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3、バレンタイン・オブ・ザ・リビングデッド(ステージ5)

慈円多学園のバレンタイン。

それは『カップルから彼氏を奪い取る、過激なサバイバル・ゲーム』だった。


意中の男子の口に、チョコレート・ケーキを当てる事が出来れば、

その女子は『一週間の恋人』になれる。


当然、カップルとなっている彼女は、それを黙って見ている事はない。

高性能のウォーターガンを手に、彼氏に群がってくる女達を倒さねばならない。

ウォーターガンに込められたミント・ジュースを敵に当てる事で、相手の女は失格となる。


今回のバレンタイン公式戦で

「兵太にチョコレート・ケーキを渡したい!」

と意思表明した女子は24名。


美園はこの24名の魔の手から、兵太を守りきれるか?

残る敵は12人。

「美園!」


背後から誰かがあたしを呼んだ。


 振り返ると同じクラスの女子、学級委員でもある佐野美香子が走ってくる。

あたしは思わず右手のライフルを彼女に向けた。

だが美香子は平然と近づいてくる。


「ちょっと、あたしにまでソレを向けるのは止めてよ」


彼女は近寄ると、あたしに両方の手のひらを見せ、何も持っていない事を示した。


「なに?なんの用?」


それでもあたしの声は尖っていたかもしれない。

今は戦闘モードに入っていて、かなり気が立っていたのだ。


「美園に情報を持って来たんだよ」


「情報?どんな?」


「その前に、その銃を下げてよ。なんかわたしが疑われているみたいで落ち着かないじゃない」


美香子はそう言うと左手で、あたしのライフルの銃口を床に向けて押し下げた。


 すると次の瞬間。

美香子が右手を振ると、一瞬にしてそこにチョコレート・ケーキが出現していた。

だが学食で販売されているモノより、二回りは小さい。


 これは手品でカードなどを一瞬で消したり、また出現させる技だ。

手の甲に対象物を隠すテクニック、『バック・パーム』と呼ばれている。

美香子はそれを応用し、ケーキを手の甲に隠せるサイズにリサイズしていたのだ。


 美香子はその小さいチョコレート・ケーキを平手撃ちの要領で、あたしの顔に叩きつけようとした。

だがその手が腰の位置で止まる。


あたしが左手でハンドガンを、彼女の腹部に押し当てていたからだ。

あたしは美香子の左耳に顔を近づけると、囁くように言った。


「七海が教えてくれていたんだ。『同じクラスの子でも油断するな』って」


美香子は硬直したように動かない。

あたしはさらに言葉を続けた。


「来るなら美香子だと思ってたよ」


「クッ!」


美香子が強引に身体を回転させ、右手のケーキをあたしにぶつけようとする。

だがあたしが引き金を引く方が速い。

おまけにあたしは美香子の左側にいる。


「勝負アリ!」


先の曲がり角にいた審判員が叫ぶ。


あたしは呆然としている美香子に言った。


「声なんか掛けずに、そのトリックでいきなりあたしに攻撃すべきだったね。『雉も鳴かずば撃たれまい』ってね」


 その時だった。

廊下の窓に、突然逆さ吊りの女が現れたのだ!


・・・しまった!・・・


ここは三階だ。

まさか窓の外から攻撃してくるヤツがいるとは思わなかった。


・・・スパイダーマンかよ・・・


マズイ事に、兵太はあたしより窓側にいた。

つまり兵太をガードする者は誰もいない。


 そこからは、まるで時間が引き伸ばされたかのように、全てがスローモーに感じる。


逆さ女は、その回転する勢いのままに、兵太に向かって何かを投げつけようとした。


あたしはすかさず、兵太の肩に左手を掛ける。

そのままジャンプした。


逆さ女が右手を伸ばす。

その手から黒っぽい物体が放たれる。


あたしは兵太の肩を支えにして、彼の頭上を飛び越えた。

右足を弧を描くようにして回し蹴りを放つ。

飛んできた黒い物体を、見事にあたしは右足の甲で捕らえた。

サッカーのボレー・シュートの要領だ。


「でやぁっ!」


チョコレート・ケーキは弾き飛ばした。


そのまま兵太の頭上を飛び越えたあたしは、右手のライフルを構える。

肩から落下しながら、引き金を引いた。


「ブーンッ」


この状況ではマヌケに感じるほど、不釣合いなモーター音が響く。

だが発射されたミント・ジュースは、まるでレーザービームのように一直線に飛んで、窓から廊下に入って来ようとしていた逆さ女の胴体を直撃する。


・・・あたしの勝ちだ・・・


そう思いながらも、肩から床に落下したあたしは、そのまま一回転すると、膝撃ちの構えでライフルを逆さ女に向ける。


「しょ~ぶぅ、アリィィィッツ!」


先ほどと同じ審判員の声が、やはり間延びしたのように、あたしの耳に届いた。

その声を合図に、時間が元に戻る。


 窓から入ってきた逆さ女は、廊下に降り立つと、腰につけていた落下防止用のロープを外した。

こっちを見ると、ニッコリと笑う。


「さすがね、天辺さん。体操部のあたしを上回る動きだったわ。まさかあの位置から、中上君を台にして飛び越えて、あたしのケーキを蹴り飛ばすなんて」


「そりゃどうも」


あたしは立ち上がると、そう言った。


 自分でもさっきの動きは『ゲームが原作のゾンビ映画に出てくる、アクション女優並の動き』だったと思う。

もっとも9割マグレだが。


「あなたがいたんじゃ、中上君は諦めるしかなさそうね」


逆さ女はそう言って肩を竦めると、その場から立ち去って言った。


「ホント、美園。今の動きは凄かったよ」


横で見ていた佐野美香子もそう言った。


「だけど気をつけて。この先では、残りの連中が集団で美園を待ち構えているらしいから。あたしはそれも伝えに来たんだよ」


「わかった。ありがとう。一応、礼を言っとくよ」


あたしはライフルとハンドガンを確認しながら、そう答えた。


「ここまで来たら、絶対に誰にも中上君を取られないでよ!あたし達E組女子の名誉に賭けても勝ち抜いて!」


美香子は、そんな変な激励をして立ち去って行った。


 あたしは特別教室の先の廊下を見つめた。

ここまで倒した敵は14人。

つまり棄権者が居なければ、この先の短い間に十人もの恋愛ゾンビ共が待ち構えている訳だ。


 あたしは気を引き締め直した。

ヘタしたら、来年はあたしが『恋愛ゾンビ』の仲間入りだ。

絶対にこのゲーム、勝ち抜かないと。


「しかし、想像以上にすごい戦いだなぁ。ここまで過激だと思わなかった」


 兵太が今更ながらに驚いたように言った。

あたしは小さく舌打ちをする。


 あったり前だろうが。

ここは慈円多学園。

女を磨く、いわゆる『女塾』だ!

『女子たるもの、野獣であれ!』がモットーの学校なんだぞ。

(もっとも野獣どころか、『ゾンビ』か『女戦士』になりそうだが)

何を呑気なことを言ってやがる。

『女子が男子の倍以上いる、只のハーレム学園』とでも思っていたのか?


 あたしは兵太の発言は無視して、先に進み始めた。

ヤバイ、この過激な戦闘でエキサイトしてるのか?

あたしのセリフが過激になってる・・・

この続きは、本日夜の21時過ぎに投稿予定です。

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