深層心理
「ま、まあ……鍛練に戻りましょうか」
「そうね。もうゼフュロスは好きにさせましょう」
ユウキは意気込んだ。今度こそテレポートを使いこなせるようにしなければならないと。
「試しに鍛練場にそれで入ってみたら?」
「そうですね。テレポート! ……あれれ?」
「……むしろ逆側に戻ったわね」
「く……! 今度こそ! テレポート! テレポート!」
「どんどん戻ってるわよ?」
「ああもう! これじゃ使い物にならない!」
ユウキは憤慨し、頭を搔きむしった。
「発動はできるのに、どうしてかしら?」
マリアは首を傾げた。彼女は使える魔法は全て完璧にコントロールできるため、ユウキに的確なアドバイスをできずにいる。
「マリアさんはどれくらい使いこなせるんですか?」
「私は狙った場所に移動できるわ。ここに戻ってくる時だってこれを使ったもの」
「そうだったんですか……」
ユウキは自分とマリアとの差に落胆した。
「鍛練場の入り口にぴったり移動してみせるわ。テレポート!」
「……おお! すごい!」
「ユウキは思った方向と逆側に発動してしまうんじゃないかしら? 試しに鍛練場内で連発してみて」
「はい。わかりました」
ユウキは鍛錬場内へと走って向かい、その中心付近で立ち止まった。
「さあ、やってみて」
「はい! 逆側を意識して……! テレポート!」
ユウキは瞬間移動した。
だが……。
「どう?」
「……ダメです。前へ飛ぼうと思ったのですが……」
「左へ飛んでしまったわね。もう一度よ」
「はい! じゃあ今度は右に飛びます! テレポート! ……あれ? ウワァ!」
ユウキは空中に移動してしまい、頭から落下した。
「危ない! ウィンド!」
「っとと!」
マリアが咄嗟に風魔法で受け止め、事なきを得た。
「すみません、助かりました」
「完全にランダムのようね……」
「どうしてでしょう? 珍しく発動はできるのに……」
「発動はできる……。きっとそれが解決の糸口ね」
「なるほど! それじゃあ何で発動できるのか考えてみます!」
「そうね。何か心当たりはないの?」
「特にこれと言って何も……」
ユウキは自分に問いかけたが、これと言った答えは見付からなかった。
「もしかしたら深層心理かもしれないわね」
「深層心理?」
「意識下で何か強い思いがあるのよ。それがきっと発動を促しているんだわ」
「強い思い……。マリアさんの呪いを解きたい! っていうのはテレポートとは関係なさそうだし……」
「そういえば、私がヴィジョンでこの世界を見せた時、あなたとても感動していたわね」
「それはもちろん! こんな美しくて広大な世界、もっと見て回りたいと思いました!」
「きっとそれよ! その思いがユウキにテレポートを発動させ、勝手に暴走してるのよ!」
「なるほど……。そうかもしれませんね。じゃあどうすればいいんでしょう?」
「……ゼフュロスみたいに旅をしてみるとか?」
「ええ!? それ、俺も団長に怒られちゃうじゃないですか!」
「ちゃんと許可を取ってすぐに帰ってくれば大丈夫よ。後でいいところに連れてってあげるわ」
「本当ですか!?」
「ええ。団長やスノウも、一緒にね」
ユウキは肩を落とした。てっきりマリアと二人きりの誘いだと思ったからだ。
「そろそろ夕食の時間だし、食べ終わったら行きましょう」
「はい! 楽しみにしてます!」
二人きりとはいかなかったものの、どんな場所なのかとユウキはわくわくしていた。マリアが紹介するのだから、きっと綺麗な場所なんだろうと。
今から待ち遠しくなったユウキは、妄想を膨らませた。
「何してるの? 団長来ちゃうわよ?」
「あ、それはまずい! 今行きます!」
まずはごはんが先だ。彼はこれからネガティブを救わなければならないのだから、しっかり食べていつでも戦えるようにしておかねばならない。
それに、遅れたら団長に怒られてしまう。ユウキは慌ててマリアの後を追い、食卓へと向かった。
「あ、ユウキさん。お疲れ様です」
「ありがとうございます! 結局、まだ使いこなせてませんけど……」
「ユウキさんなら大丈夫ですよ。自信を持ってください!」
「はい! がんばります!」
スノウに応援され、ユウキはやる気を回復させた。
「おお、全員揃っておるな……ゼフュロス以外は」
「どうせすぐ戻ってきますよ」
「そ、そうなんですか……」
ユウキにはわからないゼフュロスの事情が、マリアたちの間で共有されていた。
「それではいただくとしよう」
「はい! いただきまーす!」
ユウキは満面の笑みを浮かべ、食べ始めた。
「団長、今夜みんなで星の涙へ行こうと思います」
「そうか。ユウキに見せてやるのだな」
「星の涙……ロマンチックな名前ですね! あ、そうだ。マリアさんからもらったお金で、これを買ったんです」
ユウキは水のランプをポケットから取り出した。夜の散歩にはぴったりだ。
「ああ、それにしたのね。あなたのいた世界では魔法はなかったかしら?」
「はい。すみません、珍しかったのでつい……」
「いいわよ。丁度いいから持っていきましょう」
「はい! どのように光るか楽しみです!」
「それに、ゼフュロスも海からそちらに向かって歩いているみたいよ。ついでに捕まえましょう」
「ああ……。あの人、本当に何してるんですかね……」




