5、昨日の敵は、今日も敵?(その4)
その時だ。他のキツネ耳を着けたメイドの子がやって来て、渋水に耳打ちした。
「リホニャン、なんかさっきから、店の前に変な男がいるんだけど・・・」
真顔に戻った渋水が、窓から外の様子を伺う。
渋水の顔色が変わった。
あたしの方を振り返る。
「どうしよう。さっきのヤツラだ・・・」
あたしも驚いて、急いで窓に近寄る。
レースのカーテンが掛かっているので、外から店内はすぐに見えないはずだ。
そしてそこには、さっき公園で渋水を襲った三人組の内、二人がいた。
店の入り口からどちらも十メートルほど離れて、街路樹の陰と立て看板の陰から、この店の様子を伺っている。
もう一人は諦めて帰ったのか?それとも別の場所から監視しているのか?
おそらく後者だろう。
全くあのアホ男ども。
あれだけ警告してやったのに、まだこんな事を続けるつもりか?
「アイツラ、わたしが出るまで、あそこで待ち伏せしてるつもりかな・・・」
渋水が不安そうに言う。
「そこまではしないと思うけど・・・二時間もすれば諦めて帰るんじゃないかな?」
「そうかな?」
あたしも自分が言ったことに自信が無かった。
「二時間もすれば諦めて帰る」は普通のヤツだ。
だが、アイツラが『普通のヤツ』かどうかは判らない。
「あたしももうちょっとココにいて、様子を見てみようか?」
あたしが何の役に立つかはビミョーだが、とりあえずそう言ってみた。
渋水は救われたような目で、あたしを見る。
「頼むわ。助かる。その代わり席のチャージ料はいらないから」
ハ?席のチャージ料?
当たり前だろ。何でこの状況で、あたしがチャージ料を払わなきゃならないんだ?
もっともメイド喫茶に『席のチャージ料』なるものがある事は、初めて知ったが。
その後、二時間ほどをメイド喫茶で過ごした。
お陰で『メイドによるライブ』なるものも見学させて貰った。
お客さんはけっこうな割合で、メイドさんと一緒に写真を取るサービスを受けていた。
あたしは渋水とツーショット写真なんてゴメンだが。
その間も渋水の奢りで、パフェやハーブティを出してもらう。
だが問題の男達は二時間以上経っても、店の前から消えてくれなかった。
信じられない執念だ。
それと同じ位『渋水の恨まれ度合い』も凄いが。
「なに、あの男たち・・・」
他のメイドさんも気にし始めた。
あたしも窓の外をうかがった。
たしかに、例の二人はまだ居る。
「あの様子だと、渋水が出るまで、ずっと見張ってるつもりなんじゃない?」
あたしがそう言うと、渋水は脅えた表情であたしを見た。
「止めてよ!そんなこと言うの!」
そこに店長らしい男性がやって来た。
「これはマズイかもしれないね・・・」
店長も難しい顔をしている。
さっきのキツネ耳のメイドが言った。
「警察とかに連絡してみては?」
だが店長が首を左右に振る。
「この時点では警察は動いてくれないよ。何か具体的な被害が合った訳じゃないし。それに店のお客様だった人たちだし、あまりトラブルにはしたくない」
「どうしたら・・・」
さすがの渋水も本当に困った様子だ。
店長が言った。
「渋水さん、今日はもう上がっていいよ。何かあったら大変だ。明るい内なら彼らもそうそう変な事は出来ないだろう。閉店まで待って、僕が送って行くより、昼間の方が危険が少ないだろうしね」
そして店長はあたしの方を見た。
「君は渋水さんの友達なんだろう?悪いけど途中まで彼女と一緒に帰ってあげてくれないかな?」
ん~、まぁこの際は仕方ないか。
けっこう奢ってもらったしね。
「仕方ないですね。いいですよ」
あたしは肩を竦めるようにして、そう返答した。
それに対して、他のメイドの子が言った。
「でも、それでもあの連中は渋水さんの後を追って行くんじゃないでしょうか?それで家バレといかしたら・・・」
仕方ない、乗りかかった船だ。
あたしが提案した。
「じゃああたしが渋水の服を着て、先にココを出ますよ。サングラスとマスクをすれば、遠目にはわからないと思います。渋水は後からあたしの服を着て店を出れば、アイツらを撒けるでしょ」
幸いと言うか残念と言うか、渋水とあたしは同じ身長だ。
背格好も似ていると言えば似ている。
「それはいい考えだ!」
店長は真っ先に賛成した。
だが渋水は
「アンタにそこまでして貰うのは・・・」
と少々困惑した顔つきだった。
コイツに他人の事を心配する気持ちがあったとは驚きだ。
「もちろん、タダじゃないよ。この貸しは何かで返して貰うわよ。必ずね」
渋水は嫌そうな目であたしを見た。
その位、あったり前だろ。甘えんな!
キツネ耳のメイドも賛同する。
「リホニャン、そうしてもらった方がいいですよ。あんなシツコイ連中に家まで知られたら、何をされるかわかりませんよ。」
渋水も渋々同意する。
あたしと渋水はさっそくロッカー室に入る。
店長さんが「これを使って」と言って、サングラスとマスク、それに渋水と同じような『金髪ツインテールのカツラ』を出してくれた。
ロッカー室を出る間際にあたしに名刺を差し出した。
「天辺さんだっけ?君も可愛いよね。良かったウチの店でバイトしない?君なら人気も出て、けっこう稼げると思うよ」
「はぁ、考えておきます」
とりあえずそう答える。
でもあたしには『萌え萌えきゅん!ニャンニャン・ビーム』なんて、絶対に言えないよ。
自分で言って、吹き出しちゃいそうだ。
あたしと渋水は並んで着替え始める。
あたしは自分のシャツを脱ぐと、渋水に渡した。
あたしはロッカーから渋水のブラウスを取り出す。
「なんだか・・・胸がキツイ・・・」
渋水がボソッと言いやがった。
あたしはキッとなって、渋水を睨む。
・・・誰のためにこんな事をやってると思ってんだ。みんなテメーのためなんだぞ!・・・
どうやらそれはあたしにケンカを売った訳じゃないらしく、渋水は黙って着替えを続けた。
だが気分を大幅に害した!
あたしは自分のデニムのスカートを脱ぐと、無言で渋水に差し出す。
これで「ウエストが緩い」とかホザいたら、マジで蹴りをブチ込むつもりだった。
だがウエストはほぼ同じサイズだったらしく、渋水は何も言わずにあたしのスカートを履いた。
あたしも渋水のスカートを履く。
だが忘れてた。
コイツのスカートは超ミニなのだ。
「ちょっと、これじゃパンツが見えちゃうよ!」
あたしは口を尖らせた。
「そんなこと言ったって、ここにはショートパンツなんか無いわよ」
渋水は全く意に介さない様子でそう答える。
クッソ~、こんな男を挑発するような超ミニを履いてるから、勘違い男とトラブルになるんだろうが!
この続きは、明日9月18日(水)正午過ぎに投稿予定です。




