1、ナニこの組合せ?ダブルで初詣デート(その1)
「行ってきま~す!」
あたしは元気良く、家を出て行った。
今日は一月二日、兵太と初詣に行く約束だ。
やっとゆっくり兵太と会える。
兵太は十二月三十日までクラブの合宿だったし、大晦日は兵太の方が大掃除で時間が取れなかった。
さすがに元旦は出かけにくい。
ウチは元旦は家族で過ごすのが恒例となっているためだ。
何しろお年玉を貰わないとならないし、この日は親の機嫌は損ねられない。
行き先は明治神宮だ。
最初はちょっと遠出して、川崎大師や成田山も考えたのだが、やはりお店も一杯ある原宿の明治神宮にした。
ちょっと浮かれ気分で駅まで歩く。
ふふ、こんな気分、夏休みの花火大会以来かもしれない。
途中、コンビニの前を通った時だ。
「天辺さん」
と背後から声を掛けられた。
不意だったんで、ちょっとビックリして振り向く。
そこには中学の同級生だった男子が、
・・・え~っと、誰だっけ?
夏の終わりにも会ったんだけど。
「あけましておめでとう」
「え?ああ、あけましておめでとう」
ヤバ、名前、出てこないや。
『新橋君』だっけ?
「会うの、夏以来だね」
「うん、そうだね」
彼はあたしの横に並んだ。
なんで付いてくるんだろ。
「僕が書いた小説、読んでくれた?」
う~ん、あの後、色んなイベントがありすぎて、正直忘れていたんだよね。
しかも貰った名刺みたいなカードも、失くしちゃったし。
「ゴメン。貰った紙を失くしちゃってさ。まだ読めてないんだ」
申し訳ないけど、正直に言うしかない。
予想通り彼はガッカリした顔をした。
だがすぐに気を取り直したのか、サイフからまた新たな名刺を取り出した。
「失くしちゃったんなら、仕方ないね。じゃあコレ、新作も書いたから、ぜひ読んで欲しいな」
「わかった。時間がある時に読むね」
そう言って名刺を受け取った。
名前が書いてある。
そうだ『新川博已』君だ。
あぶねー、名前まで間違える所だった。
新川君が聞いて来た。
「今日はどこに行くの?」
「初詣。高校の友達と一緒に」
本当は『彼氏と一緒に!』って言いたかったんだけど、新川君はその『彼氏』である兵太も知っているから、何となくいいにくい。
中学の同級生みんなに広まりそうだし。
「ふ~ん」
何かを考えるようにした後、新川君は別の話題を振って来た。
「天辺さんの通っている慈円多学園ってスゴイんだね。あれからちょっと調べてみたんだ。エリートとお金持ちが揃う超ブランド高校なんだね」
「そうだね。確かにお金持ちの子が多いね。ウチは普通の家だけどね」
何だろう。新川君の言い方って、「雑談」と言うより「探ってる」みたいな印象を受ける。
「でも天辺さんもその中で女子の人気ランキング第七位なんでしょ?それって凄いことなんじゃない?」
「な、何でそんな事、知ってるの?」
あたしは焦った。
学校内でなら噂になったから、この手の話題にも慣れたが、
まさか部外者である中学の同級生の口から出るとは思わなかった。
「だって人気ランキング七位までの人って『セブン・シスターズ』って呼ばれていて、モデルとかになれるんでしょ。出身者に女子アナとかも多いって。ネットにも週刊誌にも写真入りで載っているよ」
マジかよ。そんな外部にも広まっているのか。
「でもあたしは違うよ。あたしが七位になったのは、偶然って言うか、手違いみたいなものだから。現にモデルの話なんて、全然無いしね」
あたしがそう軽く笑い飛ばすと、彼はまだ
「ふ~ん」
と言いながら、あたしの横を並んで歩いている。
だから、なんで彼は付いて来るんだろう。
このままだと、あと少しで駅近くに着いてしまう。
そこでは兵太が待っているし、もうどっかに行って欲しいんだけど。
そこであたしはハタと思った。
彼の家って、あたしん家の近くだったのか?
「新川君の家って、コッチの方だったの?」
とりあえずそう聞いてみる。
すると彼はハッキリしない返事を返した。
「え、うん、ううん、コッチって言えばコッチなんだけど、もう少し方向が違うかな・・・」
「じゃあどうしてアソコにいたの?」
「うん、たまたま。たまにコッチに来るんだけど、それであのコンビニに入ってたら、天辺さんが来たから・・・」
歯切れの悪い回答だなぁ。
ともかく、もうすぐ待ち合わせ場所だから、新川君はもう消えて欲しいんだけど。
新川君はまた話題を変えて来た。
「さっきの話だけど、初詣ってどこに行くの?」
「明治神宮」
すると新川君はトンデモない事を言い出して来た。
「僕も一緒に行っていいかな?明治神宮」
「えぇっつ?」
あたしは思わず大声をあげた。
「いや、ダメだよ。だって高校の友達も一緒だから」
「じゃあさ、その高校の友達がいいって言ったら?僕、ちょうど明治神宮が舞台の小説を書こうとしてるんだよね。だから前々から行こうと思ってたんだよ」
あたしは言葉に詰まった。
つまり新川君は、兵太と待ち合わせている場所まで、付いて来る気なのか?
そこまでして、なぜ一緒に行きたい?
「いや、取材ならさ、一人で行って・・・」
彼はあたしのその言葉を遮った。
「あれ、中上君じゃない?」
思わずあたしは目を剥いた。
彼が指さす方向には、兵太がいた。
「もしかして、一緒に行く高校の友達って、中上君のこと?」
彼が伺うような目であたしを見る。
「う、うん」
「じゃあさ、僕が一緒に行ってもいいよね。僕も中上君なら知り合いだから」
あたしは迷っていた。
いっそここで
「あたしと兵太は付き合ってるんだ。デートの邪魔だから、新川君はバイバイね」
と言ってしまおうかと。
だが兵太は、女の子が絡むと妙に照れる。
あたしと付き合っている事も、地元のみんなには知られたくないかもしれない。
ここは兵太に断って貰おうか?
この続きは深夜0時15分くらいに投稿予定です。