スノウ対ワイルド
ユウキたちはアイリスのいるフロアを後にし階段を進んだ。
「さて、次は誰が相手なのか」
「この階段の先に、またネガティブが待ち構えているんですね」
スノウは気を引き締め、凛とした表情を見せた。
「今度は先程のような情けない態度を取るでないぞ」
「で、でも! 仲間が危ない時に、助けたいのは当然じゃないですか!」
「マリアは一人で大丈夫だと言った。それに、恐らくマリアはわかっていたのだろう」
「わかっていたって、何をですか?」
「すぐにお主もわかる」
ユウキは首を傾げた。
「……さあ、登りきったぞ。準備は良いな?」
団長は返答も待たず扉を開けた。
すると……。
「何だ!? 俺様はユウキという奴だけがここを通ると聞いたぞ?」
ワイルドが予想外の事態に面食らっている。だが、大勢を前に怯む様子は微塵もない。
「まあいい。全員まとめて俺様が倒してやるだけだ!」
「よし、今度こそ全員で!」
ユウキは剣を構えた。
だが……。
「待ってください」
「なっ!? スノウさん!?」
「きっと、アイリスさんはマリアさんと一対一で戦ったからこそ心を開いたのだと思います。ですからここは私が一人で戦いましょう!」
「そんな……また……?」
ユウキは困惑しきった。
「うむ。そうしてくれ」
「団長!?」
「わからぬか? 正義の心を持ってネガティブを改心させるには、一人でぶつかるしかないのだ」
「何でそんなこと言い切れるんですか!」
「私には騎士道精神があるからだ!」
ユウキには団長の考えが理解できなかった。確かに彼もネガティブを改心させたい思いでいっぱいだが、それ以上に仲間の身の危険を心配していた。
「ユウキさん、大丈夫ですよ。必ず勝ちますから」
「スノウさん……」
「おい、誰が誰に勝つって!? もう一回言ってみろ!」
ワイルドは鋭い爪をスノウのいる方に向けた。
だが、スノウは怖気る様子もなく彼のいる方へと歩み寄る。
「……あなたもきっと、とても苦しんでいるのでしょう? 今私がその呪縛を解き放ってみせます」
「何だと……?」
ワイルドは大きく息を吸い込んだ。
そして……。
「お前に何がわかる! 誰かを虐げることしかできないこんな世界なんか、いっそ壊してやった方がいい!」
ワイルドの怒号が響いた。
「やはり、何かあったのですね」
「何!? そんなわけあるか! 俺は何にも屈してなんてねえ!」
ワイルドはより一層声を大にして叫んだ。
「ふざけたことばかり言いやがって! そもそも小娘に何ができるってんだ!」
「私はあなたを救いたい。In the World……この慈悲深い世界の中で」
「俺はそんなの求めてねえんだよ! In the World……この陰湿な世界の中で」
二人が戦闘態勢に入った。
「それでは参ります。シューティングスター!」
「そんなもの壊してやる! スラッシュ!」
星型の岩がワイルドの爪の一振りにより打ち消された。
「あなたの心が泣いているのが見えます。とても悲しそう……」
「わかった気になってんじゃねえ! ウォォ!」
ワイルドは猛スピードでスノウに突進した。
だが……。
「ウォール!」
「痛え!」
突撃してきたワイルドは半透明の壁に激突した。
「ふざけたことを……! それなら動きを見切れなくしてやるぜ! チャージ!」
「それならこちらも守りを固めます。プロテクション!」
「まだまだ! チャージ!」
「プロテクション!」
ワイルドはパワーとスピードを、スノウは守りを強化している。硬直状態に入り、どちらも動きを見せない。
「……おまけだ! クレイジー!」
理性を代償とした技により、ワイルドの表情が狂気に歪んだ。以前にもワイルドが使用していた技だ。その効果により一時的に痛覚を消し去ることができる。
「粉々にしてやる!」
「こちらも準備はよろしいですよ。来なさい!」
「キマイラウィング!」
ワイルドは羽を生やし空へと舞い上がった。そして、そのままタックルを仕掛けている。
しかし……。
「おらっ! グワッ!」
ワイルドはまたしてもスノウの守りに阻まれた。今度は半透明の膜がスノウを覆っている。
「何だ!?」
「バリアです。あなたの攻撃は効きません!」
「小娘が……!」
「今度はこちらから参ります。ライトブリング!」
スノウが光の衝撃波を放った瞬間、ワイルドはニヤリと笑った。
「アヴェンジ!」
「しまった! 私の攻撃が!」
スノウの攻撃はカウンター技によって無効化されてしまった。しかも、その効果によりワイルドはさらにパワーを底上げしている。
「軽率だったな。これで一発投げるだけで倒せるぜ!」
ワイルドの狙いは、パワーをとことん上げて一撃でスノウを倒すことだった。
「行くぜ! おらあ!」
「スノウさん!」
ワイルドがスノウをつかもうとしたその時。
「カウンター、ディバインパワー!」
「な、何だこれは!?」
スノウは真っ白なオーラに包まれ、ワイルドの手を弾いた。
「あなたの攻撃は魔力に変換させていただきました」
「何!?」
ディバインパワー。それは団長のペイシェンスと同様、自身の魔力を生成するカウンター技だ。
「今度はこちらの番です。シューティングスター!」
「ちっ! スラッシュ!」
「まだ続きますよ。シューティングスター!」
「調子に乗るんじゃねえ! スラッシュ!」
ワイルドは続けざまに放たれる星形の岩を爪で粉砕し、そのまま突撃した。
「全て壊れてしまえばいいんだっ!」
ワイルドは炎のように赤いオーラを纏い、突進してくる。彼の必殺技、バーサークだ。
「まずい! スノウさん、気を付けて!」
ユウキは冷や汗を流した。
だが、スノウは冷静に相手の技を見極めている。
「参ります。ガード必殺、神のご加護!」
「なっ!? 何だこれは!?」
スノウが眩しい程の光を放ち、ワイルドの目にも留まらぬ鉄拳と蹴りを受け止めた。
「さあ、これでこちらも戦闘力増加です」
「小娘が……! 粉々にしてやる!」
「参ります! それっ!」
スノウはシューティングスターとライトブリングを同時に放った。神のご加護の追加効果により、技の繋がりが滑らかになったのを利用した合わせ技だ。
守り属性の星形の岩と打撃属性の衝撃波が同時にワイルドへ襲いかかる。
「なっ!? グワァァ!」
「ウォール! ウォール! ウォール!」
スノウはウォールを連続使用し、ワイルドを囲った。
「何だこれは!?」
「それでは参ります。ガード必殺、嘆きの壁!」
「う、グォォォ!」
スノウが両手を地に突いたの合図にして、複数の半透明の壁が一斉にワイルドへ向かって倒れた。
だが……。
「……いい気になるなよ? 小娘がー!」
その攻撃を受けてもなお、ワイルドは立ち上がった。
「許さねえ! 絶対に許さねえ!」
「スノウさん! 気をつけて!」
「壊れろ! 連撃!」
「キャー!」
「スノウさん!」
ワイルドの攻撃はあまりにも素早く、スノウの守りは間に合わなかった。そして、ワイルドは連続攻撃の締めにスノウを投げ飛ばした。
地面に叩きつけられたスノウはよろめきながら立ち上がる。
「どうした? もう終わりか?」
「……プロテクション!」
「……ちっ! まだ戦う気かよ!」
「私はあなたを救うまで戦うのをやめません!」
「だから! 俺様はそんなこと望んでねえっつってんだろうがー!」
ワイルドは異常な程に怒り狂っている。
「もう一度チャージをかけ直してやる。これが終わった時、お前は今度こそ粉々に砕け散る!」
「させません。私もプロテクションをかけ直します。あなたを絶対に救ってみせます!」
お互いが、決着に向けて力を蓄えている。
「その口二度と動かなくしてやる! 行くぜ!」
「かかってきなさい!」




