絶望的闇
「さあ行くよ? デスブリング!」
「レイジ!」
ダークブリングよりも巨大な黒い衝撃波がユウキを襲う。その猛スピードに、ユウキはやっとの思いでカウンターのタイミングを合わせた。
「まだまだ行くよ? ハデスゲート!」
「なっ!?」
ネザーワープ同様、闇の中へとネロは姿を消した。
「逃げるな!」
「ディスペル!」
「ぐああ!」
ユウキは不意を突かれ、爪による斬撃を受けた。咄嗟にガードをしたにもかかわらず攻撃が通ったことから、その技をスラッシュと同等の技とユウキは推測した。
「逃げるだなんて人聞きが悪いなあ。僕が君なんかから逃げるわけないでしょ? 少しくらい考えてから発言してよ」
「く……! このっ!」
「ハデスゲート!」
「あ、また!」
ユウキはネロが姿を消した地点を睨んだ。
「ヘルストーム!」
「なっ!?」
再び背後に姿を現したネロは、淀んだ灰色の風魔法を放った。
「く……!」
ユウキはカウンターのタイミングを合わせられないと判断し、斬撃で対抗した。投げ属性の風魔法は、それによって消え去った。
「さあて、いつまでそうしていられるかなー? スカイイズマイン!」
その技名の詠唱と共にネロは巨大な翼を生やした。
「あ~あ、退屈。代わりに戦ってもらおうっと。ソウルドミネーター!」
ネロが右手を真正面へとかざした途端、空間が歪み骸骨が三体現れた。
「ネクロマンシーまで!? こいつ……!」
「ああ、そういう風に呼んでる人もいたね。何かちょっとそそのかしたらさ、簡単に僕のおもちゃになってくれたんだよねー」
「アイリスを……よくも!」
ユウキは怒りを込め、骸骨たちを切り払った。
「あれ? 怒った? あはは、何で? ねえ、何で?」
「お前みたいな腐った奴は、俺が絶対に倒す!」
「できもしないこと言うのやめなよー。それじゃ、面白いのあげるよ。トラップ、ネロヴェール!」
ネロは高速で回転しながら赤紫色のオーラを纏った右手を周囲にかざした。
「何っ!?」
「説明は要らないよね? 君たちがさっき使ってた技だよ。これね、元々僕の技なんだけど、何勝手にいろいろな名前付けて遊んでるのかな?」
「く……! 技の生みの親か!」
「さあて、どこに設置したでしょうか? あははは!」
ユウキもネロが油断している隙を突き、静かにトラップを設置した。
「さて、もう一回骸骨たちにがんばってもらおうか」
ネロは右手をかざし、ソウルドミネーターを再び発動した。
「く……! これじゃ本体に攻撃する余裕がない!」
ユウキはウィンドやライトブリングで骸骨たちを倒してゆく。
「必死だねー。もう少し余裕を持って戦えないの?」
「黙れ! シューティングスター!」
「その技綺麗だからもらうよ! カウンター、デザイアー!」
ネロが右手をかざすと、星形の岩はぶつかる直前に消え去った。
「なっ!? コピー技か!?」
「これいいね。僕こういうの好きだよ? それっ! シューティングスター!」
ネロはすぐさま習得した技を使用し、星形の岩を放った。その速度はユウキが扱うものより格段に速い。
「ウィンド!」
「おおっと、返ってきた。カウンター、カオス!」
風魔法で返したそれを、ネロは黒いオーラを纏って受け止めた。
「これで腕力アップ。すごいでしょ? ねえ、すごいでしょ? 僕何でもできるんだよ?」
「お前は、確かに何でもできるかもしれない……」
「おお、認めたねー」
「だけど、何もわかっちゃいない!」
「……は? 君はさ、僕を怒らせたいのかな? いいよ、戦ってあげるよ」
ネロは一瞬にしてユウキへと接近した。
「行くよ! それっ!」
「レイジ! ……何!?」
ユウキは驚愕した。その目に映った攻撃モーションは煙のように消え、カウンターが不発に終わる。
「それっ! ディスペル!」
「ぐああ!」
「この技もいろんな名前付けてくれていたみたいだけれど、本当はミラージュって言うんだ。どう? 綺麗な名前でしょー!」
「……この!」
ユウキは反撃を試みるも、その斬撃はひらりとかわされてしまう。そして、そのままネロは後方へと跳び上がり再度空気を踏みつけた。そして、その頂点でさらに空気を踏みつけ、より高くまで舞い上がった。
遥か上空まで達したネロは、再び翼を生やしその場へ留まる。
「そうだ。さっきの戦いで少しダメージを受けたままだったね。イモータルパワー!」
ネロの周囲をドクロ型のオーラが漂い、傷を塞いでゆく。
「これで元通りだよ。ますます僕の思い通りだね!」
複数の技とその完成度。マコト同様のレパートリーの豊富さに加え、圧倒的な身体能力。その余りの戦闘力にユウキは戦慄した。
「く……! お前がどれだけ強くても、俺はお前を倒さなければならないんだ!」
ユウキは上空へとライトブリングを放った。
「へえ、じゃあこれどうする? カウンター必殺、イーヴルマインド!」
「なっ!?」
光の衝撃波はネロの纏った闇へと吸収されてゆく。
「あははー。これでしばらく痛みなんかに負けないよー!」
「……だから何だ! 俺はお前を倒す!」
「あーはいはい。それじゃ現実を突きつけてあげようねー。デスブリング!」
「そう何度もやられるか! シューティングスター!」
空から降り注いだ巨大な黒い衝撃波に対抗し、ユウキは星形の岩を放った。それは衝撃波を打ち消しながらネロへと迫ってゆく。
だが……。
「遅いよ」
「なっ!?」
ユウキの背後へ瞬間移動したネロは、一瞬で生成した剣を振り被り、勢いよく切り払った。
「ぐああ!」
ユウキはその技を受け止め損ね、重たい一撃を受けた。
直後、ネロは邪悪でどろどろしたオーラを左手に纏った。
「インフィニティデザイアー!」
その技名と共に、ネロはそのオーラを放った。ユウキはそれを浴び、悲鳴を上げることすらできずに倒れた。
「ユウキ君!」
マコトがユウキに駆け寄る。
「よくも……! ユウキ君から離れろ!」
マコトは剣を振り回し、ネロを一度退けた。
「……う、うう」
「もう終わり? 思ったより情けないんだねー」
マコトとユウキが敗北を覚悟したその時。
「待たせたな、ユウキ! な、こいつは何だ!?」
団長が全員を引き連れ到着した。
「おやあ? 仲間のお出ましかな?」
「ユウキさん! こんなになるまで……!」
スノウが駆け寄り、ユウキを回復した。
「ああ……みんな、遅いですよ……」
「見たところ、あいつが真の悪と言ったところか」
団長は鋭い視線をネロへと向けた。
「そうだな……。なあ、元ネガティブたち、あいつに見覚えあるかい?」
「い、いえ……。誰でしょうか」
「俺様、あんな奴初めて見たぞ」
ゼフュロスの問いに、アイリスとワイルドが答えた。
「あーあ、僕のおもちゃ勝手に取っちゃったんだねー? せっかくみんな面白かったのに、何てことをしてくれたのさ?」
「人をおもちゃだと!? お主、何てことを!」
団長はネロへと剣を向けた。
「団長……何を言っても無駄です。あいつ、人間じゃありません。黒い塊が、化けたんです」
「うむ。こんな奴、人間であろうはずがない! 皆の者、遠慮はいらない! あやつを倒せ!」
団長の指令を受け、全員が戦闘態勢に入った。
「君たちが何人に増えたって、この僕を倒すことなんか不可能さ!」
「そんなことない……! みんなが来てくれたから、今度こそ勝てる!」
「十二人くらい、僕にとっては少ない方だよ。愚かだね」
ユウキたちは最後の戦いへと思いを一つにした。




