最終決戦
「愚かだね……。僕が本気を出せば君たちなんて敵わないってこと、思い知らせてあげるよ」
そう告げると、ネロの体が泡立ち始めた。そして、大きく膨れ上がり竜へと変身した。
「さあ、勝てるもんなら勝ってみせてよ!」
ネロは両の手を前へと構えた。
「随分と自信があるのね」
「もちろんだよ」
「そう……。なら、覚悟してもらうわ」
マリアは予め溜めておいた魔力を開放し、両の手に青いオーラを纏った。
「炎よ、水よ、風よ地よ! 汝の秘めたる魔力を現せ!」
マリアは舞いながら両の手を四方にかざしてゆく。すると、その先に四色の光が現れ、直後に団長のそばへ集まり白く輝いた。
「エレメンタルエクスプロージョン!」
「超必殺技、ロストエレメンタル・ダークネス!」
マリアが放った爆発は、ネロの放ったどす黒い爆発により相殺された。
「……く! 魔力が切れたわ!」
「俺に任せなよ。超必殺技、風の名!」
「無駄無駄! 超必殺技、絶望の名!」
ゼフュロスの放った白い強風は、ネロが翼で起こした黒い強風により相殺された。
「く……! また超必殺技!? あいつ、魔力どうなってるんだ!?」
「残念! 僕が本気を出した今、魔力は無限に溢れ出る! もう僕は止められない!」
「俺も行くぜえ? 超必殺技、風の名!」
ダークも黒い強風を左手に纏ったが……。
「あっそ。超必殺技、エターナルケイジ!」
ネロは黒い巨大な檻を生成し、強風をその中へと吸い込んで消滅させた。
「怯むな! 全員行け!」
団長は指示を出しつつ自らも左手で超必殺技を発動し、突撃した。
「貴様は……ポジティブの名にかけて裁く!」
「ばっかじゃないの? 君たちじゃ僕に勝てない。超必殺技、森羅万象!」
団長は白銀の雷雲を放った。だが、ネロが右手をかざすと一瞬キラリと黒く光った後に大爆発が起こり、団長の超必殺技を消し去った。
「衝撃がこちらに来ないだけまだ救いがあるな。超必殺技、因果応報!」
「救いなんてないよ。超必殺技、十如是!」
ジャスティスも黄金の雷雲を放った。だが、ネロは足元から黒い水晶を生じさせ、そこから氷や炎、雷などを自在に呼び出し撃退した。
「私たちも行くわよ!」
「ああ、二人同時なら倒せるはずだ!」
ハイドとネメシスは同時に超必殺技を発動させた。生じた二つの小宇宙は、ネロを飲み込もうとする。
だが……。
「無関係だよ。超必殺技、虚無!」
ネロが右手をかざすと、どこまでも深い闇が広がり小宇宙を飲み込んだ。
「まだいます! 超必殺技、大懺悔!」
スノウは勢いよく両の手を地へと突いた。彼女を一瞬にして強力な光が包み込み、それはネロへと向かって放たれた。
「早くあきらめなよ? 超必殺技、セブンズギルティ!」
ネロは口から黒い炎を吐き、光の爆発と相殺させる。
「俺様をよくも利用したなー! 超必殺技、オールデストラクション!」
「私のことも……許しません! 超必殺技、あの日の誓い!」
「ああもううるさい! 超必殺技、デスクリエイト! 永久の罪!」
ネロはワイルドの突進に対し、地面を叩き付けて生じさせた岩をぶつけ対抗した。咄嗟にワイルドはそれを鉄拳と蹴りで砕くが、それによって超必殺技のエネルギーを使い切ってしまい、飛び退かざるをえなくなった。
アイリスの放った三日月型の赤い光も、爪の一振りによって生じた黒い衝撃波によって相殺されてしまう。
「無駄だって言ってるでしょ? 大体僕がもうこの世界を終わらせてもいいんだよ? というかもうそうしようかな! グリード・フォー・ザ・ワールド!」
ネロは右手に禍々しい闇を纏い、地面を殴り付けた。地中へとめり込んだ右手を伝い闇が流れてゆき、大きな揺れを引き起こす。それにより、全員が転倒した。
「なっ!? 何だこれは!?」
「すごく、禍々しいオーラを放ってます!」
「あいつ、本当にこの世界を壊すつもりだ!」
全員が揺れに翻弄される中、マコトは必死に立ち上がった。
「僕が止める……」
「なっ!? 待て、マコト……!」
「僕だって……世界を救えるんだ!」
マコトは叫びながら剣を天高くかかげた。その途端、誰一人として立っていられなかった程の揺れは何事もなかったかのように止まった。
「あーあ、面倒だなあ……。何で負けが決まってるのに抗うのかな? そんなに一秒でも長く生きていたいのかな?」
「いいや、俺たちはもっとずっとこの世界で行き続ける!」
ユウキはネロへと剣を向けた。
「何でお前はこの世界を独り占めしようと思うんだ!」
「何でって、それが一番だからでしょ? 違うの?」
「違う! 俺たちは、一人一人考え方がみんな違っていて、時々意見がぶつかったりする。けれど、俺たちが住む世界は一つだし、みんな違った見え方がしたとしても、同じこの世界で生きる仲間なんだ! そんな大切な仲間と一緒に過ごす時間の方が、一人で過ごすより何倍もいいに決まっている!」
「……変なの。僕はそんなの認めないよ? 僕はこの世界を丸ごと独占するんだ。みんなは僕のおもちゃになるし、世界は僕の家だよ」
「そんな勝手なこと許さない! 世界は、俺たちみんなの物だ!」
ユウキは左手を天にかざし、眩い光を呼び寄せた。
「お前は絶対に許さない! In the World! この美しく広大でたった一つの俺たちの世界の中で!」
「そんな見え見えのタイミングで……!」
ネロはユウキの超必殺技をけん制しようと構えた。咄嗟のことで、団長たちが援護に回るには間に合わない。
と、その時。
「なっ!? 何だ!? ひぃ!」
突然、空から一筋の白い雷が轟き、ネロは怯んだ。
「終わりだ! ネロ!」
ユウキが左手を振り下ろすと、光は無数の矢となってネロを貫いた。
「イン・ザ・ワールド!」
「グアアア!」
けたたましい悲鳴を上げ、ネロは焼け焦げてゆく。やがて、それは何事もなかったかのように姿を消していた。
「……勝った。俺は、勝ったんだ!」
ユウキはうれしさのあまり拳を空へと突き出した。
「すごいよユウキ君!」
「さすがです」
マコトとスノウが駆け寄り、ユウキを回復した。
「全員無事か!?」
団長が他の者たちに問う。
「こっちは大丈夫です!」
「俺も何ともないぜ」
マリアもゼフュロスも元気よく返事をする。
その一方で、ユウキは腑に落ちない表情をマコトへと向けた。
「なあ、さっきのって一体何だったんだ? あれもお前が助けてくれたのか?」
「さっきの白い雷のこと? あれはきっと、天がユウキ君を真の勇者と認めた証だよ」
「俺のことを……?」
ユウキは自分の手を見つめた。
そこへ団長が歩み寄る。
「その通りだとも、ユウキ。この度の活躍、真にご苦労であった」
「ありがとうございます! ……そっか、俺が今回の事件を解決したんだ」
ユウキは世界に訪れた平和と、それをもたらしたのは自分だという事実を実感した。




