諸悪の根源
凄まじい大爆発は一瞬で止み、巻き起こった土煙が徐々に薄れてゆく。
その中から、二人の負傷した姿が現れる。
「……く! 受けきったぞ、マコト!」
「さすがだね、ユウキ君。だけど、これはまだ僕の本気じゃないんだよ?」
言われなくてもユウキにはわかっていた。今のは飽くまで必殺技。まだマコトは超必殺技を使用したわけじゃない。
「回復させてもらうよ? シェイドムーン!」
「こっちだって!」
二人はそれぞれに自分の傷へと手をかざす。マコトは黒い靄に、ユウキは柔らかな光に包まれ、傷が塞がってゆく。
「回復魔法まで……。ユウキ君はやっぱり強い!」
「お前だって、よくここまで強くなったな。その強い思いを、何で正しいことに使えなかったんだ!?」
「しつこいよ? こうなったらユウキ君に一回黙ってもらうためにも、魔力を溜めて本気の技使ってあげるよ! ファントムダンス!」
「こっちだって! シューティングスター!」
ユウキはまだ超必殺技なんて使えない。マコトにそれを使われる前に勝たなければと、ユウキは決着を焦る。
だが……。
「そろそろ溜まる頃だよ!」
「何っ!?」
「もう少しだけ時間を稼がないとね」
ユウキはマコトの攻撃をカウンターで捌きつつ、反撃の隙を伺い続けた。
しかし、マコトは攻撃の手を緩めることはなく、投げ属性の風魔法と打撃属性の衝撃波を織り交ぜながら追い込んでくる。
やっとの思いで放ったユウキの攻撃も、カウンターに吸収されて虚しく消えてゆく。
絶体絶命の中、さらなる不運が舞い降りた。
「よし! これで準備万端!」
「な!?」
マコトの口からは無情にもタイムリミットが告げられた。
「さあ、世界を一度終わらせようよ! その後で、今度こそ僕が理想の世界を創るからさ!」
「勝手なことを言うな! そんなことさせない!」
「もう遅いよ! 超必殺技、エンド・ザ・ワールド!」
マコトは左手を天高く掲げた。途端に、どこまでも深い闇がその手に集まり、やがて空一面を覆った。
「こ、こんなの……世界ごと壊れてしまう!」
「さあ、行くよ!」
「うわああ!」
マコトが左手を振り下ろすのを見て、思わずユウキは目を閉じた。
あまりの恐怖に避けることすらできないユウキだったが……。
「……な!? 消えた!?」
「……え?」
見渡す限りどこまでも空を覆っていた闇は、綺麗さっぱりなくなっていた。
「今のは……! パッシブカウンター!? 何で……!? 何でユウキ君がバニッシュを使えるの!?」
マコトは顔色を変え、取り乱した。
「な、何だよいきなり!? これ、俺がこの世界に来て最初に使った技だぞ!?」
「……それは、伝説の勇者しか使えない技なはず! どうして……どうして!?」
「それは俺がその伝説の勇者だからだ!」
「あり得ない……あり得ないよ!」
マコトは頭を抱えた。
「いい加減にしろ! マコトはこんな悪い人間じゃないはずだろう!? 目を覚ませ! お前は本当に今まで悪い人間にしか会ってこなかったのか!? いい人間は誰一人としていなかったのかよ!?」
「……いい、人間?」
「そうだ! お前は悪の道を進んではダメだ! 戻ってこい!」
「そんなの……どうやって信じたら……」
ユウキはマコトの反応から、もう一押しだという手応えを得ていた。何か、決め手になりそうなものがないかと必死に思考を巡らせていた時、ふと思い出した。
「マコト」
ユウキはゆっくりとマコトへ歩み寄り、それから……。
「これを見ろ!」
ポケットからランプを取り出し、マコトへと突き付けた。
「これは……?」
「星の涙を入れたランプだ!」
「……綺麗」
「だろう!? このランプだって人間が作った物で、星の涙はこの世界の宝だ! お前は、これを見てもこの世界を終わらせようと思うのか!?」
「……僕は……僕は」
「マコト!」
ユウキはマコトの肩を強くつかんだ。
「……僕は、僕は! うがああ!」
「マコト!?」
ユウキの目の前で、マコトは口から黒い靄を吐いて倒れた。
その靄は宙に浮き、一か所に集まる。
「あ~あ、使えないなあ本当に……」
「誰だ!?」
「僕? 僕もマコトってことでダメかな?」
「何言ってんだ! ただの黒い塊が!」
「そうか、それならこれでどう?」
黒い靄は離れた位置に舞い降りた。それはうねり出し、段々と形が作られてゆく……。そうして、瞬く間にマコトに化けた。
「はい、これでブラックマコト」
「……ふざけてるのか?」
「全然? 僕、今すごく真面目だよ? ねえマコト、こっちに戻っておいで」
その問いかけを聞き、ユウキはマコトへと視線を移した。
「うう……」
「マコト!」
ユウキに揺すられ、マコトはゆっくりと目を開ける。
「いきなり倒れて、大丈夫かよお前!?」
「うん、平気」
マコトは起き上がり、自分に化けた魔物を凝視した。
「やあ! 気分はどうだい?」
「……誰?」
「君の心が生んだ闇さ。言ってしまえば、君と僕は一心同体」
それを聞いて、マコトは嫌悪感を顔に出した。
「こんなの……僕じゃない。確かに僕、世界を憎んだりしたよ? でも、ユウキ君が言ってくれた言葉が胸に響いたんだ。僕は、もうあんなものにはなりたくない」
「そいつの言うことなんて気にしない方がいいよ? ねえ、もう一度僕と夢を見ようよ」
「……嫌だ、もう闇には落ちたくない。僕は自分の弱さに負けてしまったから、君に利用されてしまったんだね……。でも、もう負けないよ?」
「へえ? 僕に勝てると思っているんだ?」
魔物は背中の剣を抜き取り、左手に構えた。
「マコト、俺も手伝うぜ!」
ユウキはいち早く剣を魔物へと向けた。
「……ごめんね、ユウキ君。僕はどうしても弱い自分に打ち勝ちたいんだ。だから、見守っていてくれないかな?」
「マコト……」
「大丈夫! 絶対に勝つよ! だってこれは、弱い僕なんだもん」
マコトは意を決し、剣を魔物に向けた。
「言ってくれるね。すぐに後悔させてあげるよ」
「僕は弱い僕になんか負けない!」
「それじゃ、たっぷり悔やんでもらおう!」




