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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
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新たなる脅威

「スノウさん……俺が守りますから……」

「起きろ! 今すぐ起きなければ、その思いをスノウに告げるぞ!」

「え、あ、あれ?」


 ユウキは目を覚ました。なぜ自分がベッドで横になっているのか、寝起きのせいで把握することができない。


「全く! 鍛練が終わった途端倒れおって。私がここまで運んでやったのだぞ!」

「ええっ!? す、すみません!」


 ユウキはようやく理解した。それと同時に、寝言でとんでもないことを言っていたことに気付き、顔を真っ赤にする。


「もう朝食の時間は終わった。早速だが任務に出てもらう!」

「ええー? 俺もごはん食べないと動けないですよ!」

「現地調達しろ! 木の実でも何でもあるだろう」


 ユウキは残念でならなかった。スノウの作った朝食を是非とも食べたかったからだ。


「それで、任務って何です?」

「いつもいつも連絡をよこさない者がおってな。そいつを探して強引にでも連れて参れ」

「初任務なのに何ですかそれ……。どういった人かもわかりませんのに」

「ハープを持った自己愛主義者の男だ。実力はあるので無事だとは思うが、用があるのでな」


 聞くからに面倒そうなタイプなので、ユウキはできれば行きたくなかった。


「一人では危ないからマリアにも同行させる。では行け!」

「え? ちょっと待ってくださいよ! どこにいるか大体の見当は?」

「そんなものはない! あいつは自由過ぎるからな。さあ、早く行け!」


 あまりの無茶な話にユウキは不満を抱いた。この広い世界のどこにいるかもわからないというのだから当然だ。

 だが、マリアはその任務を引き受けたと言うのだ。ユウキも仕方なく引き受けるしかなかった。


「……行ってきます」

「あまり無理はするなよ」


 どの口で言ってるのかと、ユウキは不平を述べそうになったのをこらえた。

 だが、マリアと一緒なだけましだと、気を取り直して外へと出た。

 入口で待っていたマリアが柔らかな微笑みで迎える。


「マリアさん、おはようございます」

「おはよう。話は団長から聞いたわね? では行きましょうか」

「あ、はい……。でも、どこを探せば……」

「大丈夫、私にはヴィジョンがあるから」


 ユウキは思い出した。自分にこの世界を見せたあの魔法を。


「ヴィジョン! ……あ~、丁度あなたと会った泉に来ているわ」

「おお! さすがマリアさん。それじゃ、行きましょう!」


 ユウキは張り切っていた。今度は前みたいに情けない自分ではない。昨日習得したレイジがあるから今度こそ戦えると。


「置いてくわよー」

「あ、待ってー!」


 妄想に浸っているうちに、ユウキはマリアに距離を離されていた。マリアは足が速いので、うっかりしていると置いていかれてしまう。

 ユウキが小走りでマリアに追いついた丁度その時、町の出口に着いた。


「さ、一歩外に出ればもう油断は命取りよ? いい?」

「今度は俺もちゃんと戦えるから大丈夫です!」

「そう。それじゃ頼りにするわね」


 頼りにするというその言葉に、ユウキは頭が真っ白になった。女性に頼りにされることなど、これまでただの一度もなかったからだ。


「置いてくって何回言えばわかるのー?」

「あああ! 待ってください! 今行きます!」


 慌てて我に返ったユウキはマリアへと駆け寄る。

 そして、森の周辺まで来たその時。


「あらあ? 二人で仲良くどこへ行くのかしら?」


 森の入り口から声が聞こえてきた。記憶に新しい狂気に満ちた声だ。


「その声は……! 隠れてないで出てきなさい!」

「まあ、随分と自信家なのね。今度こそあなたたちに死んでもらうわ」


 そう言い終えた時、黒い女性は突然その姿を現した。


「お、お前は、昨日の死神!」

「あら、そういえばまだ名前を教えてあげてなかったわね。私はアイリス、あなたに永遠の眠りを捧げる愛の女神よ」

「何が愛だ! 勝手なこと言うな!」

「本当のことを言ったまでよ。さあ、お眠りなさい! 秘術の、ブラックパピヨン!」


 ユウキは目の前の光景に目を見張った。アイリスと名乗ったその女性は、背に黒い羽を生やしたのだ。

 前回は使ってこなかった秘術のを開幕早々使ってきた。ユウキはそのことに苦戦を予想し身構える。


「さあ、始めましょう」


 アイリスは優雅に羽ばたき、宙へと浮いた。


「飛んだ!? マリアさん、どうすれば!?」

「慌てないで。アクア!」


 マリアの右手から水が勢いよく放たれた。それを見てユウキは落ち着きを取り戻す。彼女の魔法ならあの高さでも届く。


「秘術の壱、シャドウ!」


 しかし、その攻撃が当たる直前、アイリスは姿をくらませた。そして、少し離れた場所へ再び現れ、ユウキたちを嘲笑あざわらう。


「それなら……!」


 マリアは高く跳躍し、宙を舞いながらもう一度空気を蹴り、より高くまで跳んだ。そして、アイリスへと鉄拳、蹴り、アクアと連続で攻撃を仕掛けた。

 だが、アイリスはその全てをタイミングよく鎌で受けきった。


「ふふ、何をやっても無駄よ? あなたたちは私に勝てない」


 ユウキにはすべがなかった。彼には高いところにいる敵を攻撃する手段がなかったからだ。

 今度こそ戦えると思っていた彼は、またお荷物になるだけの現状がどうしようもなく歯痒はがゆかった。


「大丈夫よ。私に任せて」

「え? でも、マリアさんの攻撃、全く効いてないですけど……」

「そろそろ魔力が溜まるわ。さあ、行くわよ! サンダー!」


 マリアが手を空にかざすと同時に、一筋の雷が轟いた。


「なっ!? シャドウ!」


 惜しくもアイリスはその攻撃を避けた。


「やるじゃない……。上からの攻撃だなんてね。でも、そんなんじゃ私は……」

「今よ! パラリシス!」

「なっ! うぐう!」


 マリアが左手を向けて詠唱した後、アイリスは突然苦しみ出した。宙に浮いているのもやっとのようで、よろけながら徐々に降下してゆく。

 ユウキには何も見えなかったのだが、何らかの攻撃が通ったことは彼の目にも確かだった。


「私の魔法をあなどってくれたわね? そのしびれる体でどこまで戦えるかしら?」


 ユウキは今起きた全てを理解した。マリアが放ったのは麻痺魔法。そして、先程の雷魔法はおとりだったのだ。

 これで少し有利になったかと、ユウキは楽観した。


「……やってくれたわね!」


 アイリスはよろめきながらも必死に体勢を立て直そうとしている。その声には怒りと憎悪がこもっている。

 今がチャンスと思ったマリアは、左手を天高く掲げた。


「今度こそ当てるわ! サンダー!」


 マリアもユウキも今度こそ上手くいったと思った。

 だが、それに反してアイリスは不敵な笑みを浮かべている。まるで、まんまと罠にかかったわねと、そう言わんばかりに。


「ギャア!」


 雷がアイリスを貫いた。彼女の悲鳴が痛々しく響く。


「や、やった! マリアさんの魔法が当たった!」

「喜ぶのは早いわ。何か、企んでるみたい!」

「え……?」


 気が付くと、辺りの空気が淀んでいた。

 焦る二人を見ながら、アイリスがおぞましい笑い声を上げる。


「……気付くのが遅いのよ。今、私はあなたの攻撃を利用し、生贄の儀式を発動した。さあ、二人とも今すぐ楽にしてあげるわ」


 生贄の儀式。その恐ろしい技名にユウキは戦慄せんりつした。


「危ない! 後ろ!」

「なっ! れ、レイジ!」


 マリアが発した警告のおかげで、ユウキはカウンターを間に合わせることができた。

 その一瞬、彼は見た。異形の黒い物体を。


「あ~あ、もうちょっとだったのに……。でも、まだ終わりじゃないわよ?」

「何っ!?」

「ウォール!」


 黒い物体に襲われたマリアは、咄嗟に半透明の壁で防ぐ。その一瞬で黒い何者かはまたどこかに消えてしまった。


「マリアさん、お怪我は!?」

「私は大丈夫! それよりあいつを攻撃して!」

「え? で、でも!」


 攻撃と言われても、相手はどこから襲ってくるかわからない。ユウキはどうすればいいのかわからなかった。

 と、その時。


「あらあ? 遅かったじゃない、ダーク」

「ダーク?」


 アイリスが森の方に向かって話している。


「ああん? 俺はお前とは価値観が違う。面白いことがあるって聞いたから来てやっただけだ」


 最悪の事態を迎えていた。ただでさえ苦戦しているというのに、ユウキたちの前にもう一人の敵が現れた。

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