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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
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地位と差別

「行くぜ! ウォォ!」


 ワイルドが勢いよくスノウへと突進する。二人が離れた位置にいたにも拘わらず、ワイルドは一秒足らずでスノウの目の前に接近した。

 だが……。


「バリア!」


 その動きを先読みし、スノウは守りの技で牽制けんせいした。


「く、攻撃の前に防ぐ技、厄介だぜ!」

「私は負けません! あなたのためにです!」

「余計なお世話だってさっきから言ってんだろうが! ブラッディクロー!」

「なっ!? キャー!」

「スノウさん!」

「お嬢ちゃん!」


 ワイルドの爪がスノウを切り刻む。彼女の悲鳴と見守る仲間の叫びが響き渡った。


「これでさっき受けたダメージはちゃらだ。今度こそこっちの番だ!」

「シューティングスター!」

「なっ!? うぐっ!」


 追撃を試みたワイルドの隙を突き、スノウが星形の岩で反撃した。


「ヒール! これで私も回復です」

「……正直な話、ここまでやるとは思ってなかったぜ!」

「あなたも中々やりますね」

「当たり前だ! 俺様はこの世界の破壊者! お前もあいつらも全員粉々に砕いてやらあ!」

「させません。みんな私が守ります。もちろん、あなたも」

「俺は一人でいいんだ! 一人がいいんだ! お前なんかいなくたって何も困りはしねえ! 大体さっきから俺を救うだとか何言ってやがるんだ! 俺の気持ちがお前にわかるとでも言うのかよ!」

「……わからないですよ」

「ほらな! どうせお前には俺のことなんか!」

「でも! それでもあなたを救いたいという思いに嘘はありませんし、わからなくてもあなたの痛みをわかろうと心から思っています!」

「何!?」


 ワイルドは驚きのあまり絶句した。


「いいぞお嬢ちゃん! もっと言ってやれ!」

「スノウさん! 絶対にその心はワイルドにも届きます!」


 ゼフュロスとユウキもスノウの思いに賛同し、激励する。


「……何言ってんだ? お前ら、頭おかしいんじゃないのか?」

「いいえ、信じています。私たちは必ずわかり合えると……」

「そんなわけあるか!」

「神よ。この方のためとはいえ、傷つけてしまうことをお許しください」


 スノウは右手を天へとかざした。


「グワァ! 小娘がー!」


 スノウの必殺技大いなる過ちが発動し、無数の光の矢がワイルドに放たれた。


「さあ、心を開いてください!」

「黙って聞いていればさっきから! もう許さん! 全部全部壊れちまえ!」


 ワイルドは憤怒のオーラを纏い、修羅しゅらの形相を見せた。


「超必殺技、オールデストラクション!」


 技名を唱えた瞬間、ワイルドを業火が包み込んだ。


「スノウさん! 逃げて!」


 ユウキは必死に叫んだ。だが、スノウはワイルドに対し、決意の表情を真っ直ぐに向けていた。


「私は逃げません。さあ、来なさい!」

「スノウさーん!」

「壊れろー!」


 ワイルドがスノウへと一直線に突撃した。

 その時、スノウの体が神々しく輝いた。


「神よ、お許しください!」

「な、何だ!? この光は!?」

「超必殺技、大懺悔!」


 スノウは地面に勢いよく両手を突いた。その途端、彼女を包む光は大爆発を起こし、炎を纏ったワイルドの突進と衝突した。その衝撃で巻き起こった暴風がユウキたちまで届く。


「お嬢ちゃーん!」

「スノウさーん!」


 ユウキは心の中で叫んだ。スノウを守ると誓ったのに、まだ達成できていないんだ! だから死なないでくれ! と。


「……その心の声、届きました」

「なっ!? スノウさん!?」


 光の中からスノウの声が響き渡った。そして、光はさらなる暴走を見せた後、一瞬にして消え去った。

 ようやくひらけた視界の先で、スノウが佇んでいた。ワイルドは力尽きて倒れている。


「……ええと、ユウキさん。私、勝ったようです」

「スノウさん……。スノウさんが勝ったー!」

「よっしゃー! お嬢ちゃんも勝ったぜー!」


 ユウキとゼフュロスは飛び上がりながら拳を天に突き出した。


「うう……! こんな世界、壊れちまえばいいのに!」


 ぼろぼろになったワイルドが地面を殴りながら呟いた。

 スノウが憐れみの表情を浮かべ、彼に歩み寄る。


「……あなたはどうして世界を壊したいのですか?」

「嫌いなんだよ! 暗いのが! 俺様はいつも真っ直ぐでいるように教わった。いつも元気でいるのが一番だって。でも、そんな俺は社会に出て酷い扱いを受けた!」

「酷い扱い?」

「そう。偉いのは世界を動かす人々で、俺のような労働者はこの世界では奴隷のような扱いだ! 挙句に俺を見限った妻は子供を連れて出て行きやがった!」

「……酷いですね」

「だから、こんな世界壊そうと思ったんだ。俺は、俺は……!」


 ワイルドは自分の拳から血が出るのもいとわず、地面をめちゃくちゃに殴りつけた。

 そんな彼に、スノウは屈んで同じ目線に立った。


「……でしたら、誰かを頼ればよかったのではないでしょうか?」

「……誰かを……頼る?」


 ワイルドがハッとして顔を上げた。


「はい。世界中の人たちがみんなそういう酷い人たちではありません。偶然そのような人のところに来てしまっただけだと思います」

「……本当なのか?」

「少なくとも、私の知っている人たちはみんな優しいですよ! どうでしょう? もう一度一緒にがんばってみませんか?」

「……でも、俺はあんなに大暴れしたんだ。あいつらは俺を許さないだろう。さすがの俺でもそれくらいわかる」

「では聞いてみましょう。みなさん、どうですか?」


 スノウが団長たちの方へ振り向いた。


「わかりきったことを……」


 団長は腕組みしながら口を開いた。

 それを聞いたワイルドは自嘲を漏らした。


「ほらな。わかっていた。俺を許してくれるわけが……」

「どこぞの誰かと違って、しっかり反省しておるではないか」

「……え?」


 ワイルドは耳を疑った。


「許してくれるのか?」

「えっと、ちょっと待ってもらえるかな? 団長、今の一言余計じゃなかったかい?」


 大事な局面だというのにゼフュロスが水を差した。


「ほう、さすがのお主も自分のことだとわかるか」

「酷いよ団長! 俺のことが好きだからってそりゃないぜ!」

「それこそありえぬがな」


 ゼフュロスのせいでおかしな空気が流れたが、ワイルドは真剣な表情を崩さなかった。


「……俺、許してもらえるのか?」

「まあ、いくらか罰は受けてもらうかもしれぬが……」

「掃除させられるぜー!」


 懲りずに茶化すゼフュロスの頭を団長が殴りつけた。


「痛い! ちょっと団長!」

「何だ? もう一発欲しいか!?」

「ひぃ! 遠慮しておきます……」


 ユウキはゼフュロスの情けなさに苦笑した。


「俺を、ちゃんと人間として扱ってくれるのか!?」

「大丈夫ですよ。団長は厳しいですけど、愛がありますから」

「お……俺! この騎士団やめる!」

「そうか。それではポジティブに入るがよい」

「ウオオ! ありがとう!」


 ワイルドは感動のあまり涙を流しながら地に伏した。


「さて、次へ向かうとしようか」

「あ、団長。私もいっぱいがんばりましたので、ちょっと休憩します」

「わかった。では先に行かせてもらう」

「がんばってくださいねー!」


 ワイルドとスノウをその場に残し、ユウキたちは三層目へと向かって歩みだした。

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