In the World!
「さて、それでは帰るとするか」
団長の声に、全員が顔を向けた。
「あ、でも団長! あの宿舎じゃ少し狭くなるんじゃないか? 増築が必要だぜ!」
「お主が旅に出ればぎりぎり入るであろう」
「なっ!? 団長、そりゃないぜー!」
「あんたは都合いい時にだけ帰ってくるくせに、こういう時だけ自分の権利を主張しない!」
マリアがゼフュロスにゲンコツを振り下ろした。
「痛い! 痛いよハニー!」
ゼフュロスの相変わらずの様子に一同は苦笑した。
「茶番はこれくらいにして、本部へと戻るぞ。マリア、頼む」
「はい」
マリアはテレポートを使用し、一瞬にして全員を本部内へと移動させた。
「ふむ。誰も入れなかった者はおらぬようだな。結界に阻まれなかったのは改心した証拠と言える」
団長は元ネガティブたちを見回した。
「さて、それではこれからについて話し合うとしよう」
「えー? 帰ってきたばっかりじゃーん! まず休もうぜ」
「あんたは黙ってなさい!」
マリアはゼフュロスにゲンコツをお見舞いした。
「痛いよハニー!」
「それで? 話を戻すけど、アイリスはこれからどうするの?」
「私……マリアお姉さんと一緒に過ごしたいです……。やっぱり、ダメですか……?」
「何言ってるの? もうあなたは私たちの仲間よ! これからはよろしくね」
「わあ……! ありがとうございます!」
アイリスはあれ程までの凶悪さがうそのように消え去り、素直でかわいらしい女の子へと変わっていた。
「アイリスはね、料理が上手なんだよ! 僕たちずっとアイリスに作ってもらってたんだ!」
「ま、マコト様!? 私、そんなに上手じゃありません!」
「私も料理大好きですから、アイリスちゃんと一緒に作りたいです!」
「スノウさん……! 是非、よろしくお願いします!」
アイリスとスノウの料理と聞き、ユウキは妄想を膨らませた。
「ところで、俺は本当にお前とコンビを組むのか?」
「え? 嫌だった? 残念だなー、お前とは息が合いそうだったのになー」
「いや、そうではなく……。俺なんかと組んでもよいのかという意味だ。俺はあんなに迷惑かけたし、才能がないと言われた男だぜ?」
「問題ないさ! あ、でも音量下げてくれよ? ただでさえなんか団長怒ってるからさあ……」
「思い出したぞ! お主ら二人ともあんなに騒がしく戦いおって!」
団長は二人へと怒鳴った。
「なっ!? そ、それはほら! こっちの相方のせいでさー」
「お、おい! 俺のせいにするな!」
「二人ともこの山岳地帯を隅々まで綺麗にしろ!」
「な……!? あの山を全部!? おい、この人はいつもこうなのか!?」
「これ以上余計なこと言うなって!」
ゼフュロスがダークの口を押えた。その様子に一同は再び苦笑を漏らした。
「俺様は壊れた建物を直したり、森や湖を綺麗に掃除したりする。あんな酷いことをしようとしていたのだから、自分でそのけじめはつけたい」
「うむ、自主的でよろしい。ワイルドはそれを頼む」
「私は子供たちへ教育をしようと思う。二度とこのような悲劇を再び起こさぬよう、この世界で共に生きて行く方法について教えるつもりだ。もちろん、まずは私が学ばねばならんが……」
「ふむ。それもよい心がけだな。ジャスティスはそれを頼む」
ワイルドもジャスティスも、今度こそ道を踏み誤らないようそれぞれの誓いを立てた。
「私はどうしたらいいの!?」
「ふむ。お主はエルフであったな。世界ではお主のように差別を受けている種族がいるかもしれぬ。ハイドと共に世界を回り、そうした差別を止めるのだ! もちろん、今回のような戦わざるを得ない状況でない限りは、暴力はするでないぞ?」
「うん、わかった。反省するわ……」
「団長、私がついているから大丈夫だ。この子は守るし、見張る」
「うむ、頼んだ!」
次々と今後について決まってゆく中、マコトは未だ悩み続けていた。
「僕、どうしたらいいのかな? 今回、僕が悪にそそのかされたせいで大変なことになって、本当にすまないことをしたと思っているよ! でも、僕には何ができるのかわからないんだ……」
「ふむ……。私はお主のことをよく知らない。ユウキ、どう思う?」
「それが、団長聞いてくださいよ! マコトも本当は勇者の素質があったみたいなんです!」
「何っ!?」
「俺が使ってた、というか勝手に発動してた受け身技あったじゃないですか。ほら、あの何でも技を打ち消してしまうカウンター!」
「ああ、あったな。それがどうかしたのか?」
「マコトの話によると、あれが伝説の勇者の証みたいなんです! そして、マコトもさっきその技を使うことができました!」
「何!? そうであったか!」
一斉に注目を浴びたマコトは困惑した。
「いや、でも……。それはネロが言っていたことだから、どこまで本当なのかわからないよ?」
「お前も見ただろ? あいつの慌て様! あれは絶対素の反応だって! お前も伝説の勇者なんだよ!」
「本当!? 僕、ユウキ君と同じ勇者になれたの!? ずっと目標にしていたユウキ君に、少しだけ追い付くことができたんだ!」
「そういうことなら話は早い。お主ら二人は伝説の勇者として、世界の平和を守り続けろ!」
「うん、わかったよ! ……あれ? でもそれって具体的に何をしたらいいんだろう?」
首を傾げるマコト。だが、ユウキがすぐさま明るい顔で肩を組んだ。
「それを考えるところから、俺たちの仕事! ですよね、団長!」
「うむ。よくわかっておるようだな」
「はい! もちろんです!」
「それって何だか難しそうだよ……。でも、ユウキ君と二人ならきっと大丈夫だよね!」
「いや、俺もあまり考えるのは得意じゃないんだけど……。こういうのはな、がんばってさえいれば勝手に道が拓けるんだぜ!」
ユウキは親指をグッと突き立てた。
「わあ! そうなんだ! ユウキ君はそうやって僕のことも助けてくれたもんね。元の世界にいた時もそうだし、今回も本当に助かったよ!」
「俺は当然のことをしただけさ。誰かが困っていたら、助けるのが当たり前だろ?」
「やっぱりユウキ君はかっこいいなあ! 僕、君を目標にがんばるからね!」
「ああ! これからもよろしく頼むぜ!」
「……あ、そうだ!」
話が一段落したところで、ゼフュロスが不意に立ち上がった。
「忘れてた。お嬢ちゃん、俺のこともお兄さんと呼んでいいからね?」
ゼフュロスがアイリスへと言い寄った。
「あ、はい。ゼフュロスお兄さん、よろしくお願いします」
「よっしゃー!」
「ゼフュロス! いい加減にせぬか!」
団長はゼフュロスへとゲンコツを振り下ろそうとしたが、寸前でかわされた。
「うおお! 危ない危ない……」
「私、やさしいお兄ちゃんがいたので、ゼフュロスさんがお兄さんになってくれるなら、うれしいです!」
「おお! ポイントゲット!」
「ゼフュロス!」
「ひいい……」
団長が剣を構えたので、さすがのゼフュロスも物陰へと逃げた。
「アイリス、あまりあの人のこと信用してはダメよ? ポジティブ一勝手な男なんだから!」
「そうなんですか? 戦っている時は、とても強い人だなあと思ってましたので、きっとしっかりした方なのだと思ってました」
その予想外の言葉に、数秒の沈黙が流れた。
「え、ええと……。意外と戦いのことしか見えてなかったのね」
「しっかりしたお兄さんだよー! アイリスちゃんは俺が守るからねー?」
ゼフュロスが戻ってきてアイリスの頭を撫でた。
「お主、本当に女の子から好かれたいのであれば、少し修行をしてみぬか?」
「えっ!? 修行!?」
ユウキはその恐ろしい言葉に、我がことのように青ざめ身震いした。
「一応聞くけどさ、どんな修行!?」
「まず滝に三時間打たれ、鉄の板を拳で割り、それから一日絶食だな」
「うわあ! 絶対嫌だ! 俺は旅に出るー!」
「ゼフュロス、ふざけるのもそれくらいにしないと、みんな困るだろ? マコトやダークがとまどっているじゃないか」
ユウキは見かねてゼフュロスをたしなめた。
だが……。
「あ、何だか面白い人だなって思ってたよ!」
「俺はコンビを組むに当たって、こいつの特徴を覚えておきたいのでこれでいいぜ?」
二人はユウキたちの苦労も知らず、呑気な返答をした。
「私も、楽しいのはいいことだと思うぞ。お主、後で一緒に酒を飲まぬか?」
ジャスティスまでもがその話に乗り、団長たちは溜め息を吐いた。
「おお、それはいい! ワイルドも来いよ」
「俺様、あまり人と話したことないんだが……」
「関係ないな! 酒が入れば変わる!」
「あんたは何やっても変わらないわね!」
「ほめるなよ、ハニー!」
「ほめてないわよ!」
「まあ、一旦落ち着くとしよう。皆の者、これからはよろしく頼む!」
「はい、新しい団長! よろしくお願いします!」
元ネガティブたちは団長へと一礼した。
それを見て、ユウキは満面の笑みを浮かべ、そして……。
「俺はこの世界で生きていく。In the World……この世界の中で……」
そう言葉を漏らした。
それを見て、団長が怪訝な反応を示す。
「今更何を言っておるのだ?」
「いいえ。何でもないです! さあ、今日からまたがんばりましょう!」
こうして、世界は新たな一歩を踏み出した。
以上で第一編は終了となります。
第二編のお知らせは活動報告に書かせていただきました。




