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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
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ダークの夢

 十秒にも満たない必殺技は、ユウキたちにとっては長く感じられた。


「……ちっ! 魔力切れだ!」

「よし、耐え切った! 団長ー! 大丈夫かー!?」

「お主ら二人とも静かに戦え! うるさくて耳が壊れそうだ!」

「そんなこと言ったって、仕方ないだろう!?」

「ふ、あいつらが邪魔なのか? 消してやってもいいぜ?」


 ダークが不敵に笑う。


「ばか言ってんじゃねえよ! 俺の大切な仲間だ!」

「またつまらねえ冗談を……。仲間なんて、ただの幻想だろ? それっ! ダークブリング!」

「そんなわけあるか! アクア!」


 ダークの放った衝撃波をゼフュロスの水魔法が相殺した。


「音がダメならこれならいいよな? 今度はこっちからだ!」


 ゼフュロスは深く息を吐き、両腕を交わらせつつ見えない剣をつかんだ。


「行くぜ! 必殺、ソードジャグリング!」

「こっちも行くぜ? 必殺、ソードジャグリング!」


 二人は舞い踊りながら剣をつかんでは投げつける。そして、飛んできた剣を回転しながら自身の剣で受け止め、さらに接近し切りつける。

 ユウキたちにその刃は見えないが、鳴り続けてやまない金属音からその応酬の激しさは伝わっていた。そのことから、先程までは助けに入る気満々だったユウキは考えを改める。下手に加勢すると危険であり、ゼフュロスの邪魔になりかねないからだ。


「やるじゃねえか。でも、そろそろ終わりにしようぜ?」

「何!?」

「もう飽きた。だから終わり。残念だが、時間切れって奴だ。まあ、お前じゃ不充分だったってことだ」


 ダークが渇いた笑いを漏らした。


「行くぜ? ウォォ!」


 ダークが魔力を解き放とうと、右手に気を集中させた。


「まずい! ゼフュロス! 逃げろー!」

「もう遅いぜ? 超必殺技、風の名!」


 ダークの周りを黒い風が吹き荒れる。


「さてと、それじゃ俺も行くか。超必殺技、風の名!」


 ゼフュロスも魔力を解き放ち、白い風を身に纏った。


「少しは楽しかったぜ? それじゃ、あばよ!」

「もっと楽しいことを教えてやるぜ! 行くぞ!」


 二人は手を前へと突き出し、お互いの風を衝突させた。

 その衝撃がユウキたちの方にまで届く。


「な!? 今度は何事だ!?」

「団長!? 見てなかったんですか!?」


 団長はずっと耳を塞いでうずくまっていたため、突然の事態に対応できずによろめいた。


「団長、大丈夫ですか!?」

「う、うむ。それよりもこの衝撃、ついに決着か!?」

「はい! この技が止んだ時、きっとゼフュロスが勝ってます!」

「ううう! 騒がしい奴らだ!」


 ユウキたちに多大な被害をもたらした二人の戦いが、今まさに決着を迎えようとしていた。


「く……。お? 風が収まったようだな……」

「どうなったんだ!? ゼフュロス! 無事か!?」


 団長とユウキが顔を向けると……。


いててて、全然無事じゃねえよ」

「あ……ああ……!」


 ゼフュロスが佇み、ダークが倒れていた。


「やったー! ゼフュロス、見直したぜ!」

「俺は女の子にだけ見直されればいいんだ。てことで団長、どうだった!?」

「あ、う、うむ。中々の戦いであったぞ」

「おお! 団長にほめられたー!」


 団長はほとんど見ていなかったが、知らない方がいいだろうとユウキはあえて言わなかった。


「……あ~あ、つまらない人生だったなあ」


 ダークは倒れたまま溜め息を吐いた。ゼフュロスはそんな彼をしばらく見つめた後、口を開いた。


「……ダーク、お前何でこんなことをしたんだ?」

「ああん? そんなこと聞いてどうするんだよ? さっさと殺せ」

「俺たちはお前らの命を奪うつもりはない。よかったら話してくれよ」

「……どうせ笑うんだろ?」

「笑うわけねえだろうが。これだけの事を引き起こす程の悩み、聞かせてくれよ」

「……誰も認めてくれなかったんだ」

「何を?」

「誰も俺がロッカーになることを認めてくれなかったんだ! 親もロックなんて許さないなんて頭から決め付けやがってよお。周りの連中は才能がないだのぬかしやがる!」

「……そうか」

「ほら、全くその通りだとかちっぽけな悩みだとか言えよ! どうせそう思ってんだろうが!」

「おいこら! そんなわけあるか!」


 ゼフュロスはダークの胸倉をつかんだ。


「なっ!? 何だよ急に!?」


 珍しくゼフュロスが怒っている。彼が大声を張り上げているのをユウキは初めて見た。

 ダークもその剣幕に思わず身構える。


「お前は立派にハートで語ってきたんだろう!? それはアーティストとして誇らしいことなんだ! だから、ちっともおかしくなんかねえよ!」

「……俺だってそう思ってよお。だから、こんな世界変えてやろうと思ったんだ」

「それは違うぜ?」

「……何?」

「俺もお前もみんな違う。人それぞれ考え方なんてばらばらで、俺にとって価値ある物が、別な誰かにとっては下らない物だったりする。だけど、だからこそ俺という個性は輝くし、だからこそアーティストでいられるんだ!」

「……お前」

「な? だからさ、今度は別な形で見返してやろうぜ? 俺と一緒にがんばるってのもいいかもな!」


 ゼフュロスの差し出した手をつかみ、ダークはぼろぼろの体を起こした。


「……こんな俺と、仲良くしてくれるとでも言うのかよ?」

「当たり前じゃーん! 俺の愉快な仲間たちも、絶対仲良くしてくれるさ!」


 ゼフュロスの言葉を聞いて、ダークは一筋の涙を流した。

 だが、その向こうで……。


「感動的な話のところ悪いのだが、その愉快な仲間というのはどういうことだ?」


 団長が鬼のような形相を浮かべていた。


「あ、やばい。今のなしなし」

「帰ったら掃除だ! きっちりやらせるからな!」

「うわあ! やばい! なあ、ダーきゅん、手伝って?」

「な!? ダーきゅん!? 掃除はお前の責任だろ! 自分でやれよ!」

「えー?」


 言い合う二人を見ながら、ユウキは思わず笑った。


「あの二人、楽しそうですね」

「ああ。また救うことができたな」


 団長もまた、満足気に二人を眺めている。


「あ、団長。ちょっと体力消耗したから、休んでくわ」

「うむ。ご苦労だった、ゼフュロス。後でちゃんと来るのだぞ?」

「それなら俺に任せろ。絶対逃がさねえからよ。しっかり掃除とやらはさせに向かわせるぜ」


 ダークがゼフュロスの手首をつかんで高く掲げた。


「そりゃないぜ~!」


 ユウキたちは苦笑を漏らしながらも、特にそれ以上ゼフュロスには触れずに先へと向かった。

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