間限定なので、それが過ぎれば元のカップルの所に戻ってくる。

だがそうは言っても、一週間、自分の彼氏が他の女とイチャイチャするのを、心穏やかに見ていられる女はいないだろう。


 女子生徒には、予め「誰にチョコレート・ケーキを渡したいか?」のアンケートが取られる。

事実上の『参戦希望』だ。

 そして二十人以上の女生徒から「バレンタイン・デーにチョコレート・ケーキを渡したい」と言われた男子生徒は、例のごとく『真・生徒会承認の公式戦』となるのだ。


 その公式戦のルールとは・・・。

『一番最初にチョコレート・ケーキを食べさせた女子が、一週間限定で相手の男子生徒とカップルになれる』だ。


 ちなみにこの公式戦に参加する女子生徒は、チョコレート・ケーキは一人三個しか持てない。

よって女生徒達は、我先にと争って意中の男子生徒にチョコレート・ケーキを食べさせようとする。


 それがエスカレートして行き、最終的には


『男子生徒の顔面目掛けてチョコレート・ケーキを投げつけ、最初に口に命中した女生徒が勝者』


というルールになったのだ。


 なおこのチョコレート・ケーキの大きさは統一されており、学食でバレンタイン・デーのみ販売されている。

大きさは直径二十センチで、ほぼ野球のボール程の大きさだ。


 これに不満なのは『男子生徒の彼女』である女生徒だ。

と言って恋人である女生徒が、真っ先にチョコレート・ケーキを食べさせるのはルール違反だ。

 彼女である女生徒は、彼氏である男子生徒を連れて、自分の教室から体育館まで行けば、そこで自分のチョコレート・ケーキを食べさせる事が出来る。

そこまでの道のりで、チョコレート・ケーキを手に襲ってくる女生徒達から、自分の彼氏を守り切らねばならない。


 なおカップルの彼女である女生徒には、特別に『ブルーミント・ジュース入りの電動ウォーターガン』が支給される。

これを敵となる女生徒に当てれば、その女生徒は失格となるのだ。

 ちなみにガード役(つまりカップルの彼女)は、ケーキを顔面に当てられた場合は、ガード役失格となる。

後は黙って、彼氏が他の女のマトになるのを見ているしかない。


 そんな訳で、あたしは今、1.5リットル入りのライフル型ウォーターガンと、サブ・アームズとしてハンドガン・タイプの二つを装備して、自分のクラスである一年E組から体育館まで、兵太を連れて向かっている所なのだ。

 なお教室内では攻守どちらも攻撃が出来ない。

勝負が教室以外の廊下、階段、ロビー、校庭や屋上、特別教室のみだ。


 ハァ~。

『お弁当を十回連続で食べさせる』


それをやっと達成したと思ったら、

『体育祭では抽選で『強制交際終了権』が発行される』。


 また一からお弁当を食べさせて、やっと十回になったと思ったら、

今度は『バレンタイン・デーの一週間ラバーズ』か。


 まったく、いい加減にして貰いたい。

この続きは、本日夜20時過ぎに投稿予定です。

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