悪のポジティブ
ユウキは半ばあきらめつつ、目を閉じた。
だが……。
「消えろ! 何もかも消えろ! あれ? ……消えた!? え? 僕の技が消えた!?」
様子がおかしいことに気付き、ユウキは目を開ける。そこには狼狽する魔物の姿があった。
「俺が……消したのか!?」
「お前は今この技のターゲットじゃなかっただろう!? 自分に対する技でもないのに消せるもんか! それなのに……なぜだ!?」
頭を抱える魔物の向こうで、マコトは驚愕の表情を浮かべて両手を見つめている。
「……ユウキ君」
「ど、どうした!?」
「僕……使えたみたい! パッシブカウンター、バニッシュ!」
「本当か!? マコト!」
「うそだ……うそだ!」
魔物は必死に叫ぶ。
「お前は伝説の勇者ではない! お前が使えるわけないだろうが!」
「ねえ、僕そろそろ怒るよ? 伝説の勇者だって言って散々利用しておいて、いざ才能に目覚めたら否定するなんて」
「怒ればいいだろうが! お前が怒ったところで、お前の使う必殺技はこの世界も壊してしまう! 結局お前には何もできないのさ!」
「……君はそう思うんだねえ? 僕の技は世界を壊してしまうって」
「実際にそうだろうが! 何だよ? 違うって言うんならやってみろよ!」
「……そう、それならやってみようかな?」
マコトに魔力が集まりだす。だが、それは先程までの禍々《まがまが》しいものとは違った。
「さあ、行くよ!」
「お前に何ができるって言うんだ!」
「できる! 僕は、この世界を救える!」
マコトが左手を天にかざすと、眩い光が降り注いだ。
「なあっ!? それはあいつの技!? ぐはあ!」
マコトはユウキの必殺技エデンを使用し、魔物を圧倒している。
「どうだ! 僕にだって勇者の力はあるという証明だよ!」
「うわあ! 溶けるうう!」
魔物は光を浴びて焼け焦げている。マコトはその様子を見て、さらに光の威力を強めてゆく。
「さあ、返してもらうよ! 僕たちの世界を!」
「ぐああ!」
魔物は白煙を上げながら動かなくなった。
「……やった! マコトが勝った!」
「ユウキ君……僕、勝った! 勝ったよ!」
マコトはユウキの元へと駆け寄った。
「これでやっと終わったんだ、何もかも……」
ユウキがそう呟いた時……。
「ふふふ、そうは行かないよ?」
黒い塊は泡立ち、不気味な笑い声が響いた。
「なっ!? あいつまだ!」
「ユウキ君、僕もう限界だよ……」
「ああ。影縫いは解けたし、後は俺に任せておけ!」
ユウキは剣を構え、黒い塊へと歩み寄った。
「お前がマコトを悪の道にそそのかしたんだな? 絶対に許さない!」
「僕に勝てると思っているの?」
「当たり前だ! お前なんかもうただの黒い塊じゃないか!」
「ふふふ、それなら僕の本当の姿を見せてあげるよ……」
途端に黒い塊は膨れ上がり、真っ黒な人型となった。
「はい、完成」
「お前っ!」
「せっかく僕をいいところまで追い詰めたんだから、名前くらい教えてあげるよ。僕はネロ、この世界の全てを手に入れる者だ」
ネロの声が禍々《まがまが》しい唸りを上げてこだまする。
「僕は負けるわけには行かないんだ。この世界の全てを手に入れるためにね」
「そのためにマコトやアイリスたちを利用したのか!?」
「そうだよ。技を教えてあげたのも僕。だけどみんな、勝手に技名付けて遊んじゃってさ。僕、そんなこと許した覚えないんだけどなあ……。まあ、さっきはそいつに合わせて同じ技名名乗ってたけどね」
ユウキはネロの言動から、彼もまた多彩な技を駆使することを読み取り、苦戦を覚悟する。
「さあて、それじゃそろそろ始めようよ。In the World……この美しく広大な世界の中で」
「お前、ネガティブと違ってこの世界を否定しないのか!?」
「そうだよ? だって僕はポジティブだもん。君たちとは違う、悪のポジティブだけどね!」
「……俺は、ネガティブが悪だとずっと思っていた。けど違った。あいつらも、ただの被害者だったんだ! ネガティブもポジティブも、みんなを苦しめたお前を、俺は絶対に許さない!」
「いいよ別に。そんな君も、すぐに僕が支配するだけだから」
「させるか! In the World……この広大な世界は……お前一人のものじゃない!」




