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5、昨日の敵は、今日も敵?(ラスト・エピソード)

美園は、アキバで変な男に三人に絡まれて宿敵・渋水理穂を助けた。

その流れで美園は、渋水が一人で住むアパートへ来ることになった。

渋水理穂は「私は単にチヤホヤされたい訳じゃない」と言って、ネット・アイドルをやっている理由を語った。

渋水理穂の目的とは?

「最終目標って何よ?」


 あたしは渋水に聞いた。


「内閣総理大臣」


 ハッ?

 あたしは一瞬、呆然とした。

 マジで言っているのか、コイツ。

 そもそも『総理大臣になりたい』なんて言う奴を見るの、生まれて初めてなんだけど。


 渋水はあたしの顔を見た。

 若干、笑っているように見える。


「『総理大臣なんてなれっこない』そう思ったでしょ」


「・・・」


 あたしは沈黙するしか無かった。

 と言うか、あまりに荒唐無稽な感じがしたのだ。

 総理大臣って、日本のトップって事でしょう?

 そもそも今までに女性の総理大臣なんていたっけ?


「普通の人なら『総理大臣なんて夢物語だ。しかも女で』って思うでしょうね」


「まぁ正直、かなり驚いたけど・・・でもどうやって首相になるつもり?」


 渋水はパウンドケーキの袋を開けながら、あたしの方を見た。


「ちょっと考えれば解るわよ。まずはネットとかで名前を売って知名度を上げる。そういう点では慈円多学園の『セブン・シスターズ』の地位は逃せないよね。セブン・シスターズになれば、即・雑誌モデルに直結しているから」


「ふ~ん」


「それで大学では政治学を専攻する。その上でキー局の女子アナになる。高校・大学である程度モデルやアイドルをやっていれば、キー局も女子アナとして採用する可能性が高いからね」


「ふむふむ」


「女子アナになったらアイドル路線は卒業よ。政治・経済の分野やニュース部門に力を入れて頭角を現す。他の女子アナがアイドル路線を目指している間にね」


「ほうほう」


「三十歳から四十歳くらいでテレビ局を辞めて、政権与党から衆議院選挙に立候補する。タイミングは現在の与党の人気が落ちている時。今の与党も十数年の間に二度政権を奪われている。そういう時は必ず来るはず」


「へ~」


「そのタイミングでトップ当選をすれば、何期かすれば必ず首相になるチャンスが巡って来るはず。時代は『女性の強いリーダー』を求めているからね」


「でもさぁ、その頃には既に『日本発の女性総理大臣』なんて、もう登場してるんじゃないの?」


 渋水は軽く頭を左右に振った。


「わたしは別に『日本発の女性総理大臣』なんて肩書きにはこだわっていない。それに女性総理が登場するまでには、まだ何人かの女性政治家が捨て駒になる必要があると思う。今のオジサン・オジイサンが一層されて、現在の三十代後半の世代が社会の中心にならないとね」


「そんなもんかね~」


「信じられないかもしれないけど、今は絶対に女の方が議員のバッチも、総理のイスも取り易いって!男が国会議員になるのは、よっぽどの知名度と好感度があるか、国家公務員や議員秘書の下積みが必要だよ。でも女なら知名度だけである程度まで票は見込める」


 渋水はそう言って、『元グラビアモデルだった仕分け女王の野党議員』や『反乱を起こした元女子アナの都知事』や『元スケバン女優だった参議院議員』『元アイドルグループのシングルマザー議員』の名前を挙げた。


 確かに、渋水の話を聞いていると、ちょっとした可愛さと頭の良さがあれば、『女子アナ→国会議員→女性総理大臣』の道も無くは無さそうだ。

 そして渋水は『可愛さ』と『頭の良さ』の両方を持っている。


「でもさー、議員になるには凄くお金が必要だって聞くよ」


 何かの本で、議員になるために必要なのは『ヂバン、カンバン、カバン』の三つのバンだって見た。

 『地盤』は自分を当選させてくれる選挙区や地域の組織。

 『看板』はその議員の知名度だったかな?「親が国会議員」とか「有名な〇〇の人」っていう解りやすいアピール性みたいな。

 で『カバン』はそのものズバリで『選挙資金』の事だ。

 渋水の話は『看板』だけの話で、その他の二つ『地盤(選挙区)』と『カバン(選挙資金)』の点が無い。

 あたしはその点を指摘した。


「そうね、天辺の言う通り、あたしには『地盤』も『カバン』も無い。だからこそ、慈円多学園に入ったのよ」


「それはAWSSCの力を利用する、って事?」


「そう。AWSSCも自分の組織から総理大臣を送り出せれば影響力も大きくなるから、力を貸してくれると思う。お互いにWin-Winだしね。それにこの学園で先輩として雲取麗華みたいな大企業のご令嬢や、赤御門凛音みたいな御曹司とお近づきになれれば、資金面での援助も期待できるでしょ」


「う~ん、そんなにうまく行くかなぁ」


「そりゃあ当然、簡単じゃないわよ。でもわたしのようなただの小娘が、この国のトップに登るには、それしか方法がない!」


 渋水は言い切った。

 こいつ、実は雲取麗華以上の野心家だったんだなぁ。

 こいつに比べれば


「イケメン御曹司の婚約者を高校生の内にゲットして、玉の輿に乗れば人生勝ち組~」


 とか思っていたあたしなんて、まだまだ可愛いものだ。


「もちろん、ダンナにするにはイケメンがいいし、夫が金持ちなら生活面でも資金面でも不自由しないしね」


 あ、やっぱソコに来たか?


 すると渋水はあたしの方ににじり寄り、あたしの両手を掴んだ。


「ねぇ、あなた、わたしと手を組まない?」


「ええっ?」


 なんでそうなるんだ?


「天辺の事は春からずっと見ていた。あなたの発想力、行動力、機転、計画力は素晴らしいと思う。それはセブン・シスターズの咲藤ミランや菖蒲浦あやめだけじゃなく、雲取麗華も認めている。わたしもあなたの事はムカついていたけど、能力の高さは認めていたわ」


「そりゃどうも」


 あたしは身を引き気味にしながら、とりあえずそう答えた。

 いや、この熱量には付いていけないわ。


*****


 渋水の『熱い話』は深夜まで続いた。

 もうすっかりあたしの事を参謀扱いだ。


 午前一時を過ぎた所で、あたしは


「明日は学校だから、もう寝よう」


 と提案した。

 学校に行く準備なんてしてないから、朝早くに一度家に帰らないとならない。

 (ちなみに渋水も一緒についてくると言う)


 渋水が来客用の布団を敷いてくれる。

 友達は来ないが、母親がたまに泊まりに来るらしい。

 ちなみに渋水はベッドの上だ。

 上下関係があるようで、ちょっとムカつく。


 電気を消して五分くらい経っただろうか。あたしは話しかけた。


「ねぇ、渋水」


 渋水はしばらく沈黙した後、こう返事を返した。


「あのさ、わたし達、もう友達でしょ。『理穂』って下の名前で呼んでよ。わたしも『美園』って呼ぶから」


 あたしは暗闇の中で苦笑した。

 友達ね・・・あたしと渋水が・・・

 ま、いいか、それも。


「じゃあ、理穂。あんたは『総理大臣になりたい』って言ったけど、総理大臣になって何がしたいの?ただ『総理になりたい』だけ?」


 理穂はすぐには答えなかった。

 やがてため息が聞こえたかと思うと、彼女の声がためらいがちに響いた。


「『女が男に振り回されない社会を作る』って事かな」


「『女が男に振り回されない社会』?」


 あたしはオウム返しに聞き返した。


「そう、わたしの母親みたいな生き方をしない社会。男の影で生きるって言う女が居ない社会・・・」


 暗闇の中で、理穂の声が静かに響いた。

 コイツ、あたしが想像しているより、ずっと辛い思いをして生きて来たのかな・・・

 その時、あたしはそう思った。


「あ、後ね、わたしが総理大臣になったら最強軍隊を作って、世界に脅されない国にする。それを口実に徴兵制を採用して、日本中から選りすぐりのイケメンを集めて、わたし専用の親衛隊を作るんだ!美少年の逆ハーレムよ!」


 あたしは爆笑した。

 やっぱ『渋水理穂』は、こうでなくっちゃ。


*****


 翌日のお昼休み・・・

 あたしは慈円多学園の学食にいた。

 そして同じテーブルには、あたしの親友である如月七海と、昨日までは宿敵であった渋水理穂が一緒にいた。

 四時間目が終わるとすぐに、渋水があたしを誘いに来たのだ。

 だがその日は先に七海とランチする約束だったので、そこに渋水が付いて来る事になった。


 七海と理穂は、さっきから言葉を交わさない。

 あいだに挟まれたあたしは、けっこう気まずい。

 ついに我慢できなくなったのか、七海がこう聞いて来た。


「ねぇ、なんでここに渋水理穂が一緒にいるの?」


「えっ、えー、え?」


 あたしがドモっていると、理穂が先に口を開いた。


「なにか問題ある?」


 七海は理穂を睨んだ。

 七海は渋水理穂が嫌いだ。

 もちろん、あたしも昨日までは大嫌いだった。

 E組の女子は、ほとんどが理穂の事は嫌いだろう。


「問題あるって?大アリだよ!今までアンタがあたし達にして来た事を考えれば、当然の疑問じゃない」


 理穂は飲んでいたコーヒーの紙カップをテーブルの上に置いた。


「そう?そんなのは時間が経てば、変わっても不思議じゃないでしょ。昔の事にいつまでもこだわっている方が、人としてよっぽどどうかと思うけど」


「なに言ってんの、あんた?」


 理穂は横目で七海を見る。


「それに私も美園も次期セブン・シスターズ候補、『インデペンデンツ』なのよ。一般生徒のあなたがこの場に居る方が、むしろ不自然じゃないかしら?」


 七海が立ち上がった。

 珍しく彼女が本気で怒っている。

 七海はあたしの方を振り返ると、理穂を指さした。


「美園!なんでこんなヤツと一緒にいるのよ!コイツは敵でしょ!」


「ま、まぁまぁ、七海も落ち着いて。ちゃんと話せばわかるよ。それから理穂、あんたも変に挑発するような言い方は止めてよね!」


 理穂は組んだ足の上に、両手を置いた。


「いいわ、美園がそう言うなら。それに如月さんだっけ?あんたにもちゃんと価値はあるから。新聞部なんでしょ?情報収集と宣伝という大事な役目をお願いするかも」


「こ、こいつぅ~」


 七海は今にも飛び掛からんばかりだ。

 あたしは必死に彼女を止めた。


 理穂、そういうこと言うから、アンタは敵を作るんだろうが。

 はぁ、渋水理穂が敵じゃなくなったのは良かったかもしれないけど、こんな感じじゃ先が思いやられるよ。

 あたしの周囲とコイツは、仲良くできるのかな?


「あなた達二人とも『チーム渋水』に入れてあげるわよ。わたしの目的達成のために、しっかり働いてね。参謀の美園に、情報担当の如月ってところかな?」


 理穂は涼しい顔でそう言った。

 あたしと七海は、目が点になった。


・・・やっぱコイツとは、仲良くできないかも。

ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

この前巻の「あなたにこの弁当を食べさせるまで!」と合わせると、かなりの分量になります。

それをここまで読んでいただいて、作者として感謝の念が耐えません。


この最後のエピソード「昨日の敵は、今日も敵?」が、ある意味このお話の核心部分でもあります。

面白いと思っていただけば幸いです。


なお現在、カクヨムにて「あなたにこの弁当を食べさせるまで!」の第一章を

リニューアルして公開中です。

6.5万字から10万字に、新エピソードを加えて大幅に加筆しました。

ぜひ読んでみて下さい。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891080878

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