表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
44/55

ハイド対ネメシス

「さて、うるさいのがいなくなりましたね」


 次の階へと向かう最中さなか、ユウキが団長に言った。すでに階段を半分程登ったところだったが……。


「聞こえてるぜー!」


 すぐさまゼフュロスの声が返ってきた。


「しまった……。そういえば地獄耳なんだった」

「まあ、普段は問題児だが、今回はしっかり勝ってくれたのでな。よしとしよう」

「そうですね。残り半分も早く改心させましょう!」

「うむ、そうだな」


 ユウキと団長は張り切って階段の先へと足を進めた。

 そして、次のフロアの扉を開けると……。


「あ、来たわね! ってちょっと! 何でユウキ以外もいるのよ!」


 待ち構えていたネメシスが、これまで戦った三人と同じ反応を示す。


「ダークの言葉を借りるわけじゃないけど、そろそろこのリアクション飽きてきましたね」

「うむ。まあ、致し方なかろう。彼女らにしてみれば、予定外のことであろうからな」

「何よ!? よくわからないけどばかにされているみたいで腹立つわね! ユウキ以外が通るって言うなら、私が叩き潰すわよ!」


 ネメシスが青く透き通る刃を構え、鋭い視線を向けた。


「いよいよ団長の出番ですね!」


 ユウキがそう言った瞬間。


「いや、ここは私が参る」

「わあっ!」


 突然背後から聞こえた声に、ユウキは驚くあまり転んでしまった。


「……どうかしたか?」

「痛た。完全に忘れてましたよ……。ハイドさん、一言も話さないから」


 当然、今までの戦いも共に見守ってきたのだが、彼は気配を消していたためユウキに忘れられていたのだった。


「団長、あの者は私が相手しよう。良いか?」

「ふむ。任せた」

「では参る」


 ハイドはネメシスに向かって歩き出した。


「何よ? 人のまねしかできないあんたが私に勝とうって言うの?」

「何かを学び取るということは、すなわち人をまねるということ。それは何も恥ずべきことではない」

「……よく言うわ。技術だけでは飽き足らず、何もかもを奪わなければ気が済まない蛮族のくせに!」

「はて、何のことだ?」

「とぼけたって無駄よ。人間なんて、みんな同じよ……。知っているんだから!」


 ネメシスは戦闘態勢へと入った。


「ふむ、刃を交わらせるしかないようだな。In the World……このにぎやかな世界の中で」

「覚悟しなさい……。あんたの命を以てして、贖罪しょくざいとしてあげるわ! In the World……この孤独な世界の中で!」


 宣言後、数秒の沈黙が流れる。

 そして……。


「では行くぞ! 忍術、雲隠れ!」

「許さないわよ! 木の葉隠れ!」


 煙のように姿を消したハイドへと続き、ネメシスも周囲に木の葉を乱舞させ、姿を消した。


「そこだ! 斬風!」

「スラッシュ!」


 ハイドの放った衝撃波は斬撃により防がれた。


「……どこに現れるかよくわかったわね」

「団長の見ている前で失態などするわけには行かぬ。この勝負、悪いが勝たせていただこう」

「あんたと私じゃ賭けているものが違う。重みが全然違うんだ!」


 ネメシスは胡蝶の舞を使用し、宙へと舞った。


「ふむ、空中戦か」


 ハイドもそれに応じ、風乗りを使用し宙へと浮く。


「さあ覚悟なさい!」


 ネメシスは瞬時にハイドへと接近し、青く透き通る刃で何度も切りつけた。その攻撃は目にも留まらぬ速さで行われたにもかかわらず、ハイドはその全てを受けきり反撃に出た。


「甘い!」

「く……! なかなかやるわね」


 ネメシスは後退し、ハイドを中心として円を描くように飛び回った。


「お主の考えはお見通しだ。そうやってトラップをばらくつもりであろう? それならばこちらも……」


 ハイドも敵の行動に対抗し、不規則に飛びながらトラップを設置して回った。


「まねばかりして……頭にくるわね!」


 ネメシスは怒りを抑えつつ地へと降り立った。


「降りてきなさい! 卑怯者!」

「ふむ、ならばあえてそれに乗ろう」


 ハイドもネメシスと少し離れた位置へと降り立った。


「さあ、覚悟なさい!」


 ネメシスは刃を構え、襲いかかった。

 だが……。


「な、何よこれ!?」


 その一瞬で、ハイドは分身を無数に作り出していた。


「これでも私は一応、お前と会う前からずっと忍者として生きてきた。お前から学び取ったいくつかの忍術も、それら基盤となるものがあってこそだ」

「調子に乗るなー!」


 ネメシスは驚くべき速度で次々と分身を攻撃して回った。そして、最後の一つを貫いた。


「……本体が、いない!?」


 ネメシスは辺りを見回したが、どこにもハイドの姿はなかった。


「忍術、隠れ身! どうだ、どこにおるかわからぬであろう?」


 どこからともなくハイドの声が響き渡った。


「出てきなさい! 卑怯者!」


 ネメシスは手あたり次第に虚空へと衝撃波を放った。


「ふっ、当たるわけが……オワァ!」


 突如、ハイドの叫び声が響いた。そちらへと向けたネメシスの目には、花びらと共に吹き飛ばされる彼の姿があった。

 斬風を避けた先に仕掛けてあったネメシスのトラップに引っかかったのだ。

 さらに、ハイドは吹き飛ばされた先で動きを封じられた。その周囲には白いキノコが輪のように囲んでいる。


「まんまと罠にかかったようね。どう? 私の桜吹雪と妖精の輪のお味は?」

「く……無念」

「蛮族! 覚悟!」


 ネメシスは勢いよく跳び上がり、宙を舞いながら再度空気を踏みつけた。

 一瞬にしてハイドの目前へと迫りそうに見えたその時……。


「な!? キャアア!」


 ハイドが予め仕掛けておいたトラップにより、ネメシスは吹き飛ばされた。


「未熟者め」

「痛た……。よくも!」


 地へと叩き落されたネメシスは起き上がろうとしたが……。


「な!? 動けない!?」

「突風で吹き飛ばされる先を計算し、影縫いを設置しておいた」

「く……よくも!」


 二人同時に身動きが取れなくなり、硬直状態に入った。

 罠の効果時間が解けるその一瞬に備え、二人は神経を研ぎ澄ませる。

 そして……。


「時は来た! 斬風!」


 一足先に呪縛から解かれたハイドが、落下しつつ衝撃波を放った。


「動けない隙を突いたつもり? 残念! こっちも解けたわ!」


 ネメシスも衝撃波を放ち、相殺した。


「行くぞ!」

「いい気になるんじゃないわよ!」


 ハイドとネメシスはお互いに駆け寄った。

 だが……。


「痛っ!」

「痛た! 何よこれ!?」


 まきびしと棘の実。ハイドもネメシスもお互いのトラップに引っかかり、足をさすっている。


「く……許さない! 斬風!」

「む? しめた! 忍術、転換!」

「えっ? キャアア!」


 ハイドはお互いの位置を変えることにより、目の前に迫っていた衝撃波を相手に浴びせた。


「よくもやってくれたわね!」


 ネメシスは刃を構え、ハイドへと瞬時に迫った。そして、目にも留まらぬ斬撃を放った。

 だが……。


「連撃!」


 ハイドも同じ技を使用し、全て受け止めた。


「隙あり!」


 ネメシスは技を先に出した一瞬の優位を利用し、続けざまに刃による突きを放った。

 だが……。


「バック転!」

「なっ!? 避けるな!」


 ハイドはネメシスの攻撃を反転して避け、同時に自らが攻撃態勢に入った。

 そして、素早く突きを放ったが……。


「花の舞!」

「なっ!?」


 ネメシスは回転しながら後退し、攻撃態勢に入った。

 そんなやりとりを何度か繰り返し、お互いに相手の技が中々当たらない。

 状況を打開するため、二人はお互いに一度距離を取った。

 そして……。


「覚悟!」


 ネメシスは瞬時に間合いを詰めた。


「アクワイアー!」


 ハイドは自分の目に映った敵の斬撃に合わせ、カウンターを発動させた。

 しかし……。


「何っ!?」


 その斬撃はハイドの目の前で消えた。


「かかったわね!」


 その一瞬の隙を突き、ネメシスは真の攻撃をハイドへと放った。


「グワァ!」


 そして、痛みに怯んだハイドへと斬撃と蹴りで追撃し、締めに両の手で勢いよく張り倒した。


「く……!」


 ハイドは即座に起き上がり、態勢を立て直した。

 そして、構えた刃でネメシスへと襲いかかる。


「見え見えよ! アクワイアー!」


 ネメシスは自分の目に映った刃に合わせ、カウンターを使用した。

 だが……。


「なっ!? うそでしょ!?」


 その斬撃はネメシスの目の前で消えた。


「隙あり!」


 ハイドの連撃がネメシスへとクリーンヒットした。


「キャアア!」


 連続攻撃の末に投げ飛ばされたネメシスは、起き上がるなりハイドを睨みつけた。


「私の幻影と同じ技!? そんなものまで……!」

「フェイントと名付けた。簡単だったのでな、私の技のラインナップに加えさせてもらった」

「どこまで私をばかにすれば気が済むのよ……!」


 ネメシスは怒りと憎悪を声に宿し、刃を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ