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短編集 冬花火

私の欠片

作者: 春風 月葉

 機械の臓器に機械の腕、足も少し前に変えた。

 私は健康に生き続けるために駄目になった部分を機械で補っていった。

 ある日、私は機械の義眼を付けた女の子に出会った。

 可愛いらしい顔をしているので、より機械の部分が目立つ。

 彼女は栗色の長い髪の毛で義眼を隠すようにしていたので、私が彼女のそれに気が付いたのはこの冷たい風のせいだろう。

 彼女が恥ずかしそうに義眼を機械の部分を隠したので、

「どうして隠すのか?」と彼女に尋ねた。

 彼女は言った。

「ではおじ様はなぜ隠さないのですか?」

 私は答えた。

「隠す必要がないからだよお嬢さん。以前までの骨のような手も今はこんなに力強くなり、歩くこともロクにできなかった足だってこうして正常に動くものに変わった。こんなにも素晴らしいものの何を隠し恥じらう必要があるというんだい?」すると彼女は哀しそうな顔をした。

「でも、それはおじ様ではないのでしょう?」私は彼女の発した言葉の意味が解らず、カクンと首を傾げた。

「私の義眼は確かに私の眼の代わりに世界を見せてくれるわ。けれど、どうしてそれが本物だと言えるの?今、私が見ている景色は機械が作り出した幻かもしれないのよ?私の眼に映るおじ様は優しそうな長いお髭を付けたお顔をしているけれど、本当はどんな顔をしているの?私にはそれを知る術もないのよ?」彼女は細く切れそうな弱々しい声でそう言った。

 私は自分の真っ平らな鉄の顔を触った。

 そして思った。

 私は、どこまでが私なのだろうか?

 彼女は言った。

「そんなことを思うと、とても胸が痛くなるの。それなのに、作り物の私の眼は涙を流すことさえできないの。」

 私は自分の頰を触った。

 鉄の擦れる嫌な音がしたが、涙は流れていなかった。

 ポツリ、ポツリと降り出した雨が、私達を優しく包んだ。

 このまま錆びてしまいたい。

 この気持ちは自分のものだろうか…。

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