至高の戦い
「困ったなあ……。どうすればいいんだろう?」
視界を封じられたマコトは立ち往生する。だが、それはユウキも同じだった。
「あ、そうだ! 僕はこれでいいんだった! アウェイクン!」
「なっ!? しまった!」
「さあ、ユウキ君が攻撃してこない間にどんどん強くなっちゃうよ?」
マコトはお互いに攻撃を仕掛けられないのをいいことに、アウェイクンを重ねがけする。
「やめろ! ライトブリング!」
「そんな適当に撃っても当たらないよ? ついでにこれも出しておこうかな。ファントムダンス!」
マコトは骸骨を召喚し、手あたり次第に攻撃する。
「さあ、どうするのかな?」
「捕まえられるものなら捕まえてみろ! テレポート!」
ユウキは瞬間移動を駆使し、小刻みに居場所を変え続ける。
「そっか、さすがユウキ君だね!」
焦るユウキとは対照的に、マコトは余裕を見せる。
それでもユウキには成す術がなく、ただ逃げ回るしかなかった。
と、その時……。
「あ、見えるようになったよ!」
絶望的な言葉がマコトの口から発せられた。
「ユウキ君、見ーつけたっ!」
「く……! テレポート!」
気配を頼りに瞬間移動でマコトの攻撃を避ける。
自分だけが視界を失ったままという劣勢の中、ユウキはあることに気付く。トラップにかかったのはほぼ同時だったのだから、そろそろ自分もその効果が解けるのではないかと。
ユウキは不意を突こうと剣を構えた。
「……行くよお!」
声がした瞬間、ユウキの視界が回復する。
マコトは目の前で剣を振りかぶっていた。
「うわあ!」
咄嗟にユウキはスラッシュで迎撃した。
「痛い! あれれ? ユウキ君もトラップの効果、切れたんだー?」
「ああ、ここからが勝負だぜ!」
ユウキは剣を振りかざし、マコトへと突進した。
「接近戦だね? 負けないよ!」
マコトもそれに応じ、剣を真っ直ぐにユウキへと向ける。
「食らえ!」
「カウンター、サタンズマインド! ……あれ?」
マコトの目に映るユウキの攻撃モーションは煙のように消え、カウンターは不発に終わった。
「かかったな!」
「ううっ!」
その隙を突いてユウキの攻撃が通った。
それにより怯んだマコトはネザーワープで一旦距離を取る。
「……ユウキ君もその技を!?」
「ああ。マスターしておいたぜ!」
「すごいなあ。何日かでマスターしたってこと!? アイリスたちに聞いたけど、以前の戦いでは使ってなかったそうじゃん」
「それがどうかしたのか?」
「僕はその技を覚えるのに二ヶ月かかったんだよ?」
ユウキはその言葉に驚く。これ程までに様々な技を使いこなすマコトでも、習得までにそんなにかかった技。それを自分はたった一瞬で身に着けたということに。
「ユウキ君はやっぱりさすがだよ。でもね、僕だって負けないようにいっぱい努力したんだ! だから、僕は負けない!」
マコトは再び攻撃態勢へと入った。
ユウキもそれに応じ、接近戦を繰り広げる。だが、アウェイクンによって強化された優位性が如実に現れ、徐々に追い詰められてゆく。
ユウキの脳裏に敗北がちらついたその時、同時にあることを思い出した。
「パラリシス!」
「なっ!? う……ぐ!」
ユウキの放った麻痺魔法により、マコトの動きが鈍る。
「こんな技まで……!?」
ネザーワープで飛び退いたマコトが驚愕の声を上げる。
「思い出したんだ。俺もイミテーションでマリアさんから技をもらっていたことを」
「うぐっ……。それなら!」
マコトは指を鳴らし、骸骨たちを召喚した。
「時間稼ぎか……!」
ユウキは襲い来る骸骨たちを遠距離技で処理してゆく。だが、すぐさまマコトは新たな骸骨たちを召喚し、ユウキが対応を追われる隙にアウェイクンをかけ直す。
「どうする? このままじゃ僕が麻痺から回復した時には、今度こそユウキ君は打つ手なしになるよ?」
「く……! それなら俺も、アウェイクンを使うまでだ!」
「なっ!? ユウキ君も使えるの!? さっきまで、そんな様子なかったじゃない!?」
「やってみないとわからないだろうが! 行くぞ! アウェイクン!」
ユウキは左手を空高く掲げ、強く握り締めながら引き戻した。すると、彼の体は青いオーラに包まれた。
「……そんな、本当に発動している!?」
「これでこっちも強化されたぜ!」
ユウキはさらにアウェイクンを発動し、自身を強化する。
「そんな……。そんなわけない! たった一回で、覚えられるわけが!」
「俺は今までもこうして一回で覚えてきたんだ! 俺は、伝説の勇者なんだからな!」
「伝説の勇者!? それは僕だ!」
「何!?」
「僕は伝説の勇者だって言われて、ここまで強くなったんだ! 技だってこんなにたくさん覚えることができたし、これは勇者としての才能なんだよ!」
「俺だって同じだ! 団長やマリアさんに伝説の勇者だって言われて、技だってたくさん覚えた! 俺が伝説の勇者なんだ!」
「違う……! 絶対に違う! 僕が……僕が伝説の勇者なんだ!」
マコトは首を左右に振り、大声で叫んだ。
「僕が伝説の勇者じゃないなら、今まで僕は何を信じてここまで来たのさ!?」
「だから何度も言っているだろう!? お前は間違っている! きっと誰かに騙されているんだ!」
「そんなわけない! 僕は……僕はー!」
「マコトー!」
マコトは黒い衝撃波を見境なく連射した。
「目を覚ませ! イミテーション!」
「なっ!?」
ユウキはそれをカウンターで吸収し、一時的に習得する。
「自分で自分の技をよく見てみろ! ダークブリング!」
「……カウンター、サタンズマインド!」
マコトは自分に向かってきた黒い衝撃波をカウンターで受け止めた。
「なあ、お前こんな力が本当に正義だと思うのかよ!? こんなどす黒い闇が、正義だと思うのかよ!?」
「僕にはもうわかんないよ! 僕は、言われた通りにしただけなのに! なのに!」
「それは誰に言われたんだ! 答えろ、マコトー!」
「僕は……僕は! 間違ってなんかいないいい!」
マコトはおぞましい程の魔力を身に纏った。
「僕は、世界を終わらせて、もう一度創り直すんだ! 必殺、インフェルノ!」
「そんなの絶対間違っている! 必殺、エデン!」
マコトは全身から真っ黒い地獄の炎を噴き出させる。ユウキもそれに対抗し、眩い光を放った。
二つの必殺技はぶつかり合い、大きな爆発を生んだ。




