ダークの夢
十秒にも満たない必殺技は、ユウキたちにとっては長く感じられた。
「……ちっ! 魔力切れだ!」
「よし、耐え切った! 団長ー! 大丈夫かー!?」
「お主ら二人とも静かに戦え! うるさくて耳が壊れそうだ!」
「そんなこと言ったって、仕方ないだろう!?」
「ふ、あいつらが邪魔なのか? 消してやってもいいぜ?」
ダークが不敵に笑う。
「ばか言ってんじゃねえよ! 俺の大切な仲間だ!」
「またつまらねえ冗談を……。仲間なんて、ただの幻想だろ? それっ! ダークブリング!」
「そんなわけあるか! アクア!」
ダークの放った衝撃波をゼフュロスの水魔法が相殺した。
「音がダメならこれならいいよな? 今度はこっちからだ!」
ゼフュロスは深く息を吐き、両腕を交わらせつつ見えない剣をつかんだ。
「行くぜ! 必殺、ソードジャグリング!」
「こっちも行くぜ? 必殺、ソードジャグリング!」
二人は舞い踊りながら剣をつかんでは投げつける。そして、飛んできた剣を回転しながら自身の剣で受け止め、さらに接近し切りつける。
ユウキたちにその刃は見えないが、鳴り続けてやまない金属音からその応酬の激しさは伝わっていた。そのことから、先程までは助けに入る気満々だったユウキは考えを改める。下手に加勢すると危険であり、ゼフュロスの邪魔になりかねないからだ。
「やるじゃねえか。でも、そろそろ終わりにしようぜ?」
「何!?」
「もう飽きた。だから終わり。残念だが、時間切れって奴だ。まあ、お前じゃ不充分だったってことだ」
ダークが渇いた笑いを漏らした。
「行くぜ? ウォォ!」
ダークが魔力を解き放とうと、右手に気を集中させた。
「まずい! ゼフュロス! 逃げろー!」
「もう遅いぜ? 超必殺技、風の名!」
ダークの周りを黒い風が吹き荒れる。
「さてと、それじゃ俺も行くか。超必殺技、風の名!」
ゼフュロスも魔力を解き放ち、白い風を身に纏った。
「少しは楽しかったぜ? それじゃ、あばよ!」
「もっと楽しいことを教えてやるぜ! 行くぞ!」
二人は手を前へと突き出し、お互いの風を衝突させた。
その衝撃がユウキたちの方にまで届く。
「な!? 今度は何事だ!?」
「団長!? 見てなかったんですか!?」
団長はずっと耳を塞いでうずくまっていたため、突然の事態に対応できずによろめいた。
「団長、大丈夫ですか!?」
「う、うむ。それよりもこの衝撃、ついに決着か!?」
「はい! この技が止んだ時、きっとゼフュロスが勝ってます!」
「ううう! 騒がしい奴らだ!」
ユウキたちに多大な被害をもたらした二人の戦いが、今まさに決着を迎えようとしていた。
「く……。お? 風が収まったようだな……」
「どうなったんだ!? ゼフュロス! 無事か!?」
団長とユウキが顔を向けると……。
「痛てて、全然無事じゃねえよ」
「あ……ああ……!」
ゼフュロスが佇み、ダークが倒れていた。
「やったー! ゼフュロス、見直したぜ!」
「俺は女の子にだけ見直されればいいんだ。てことで団長、どうだった!?」
「あ、う、うむ。中々の戦いであったぞ」
「おお! 団長にほめられたー!」
団長はほとんど見ていなかったが、知らない方がいいだろうとユウキはあえて言わなかった。
「……あ~あ、つまらない人生だったなあ」
ダークは倒れたまま溜め息を吐いた。ゼフュロスはそんな彼をしばらく見つめた後、口を開いた。
「……ダーク、お前何でこんなことをしたんだ?」
「ああん? そんなこと聞いてどうするんだよ? さっさと殺せ」
「俺たちはお前らの命を奪うつもりはない。よかったら話してくれよ」
「……どうせ笑うんだろ?」
「笑うわけねえだろうが。これだけの事を引き起こす程の悩み、聞かせてくれよ」
「……誰も認めてくれなかったんだ」
「何を?」
「誰も俺がロッカーになることを認めてくれなかったんだ! 親もロックなんて許さないなんて頭から決め付けやがってよお。周りの連中は才能がないだのぬかしやがる!」
「……そうか」
「ほら、全くその通りだとかちっぽけな悩みだとか言えよ! どうせそう思ってんだろうが!」
「おいこら! そんなわけあるか!」
ゼフュロスはダークの胸倉をつかんだ。
「なっ!? 何だよ急に!?」
珍しくゼフュロスが怒っている。彼が大声を張り上げているのをユウキは初めて見た。
ダークもその剣幕に思わず身構える。
「お前は立派にハートで語ってきたんだろう!? それはアーティストとして誇らしいことなんだ! だから、ちっともおかしくなんかねえよ!」
「……俺だってそう思ってよお。だから、こんな世界変えてやろうと思ったんだ」
「それは違うぜ?」
「……何?」
「俺もお前もみんな違う。人それぞれ考え方なんてばらばらで、俺にとって価値ある物が、別な誰かにとっては下らない物だったりする。だけど、だからこそ俺という個性は輝くし、だからこそアーティストでいられるんだ!」
「……お前」
「な? だからさ、今度は別な形で見返してやろうぜ? 俺と一緒にがんばるってのもいいかもな!」
ゼフュロスの差し出した手をつかみ、ダークはぼろぼろの体を起こした。
「……こんな俺と、仲良くしてくれるとでも言うのかよ?」
「当たり前じゃーん! 俺の愉快な仲間たちも、絶対仲良くしてくれるさ!」
ゼフュロスの言葉を聞いて、ダークは一筋の涙を流した。
だが、その向こうで……。
「感動的な話のところ悪いのだが、その愉快な仲間というのはどういうことだ?」
団長が鬼のような形相を浮かべていた。
「あ、やばい。今のなしなし」
「帰ったら掃除だ! きっちりやらせるからな!」
「うわあ! やばい! なあ、ダーきゅん、手伝って?」
「な!? ダーきゅん!? 掃除はお前の責任だろ! 自分でやれよ!」
「えー?」
言い合う二人を見ながら、ユウキは思わず笑った。
「あの二人、楽しそうですね」
「ああ。また救うことができたな」
団長もまた、満足気に二人を眺めている。
「あ、団長。ちょっと体力消耗したから、休んでくわ」
「うむ。ご苦労だった、ゼフュロス。後でちゃんと来るのだぞ?」
「それなら俺に任せろ。絶対逃がさねえからよ。しっかり掃除とやらはさせに向かわせるぜ」
ダークがゼフュロスの手首をつかんで高く掲げた。
「そりゃないぜ~!」
ユウキたちは苦笑を漏らしながらも、特にそれ以上ゼフュロスには触れずに先へと向かった。




