表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

4、卒業式の日(中編)

「遅いですよ、天辺さん。もう他の人はみんな準備が済んでいます。あなただけですよ」


あたしを待っていた家庭科の先生は不機嫌だった。


「すみません」


 あたしは殊勝に頭を下げた。

仕方ない。

先生はあたしのために、パーティーの参加に遅れてしまうのだ。


 ちなみにあたしが着るドレスも、スカートがふわりと拡がった『いかにもドレス』という感じのドレスだ。

結婚式の二次会などで着られるような、カラードレスと言うらしい。

 これは咲藤ミランが貸してくれたものだ。


「あたしがインターナショナル・スクールの小学部卒業の時に来たドレスだけど、サイズ的には丁度いいんじゃないか?」


と言うことだった。

彼女は小六の時には、今のあたしより背が高かったらしい。

 ちょっと悔しいが、ラベンダー色の膝丈でフラワー型に開いたドレスは、とっても可愛かった。

ありがたく拝借する事にする。


 ドレス用のインナーを先生に装着してもらう。

そう、これは『着る』と言うより、まさしく『装着』のイメージだ。

ウエストを締め上げ、バストを寄せて固定し、背中の紐で絞る。

その上からドレスを着る。

肩が大きく露出したドレスだが、ドレス用インナーのおかげでズレる心配はない。


 髪型も結ってくれる。

一度と頭の上でふんわりとまとめ、そこから自然に後ろに垂らす。

頭の左側にはレースの造花を、頭頂部にはシルバーのティアラを乗せる。


「さあ、出来ましたよ」


 先生はそう行って、あたしを鏡の前に誘導した。

姿見の全身鏡で自分の姿を確認する。


 うわぁ、可愛い。

こんなお姫様みたいなドレスが着れるなんて!

夢みたいだ。

それに胸も形良く盛り上がって見える!

これは後でスマホで撮って、写真を記念に残しておかねば!


コン、コン


ドアがノックされる。


「入ってもいいですか?」


兵太の声だ。


「大丈夫ですよ。お入りなさい」


先生が答える。


 ドアが開けられ、兵太が入ってきた。

兵太は黒とグレーのタキシードだ。

 家庭科室に入ろうとした兵太は、あたしを見て息を止める。足も止まった。

あたしはどう反応していいか、わからなかった。

先生が変わりに話しかける。


「どう?可愛く仕上がっているでしょう?」


「え、ええ」


兵太は戸惑ったようだ。


「なんか、美園じゃないみたいだ・・・」


あたしは赤面して下を向いた。


・・・兵太も、カッコイイよ・・・


心の中でそっとつぶやく。


「さ、それじゃあ、プロムコサージュとブートニアをお互い付けて」


兵太はあたしの左手にプロムコサージュを、あたしは兵太の胸にブートニアを着ける。

それを見て先生は満足気にうなずいた。


「それじゃあ、行ってらっしゃい」


*****


 あたしは兵太のエスコートされるように、彼の腕に右手をからませてパーティー会場に入る。

良かった、まだダンスは始まっていないようだ。


 ダンスに出席するペアは、体育館の舞台の前に集合する。

舞台の上には吹奏楽部が、今日ばかりはオーケストラ形式で演奏をしている。

周囲に綺麗に着飾った男女のペアが大勢いる。

その周囲を、ダンスには参加しない一般生徒が取り囲むようにして、憧れの目で見ていた。

みんなには悪いけど、少し得意げな気持ちになる。


 音楽が始まった。

それぞれの男女のペアが手を取り合って踊る「ソーシャル・ダンス」だ。

兵太は片手であたしの背中に手を回し、もう片方の手であたしの手を取って踊り出す。

あたしも同じようにする。


 う~ん、どうも兵太にダンスの才能は無さそうだ。

周囲に合わせて回転するように踊るが、かなりぎこちない。

時々、他のペアにぶつかりそうになる。

それにこうして兵太と踊っていると、小学校の時のフォーク・ダンスを思い出してしまう。

あんまりムードは無いかな?


 二曲ほど踊った後、赤御門様と咲藤ミランがやって来た。

赤御門様が兵太に声をかける。


「兵太、天辺さん。良かったらペアを変えて一曲踊らないか?」


 どうやらあたし達のぎこちないダンスを見るに見かねて、エスコートしに来てくれたようだ。

なにせあたし達は、他の人にぶつかること五回、互いの足を踏んでしまったことが八回だ。


「あ、はい。俺は構わないです。美園が良ければ」


あたしは咲藤ミランの方を見た。


「いいんですか?せっかくのダンス・タイムなのに」


咲藤ミランも笑顔で言う。


「そんなこと、気にするな。せっかくのダンスなんだ。同じ相手とだけではつまらないだろ?」


 こうしてあたし達はペアを変えて、一曲踊ることになった。

赤御門様とあたしがペアになったと解ると、周囲の女生徒から一瞬どよめきが起こる。


・・・悪かったな、不釣合いで!・・・


 そしてにしても、あの赤御門凛音様とダンスできるなんて。

入学当初のあたしが知ったら、卒倒しそうな状況だ。

彼の完璧なほどの甘いマスクが身近にある。

そして細身ながらも引き締まった長身の身体。

 うう、やっぱ少しクラッと来てしまう。


 さすがに赤御門様のダンスは優雅で華麗だった。

エスコートされているあたしの方も、自然とレベルが上がっていく。

 まぁ仕方ないか。

これは兵太が悪いんじゃない。

赤御門様のレベルが上すぎるのだ。


「そうそう、そんな感じのステップで。天辺さん、上手いよ。飲み込みが早い」


そうアドバイスしてくれた後、赤御門様はそっとあたしに囁いた。


「天辺さんのお陰で、僕とミランは素直になることが出来た。感謝しているよ」


「そんな・・・あたしは何もしてないですし・・・」


「いや、天辺さんがいなかったら、僕とミランは今頃付き合っていなかったよ。お互い、変な意地を張っていたと思う。幼なじみを『好きだ』って認めるって、意外に勇気がいる事だよ。君と兵太にはその勇気を貰ったと思っている」


そしてその視線が、咲藤ミランと兵太の方に向けられた。


「今日こうして、彼女とペアで参加できたのも、天辺さんのお陰だと思っている。ミランもね。本当にありがとう」


 なんか、そんな風に言われると照れるなぁ。

あたしは当初、咲藤ミランさえ敵視して、赤御門様にアタックしていたのに。


 あたしも兵太と咲藤ミランのペアに目を向けた。

彼女の身長は174センチ。

対して兵太の身長は169.5センチしかない。

(最近はもうちょっと伸びて170センチを越えたらしいが)


 よって咲藤ミランの方が、一目でわかるくらい背が高い。

まるで

「ママにダンスを教えてもらっている中学生」

みたいだ。


あたしは思わず小さく吹いてしまった。

この続きは、明日9月13日(金)朝7時過ぎに投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ