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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
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マリア対アイリス

「……着いたわ」

「……え? あれ?」


 前にユウキが来た時と様子が違っていた。階段ができて、山は城のような形に変貌を遂げている。


「魔法か何かで変形させたようだな。勝手なことを……!」


 団長は変わり果てた山を前にして怒りをあらわにしている


「ここにネガティブたちがいるはずよ。みんな、気を引き締めて!」

「うむ。油断は命取りとなるぞ。では行こう!」


 団長を先頭にし、一列になって階段を上り始める。


「マコト、待ってろよ。すぐにお前を助けるからな!」


 ユウキは拳を握りしめた。

 階段を登ってゆくと、広い階層フロアに出た。


「扉まで用意しおって」

「開けるわよ? みんな身構えて!」


 最初のフロアらしき前にある重々しい扉を、マリアが両手で押し開けた。

 そこに待ち構えていたのは……。


「ようやく来たのね」

「アイリス!」

「いらっしゃい。と、言いたいところだけれど、マコト様はユウキ以外通すなとのことよ」

「……それでは強引にでも通してもらうとしよう。行くぞ!」


 団長が剣を構えたその時。


「待ってください!」

「……マリア?」

「私に任せてもらえませんか?」

「なっ!?」


 ユウキは思わず声を上げた。


「マリアさん一人で戦うつもりですか!?」

「待て、ユウキ。話を聞こうじゃないか」

「団長、勝手をお許しください。でも、これだけはどうしても、私自身の手で決着をつけなければならないのです!」

「……ふむ。わかった、お主を信じることにしよう!」

「はい! ありがとうございます!」

「マリアさん……」


 ユウキは不安げな顔をマリアに見せた。


「大丈夫、必ず勝ってみせるわ」


 マリアはユウキたちに笑顔を見せ、それからアイリスに向かって歩み出した。


「相談は終わったかしら?」

「ええ。私が相手よ、アイリス!」

「そう、それなら楽にしてあげるわ」


 アイリスは口元を邪悪に歪めた。


「アイリス。あなたはなぜそんなに人の死を願うの? あなたには大切な人がいないの!?」

「大切な……人?」


 突如、アイリスの声色が変わった。


「黙れ……! 黙れ黙れ黙れえええ!」


 アイリスは狂気に震える声でわめいた。


「あなたに私の何がわかると言うの!? 私はこの世界に生きる全ての命が大嫌いなのよ! みんな……みんな死んじゃえばいいわ!」


 アイリスはどす黒いオーラを身に纏った。


「させない! In the World……この美しい世界の中で!」

「誰にも私の邪魔はさせない! In the World……この醜い世界の中で!」

「あなたには負けない! アクア!」

「秘術の壱、シャドウ!」


 マリアが水魔法を放ち、アイリスがそれを瞬間移動で避けた。

 そして……。


「このどす黒い世界で生きてきた私の気持ちが、あなたなんかにわかるわけがない!」


 アイリスは黒い衝撃波を放ち、マリアを襲う。

 だが……。


「あなたの目にはこの世界が正しく映っていない。それを教えてあげるわ」

「なっ!? どこ!?」


 マリアは瞬間移動でそれを避けた。

 そして、アイリスの後方へと姿を現す。


「パラリシス!」

「う、ぐっ!」


 麻痺魔法が見事に決まり、アイリスはよろめく。


「……許さないわよ。秘術の参、ネクロマンシー!」


 アイリスが両の手で鎌を回しながら天へと掲げると、赤紫の魔法陣が三つ現れ、高速で彼女の周りを回転し出した。それらは黒い光を放って消え、骸骨を三体召喚した。


「さあ……あなたもこの子たちの仲間になりなさい!」


 アイリスの声を合図に、骸骨たちは一斉にマリアへと襲いかかる。


「来たわね……! アクア!」


 マリアは水魔法で骸骨を一体ずつ処理してゆく。

 だが、その隙を突いてアイリスはさらに攻勢をかけようとする。


「闇よ、我の契約に応じよ!」


 アイリスはなおも駒を増やす。虚空に振りかざされた鎌の先で、赤紫の魔法陣から黒い靄が生じている。それは一点に集まった後、アイリスの周りをうごめき出した。


「ハニー! 負けるなー!」

「マリアさーん!」


 戦いを見守るゼフュロスとユウキが叫んだ。


「私は……負けない! アクア!」

「もらうわ! 生贄の儀式!」

「なっ!?」


 マリアの放った水魔法を利用し、アイリスは技を発動させた。自らが傷つくことを代償に、アイリスは黒く淀んだ異形を生成する。


「さらに行くわよ! ドッペルゲンガー!」


 アイリスは鎌を頭上でバトンのように回しながら詠唱した。その効果により、アイリスの分身までもが現れ、マリアが窮地に立たされたかに見えた。

 だが……。


「……炎よ、我が扇となり舞え!」


 マリアは炎の舞を使用した。それは、マリアとアイリスの戦闘を初めて見た日にも使っていた必殺技だった。

 マリアは燃え盛る炎を手に纏い、伸びたリーチを駆使し敵軍を一掃してゆく。


「……く、私の兵たちが!」

「さあ、次はあなたよ」

「私は……負けるわけにはいかないの! 秘術の弐、ブラックパピヨン!」


 アイリスは羽を生やし、宙へと舞った。


「永遠の命を授けましょう……死という名の! 斬風!」

「そうは行かないわ! ウォール!」


 アイリスは鎌を一振りし衝撃波を放ったが、マリアはそれを半透明の壁で防いだ。


「それならこれは? 金縛り!」


 マリアの隙を突いてアイリスがマリアに麻痺技を放った。

 しかし……。


「カウンター、ミラー!」

「うぐう! よくも……!」


 マリアは瞬時に対応した。アイリスの使用した金縛りを、そのままアイリスに返している。


「今度はこっちの番よ! サンダー!」

「もらったわ! ペイントゥヒール!」


 マリアの雷魔法は確かにアイリスに命中したが、その結果アイリスの傷が癒えてゆく。


「残念ね、回復させてもらったわ」

「もう一度……!」

「何度やっても同じよ、ペイントゥ……うぐっ!」

「それっ!」

「ギャアア!」


 アイリスが麻痺のせいでカウンターに失敗し、マリアの攻撃が通った。

 それをチャンスと見たマリアは瞬時にアイリスの目前まで迫り、鉄拳から蹴りへと攻めを繋げた。

 そして……。


「ブリザード!」


 マリアはさらに氷魔法で追撃した。

 だが……。


「……調子に乗るんじゃないわよ! ペイントゥヒール!」


 今度はアイリスに防がれてしまう。


「もう怒ったわ。永遠の眠りを与えてあげる」


 アイリスの声には禍々しい怒りがこもっていた。

 そして、振りかぶった鎌は赤く光っている。


「なっ!? マリアさん! 気をつけて!」

「死した三日月にささぐ。全ての命はただそのために! 必殺、デッドクレセント!」

「止めてみせる! ウォール!」


 鎌から放たれた赤い光が、マリアの生成した半透明の壁にぶつかった。ウォールの効果時間に収まらなかった分の攻撃は、さらに連続で使用した再度のウォールが防ぎきった。


「……やるわね」

「今度はこっちの番よ! アクア!」

「く、ペイントゥヒール!」


 アイリスはマリアの放った水魔法にカウンターで対抗している。

 だが……。


「いつまで続くかしら? アクア!」

「うっ……! ペイントゥ……うぐっ! ギャアア!」


 未だに続く体の痺れにより、アイリスはまたしても受け損ねた。

 そして……。


「今よ! スリープ!」

「なっ!? しまった!」


 マリアは睡魔の魔法で追撃した。

 アイリスが途端によろけ、足取りがおぼつかなくなった。


「さあ、覚悟なさい! アクア!」

「うっ……シャドウ!」


 水魔法を瞬間移動で避けたアイリス。

 しかし……。


「まだよ! アクア!」


 一瞬にしてアイリスの行方を把握したマリアが、追撃の魔法を発動させる。そして、その向こうにいるアイリスはふらついている。


「……はっ! 意識が!」


 アイリスが気付いた時には、すでに攻撃が目の前に迫っていた。


「ギャアア!」


 痛々しい悲鳴が響く。


「さあ、そろそろ行くわよ! 必殺、炎の舞!」

「……生贄の儀式!」

「何ですって!?」


 必殺技を放とうとしたマリアは、アイリスの対応に驚愕した。

 生贄の儀式。それは、マリアの攻撃を避けないという意思表示だった。


「ふふふ……あはははは!」


 狂気の笑い声を上げながら、アイリスは炎に焼かれた。

 その攻撃がやんだ後、そこにはおぞましい憎悪を纏ったアイリスが佇んでいた。


「もう怒ったわよ……。ブラックパピヨン! ドッペルゲンガー! 闇の契約! ネクロマンシー!」

「なっ!? 一度に技を!」


 骸骨や魔物を操りつつ、羽を生やしたアイリスが二体に増えて襲いかかる。


「金縛り!」

「しまった! 動きが……!」


 マリアは麻痺技に動きを封じられてしまう。


「斬風!」

「キャー!」


 鎌の一振りにより生じた衝撃波がマリアを襲った。


「ハニー!? 死んじゃ嫌だー!」

「マリアさーん!」

「……大丈夫よ」


 巻き起こった土煙が徐々に薄れていき、マリアのぼろぼろな姿が一同の目に飛び込んできた。


「マリアさん!」

「お主たち、少し落ち着け」

「団長! そんなこと言ったって、マリアさんが!」

「マリアなら大丈夫だ。私はそう信じておる」


 ユウキとて、そう信じたかった。だが、ユウキの目にはマリアが圧倒的に劣勢なように見えて、黙って見ていることができなかった。


「後ろが隙だらけよ?」

「なっ!?」

「斬風!」

「キャー!」


 瞬時にマリアの背後に移動したアイリスが衝撃波を放った。


「やっぱりこんなのって……! 団長、俺も戦わせてください!」

「待て」

「俺、もう無理です!」

「待てと言っておるだろう! 落ち着いてよく見るのだ。マリアは、少しも苦戦してはおらぬ」

「え……?」


 ユウキは再度、落ち着いてよく見てみた。だが、やはり彼にはマリアが苦戦しているようにしか見えない。団長がなぜ余裕そうに見守っているのか、彼にはわからなかった。


「そろそろ終わらせてあげるわ」

「なっ!? マリアさんが!」


 アイリスは赤く光る鎌を振りかぶり、そして勢いよく切り払った。


「さあ、永遠にお眠りなさい!」

「マリアさーん!」


 アイリスの必殺技デッドクレセントがマリアを襲うのを見て、ユウキは叫んだ。

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