3、バレンタイン・オブ・ザ・リビングデッド(ステージ3)
慈円多学園のバレンタイン。
それは『カップルから彼氏を奪い取る、過激なサバイバル・ゲーム』だった。
意中の男子の口に、チョコレート・ケーキを当てる事が出来れば、
その女子は『一週間の恋人』になれる。
当然、カップルとなっている彼女は、それを黙って見ている事はない。
高性能のウォーターガンを手に、彼氏に群がってくる女達を倒さねばならない。
ウォーターガンに込められたミント・ジュースを敵に当てる事で、相手の女は失格となる。
今回のバレンタイン公式戦で
「兵太にチョコレート・ケーキを渡したい!」
と意思表明した女子は24名。
美園はこの24名の魔の手から、兵太を守りきれるか?
残る敵は22名。
踊り場から三階に向かって階段を昇る。
・・・ここにはゾンビ共はいないだろう・・・
そう考えていた。
敵である『恋愛ゾンビ』は、あまり連続しては出て来ないと考えたためだ。
一人目と二人目も、待ち伏せ場所が離れていたし。
それに踊り場で二人目を倒した事で、気が緩んでいたのかもしれない。
何となく階段から出た瞬間だ。
右側の視界で何かが動いた
ハッとして右側を見ようとした時、今度は左側の視界で影が走った。
・・・マズイ・・・
その両側、階段からは直接見えない位置、そこにはそれぞれ女生徒が隠れていたのだ。
左右両方から、二人はほぼ同時にチョコレート・ケーキを投げつけて来た。
あたしはそれを飛び込み前転の要領でかわした。
一回転する間に、右手にはライフル、左手にはハンドガンのウォーターガンを構え、両手を広げるようにして、カンだけで二人を撃った。
「「ビシャッ!」」
ほぼ同時に左右両方から、水飛沫の音が聞えた。
「痛いっ!」
右側の女生徒が悲鳴を上げる。
ミントジュースが目を直撃したらしい。
そりゃ目に沁みるだろう。
「勝負アリ!」
またもや近くにいた審判員の声が聞える。
その直後にスマホの着信音が響く。
『バレンタイン公式戦、一年E組・中上兵太、4/24クリア』
・・・残りは、あと二十人だ・・・
・・・ここで冒頭の部分となる。
背後から襲ってくるヤツはいないようだ。
「行くよ、兵太!」
あたしは小声で、だがハッキリとそう伝えた。
右手のライフルを構え直す。
まだこの学校内に二十人の敵が残っているのだ。
*****
再び、ライフル型ウォーターガンを構えたまま、慎重に廊下を進む。
後ろからは黙って兵太がついてくる。
なんか表情が不満そうだ。
・・・って、あんたが不満になる事じゃないと思うんだが。
あたしの方が不満だよ。
ある教室の前で足を止めた。
いや、止まってしまった。
その教室から、異様な雰囲気が伝わってきたのだ。
言うなれば『殺気』だ。
あたしはその教室の前で、しばらく様子を伺った。
だが誰も出てこない。
・・・気にしすぎだろうか?
そう思った時、教室から三人組の女子が出てきた。
すかさず、ライフルを構える。
「キャッ!」
一人が悲鳴を上げた。
三人とも驚いた様子で身構える。
「ご、ごめんなさい」
あたしは焦りながら、すぐに謝った。
どうやら無関係の人にライフルを向けてしまったようだ。
三人組が立ち去りながら、あたしの方を見ながら話していた。
「なんなのよ、一体、もう!」
「ホラ、あれだよ。バレンタイン・サバゲー。この学校名物の」
「あ~、彼氏持ちにはキツイ話だよね~、アレ」
あたしはホッとした。
確か無関係の人を誤射した場合も、失格かペネルティがあったはずだ。
あたしが銃を下ろして、前に進もうとした時だ。
三人組が出てきた教室から、人影が飛び出して来たのだ。
そのままアンダースローで、あたしに向かって何かを投げる。
とっさにあたしは、上体を反らしながら、左に避ける。
チョコレート・ケーキは、あたしの右頬をギリギリで飛び去っていった。
あたしはそのまま後ろに倒れ込む。
だが上体を反らした体勢でライフルを持ち上げると、そのまま引き金を引いた。
「ビシャッ!」
今度も狙いを外さず、ミント・ジュースが相手の顔面を直撃した。
「グッツ!」
相手は目が沁みる苦痛の呻きを上げた。
背後に倒れたあたしは、素早く後ろにいた兵太の様子を確認する。
大丈夫だ、兵太にケーキは当っていない。
危ない所だった。
敵は、あたしが教室の前で警戒してる事を察知し、誰か無関係の生徒が廊下に出るのを待っていたのだ。
それにうかつにあたしがケーキを避けるのも考え物だ。
背後にいる兵太の顔に当ってしまえば、そこでゲームオーバーになってしまう。
・・・これで五人目・・・
あたしはゆっくりと立ち上がった。
後ろに仰け反りながら倒れたが、首は前を見ていたので、後頭部を打った訳じゃない。
だがピンチはその直後にやって来た。
二台に手押しカートが、廊下の向こう側から迫ってきていたのだ!
すかさずあたしはカートに向けて、ウォーターガンの引き金を絞る。
「ブーン」というモーター音のすぐ後に、「ジャッ!」という水飛沫の音が二回続く。
あたしは目を見張った。
手押しカートの「手押し」の部分には、ダンボールでの防弾壁が設けられていた。
敵の二人は、その向こうに隠れているのだ。
このままでは、カートに隠れて特攻して来る二人を狙い撃つことが出来ない!
あたしは素早く周囲に目を走らせた。
左手に、腰までの高さの消火器ロッカーがある。
その先には胸の高さに窓がある。
敵は右手を出して来た。その手にはケーキが握られている。
もう猶予はない。
あたしはダッシュした。
二歩で消火器ロッカーに近づき、三歩目でロッカーを踏み台にジャンプする。
「ハッ!」
気合と共に、次のジャンプで窓枠に左足をかけ、さらに大きくジャンプする。
その高さは、ちょうど突っ込んでくる手押しカートの真上だ!
あたしは空中で二回、右から左にライフルでなぎ払うように引き金を絞り、撃つ!
「ビシャァーッツ!」
見事に命中!
二人の恋愛ゾンビどもは、突然の上空からの攻撃に驚いたようだ。
あたしは軽やかに廊下に着地した。
ヘヘッ、あたしは足が速いだけじゃない。
走り幅跳びも走り高跳びも、けっこうイケるのだ。
あたしは二人を振り返った。
二人共、悔しそうな顔をして、あたしを睨んでいる。
これでプラス二人撃破だ。
「勝負アリィーッツ!」
少し離れた所にいた審判員が走り寄りながら、そう告げた。
兵太に向かって、ライフルでしゃくる。
「さ、行くよ!」
この続きは本日の午後9時過ぎに投稿予定です。




