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余計な物等ない……よね?

美しい夜空を舞う直仁様とボック。しかし彼の表情は一向に優れませんでした。

 ボックは今、ご主人様である「渡会(わたらい) 直仁(すぐひと)」様と、夜の空中遊泳を楽しんでいる最中です。

 いえ、楽しんでいるのはきっとボック一人……もとい一羽でしょう。

 今日は満月。

 ポッカリと浮かんだ真円の玉兎(ぎょくと)。そして雲一つない漆黒の空。

 まるでアニメかマンガ、もしくはSF映画のワンシーンでもあるかのように、 “夜の散歩” をしゃれ込むには完璧なシチュエーション……の筈だったのです。

 しかし直仁様の表情は冴えません。それどころか、不機嫌そうでもあります。

 それは偏に、昨夜に引き続き「仕事」を依頼されたからに他なりませんでした。


 ボックは鳥だから、空を飛ぶのに何の不都合もありません。世には「飛べない鳥」も存在していますが、ボックは羽根を切られる事も無く飼われているセキセイインコ。飛んで当たり前なのです。

 だが直仁様が飛んでいる事には、誰もが違和感を覚える筈でしょう。そんな非常識な事等、そうそうお目に掛かるなど無いからです。

 これも直仁様の持つ「異能力」の一端なのです。


 直仁様が身に付けているオーソドックスな青いデニム・ジャケットは元々丈が短い物が多いのですが、今彼が着ている物は更に短く、それこそ丈が脇の下から15cm程しかありません。

 そしてその下にはハビット・シャツと呼ばれる、近代ヨーロッパで家庭教師が着る様な襟首まで隠された白いシャツを着用しています。胸元にフリル状の装飾が良く見られるシャツですが、直仁様が着ている物は異様にその大きさが目立つ物でした。

 勿論それは、直仁様の特別注文により手に入れた物です。

 さて、ここまで説明すれば大よその察しも付くでしょうが今現在、直仁様は……、


 女装をされている! のです。


 そしてそれこそが、彼の秘めたる能力を発動する条件。

 直仁様は女装をする事により、女装した部位に応じた能力が発現する事が出来るのです。

 今こうしてボックと空を共にする事が出来るのも、直仁様が女性物の衣服を着用しているからに他なりません。

 他にもアンダーは無地で真っ赤なキュロットスカート。昨日は思いっきり冒険して大胆なミニのブルーム・スカートを着用されていた様ですが、流石に恥ずかしかったのでしょう、今日は裾の別れたパンツスタイルに拘っておられます。丈も随分と長い物を選んだようですね。

 そして足元は大きなリボンが特徴のオペラシューズでバッチリと決めています。

 付け爪であるネイルも、イヤリング、そしてメイクまで、今日も直仁様の着衣に抜かりはありません。


 ―――だけど……致命的にファッションセンスが……ありません……。


 今、空を飛んでいる速度も、ボックが余裕で付いて行ける程度でしかないのです。本来ならばジェット機に引けを取らない速度と、ヘリを凌駕する機動性を有している筈なのに。

 直仁様の能力は、ただ女性物の衣服を身に纏えば良いと言うだけの物では無いのです。

 勿論それだけでも力を発揮するのですが、より強力な能力を顕現させるには着用する衣服の “組み合わせ” が重要視されるのです。


 ―――つまり、ファッションセンスが問われるのです。


 直仁様にはそれが致命的に欠けているのでした。

 加えてこの能力を、自身が非常に嫌悪しておられるのです。

 彼に女装癖はありません。至極健全な、一般的な感性を持つ男性なのです。

 そんな彼が、如何に能力を発現する為とは言え女装を強要されるのです。

 彼にはファッションセンスに加えメイクセンスすら皆無であり、依頼がある度に女装し着替え終えた姿を見て溜息をもらしていました。でも女装に興味の無い男性ならば、そうなって当然だろうとボックも思います。

 

 しかし、彼にはそれを相談できる相手がおりませんでした。


 彼は男です。くどい様ですが、本来ならば女装の趣味など皆無なのです。

 彼の普段着は非常に男性的な物であり、彼の肉体美と相まってどの様な服装でも男らしさの際立つ物なのです。

 そしてその風体とかけ離れた童顔が芸術的なギャップを生み、世の女性を引き付けて止まないのです。

 彼と出会った女性の9割は、年齢に関わらず彼に心を奪われるでしょう。決して美男子ではないのですが、間違いなく「イイ男」なのです、直仁様は。

 そんな如何にも男性な彼が、女性用の着衣を身に付けるのです。

 素晴らしい肉体美は、言い方を変えればゴツイ体。その体に女性物の衣服はどう見ても似合いません。特に今着ている物は、着こなしが難しい上に組み合わせもチグハグ。何よりもその体に合っていません。そう、言うなれば……、


 ―――まるでゴリラが無理矢理女性の服を着ている様、なのです。


 それに加えて化け物メイク。一応カツラとウィッグを付けてはいますが、100人中全員が振り返る事でしょう。


 ―――凄い女装した野郎だな……と……。


 ゴテゴテと、とにかく彼の感性で「女性っぽい物」をその時々で選び、手あたり次第身に付けるのです。

 女装するからには、彼の持てる全力を尽くす事は称賛に値します。

 しかし……ボックの目から見ても、とにかくゴテゴテと飾り過ぎな様ですね。バランス等は一切考慮に入れず、一つのアイテムを別々に選んだ結果がこれなのでしょう。


 本来ならばコーディネート出来る人物に任せるのが得策なのですが……。

 彼は「男」過ぎました。そんな恥ずかしい事を、誰かに頼む等出来よう筈も無かったのです。

 そんな事を頼んで、もし「この人、見かけによらずソッチ系なのね」等と思われよう物ならば、彼は血反吐を吐いて卒倒してしまう事でしょう。

 

 こんなに素敵な夜空を誰にも邪魔される事無く飛行していると言うのに、直仁様の表情が優れないのにはそう言った理由があったのでした。


眼下に目的地が見えて来ました。いよいよ「お仕事」の開始です。

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