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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
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深層心理

「ま、まあ……鍛練に戻りましょうか」

「そうね。もうゼフュロスは好きにさせましょう」


 ユウキは意気込んだ。今度こそテレポートを使いこなせるようにしなければならないと。


「試しに鍛練場にそれで入ってみたら?」

「そうですね。テレポート! ……あれれ?」

「……むしろ逆側に戻ったわね」

「く……! 今度こそ! テレポート! テレポート!」

「どんどん戻ってるわよ?」

「ああもう! これじゃ使い物にならない!」


 ユウキは憤慨し、頭を搔きむしった。


「発動はできるのに、どうしてかしら?」


 マリアは首をかしげた。彼女は使える魔法は全て完璧にコントロールできるため、ユウキに的確なアドバイスをできずにいる。


「マリアさんはどれくらい使いこなせるんですか?」

「私は狙った場所に移動できるわ。ここに戻ってくる時だってこれを使ったもの」

「そうだったんですか……」


 ユウキは自分とマリアとの差に落胆した。


「鍛練場の入り口にぴったり移動してみせるわ。テレポート!」

「……おお! すごい!」

「ユウキは思った方向と逆側に発動してしまうんじゃないかしら? 試しに鍛練場内で連発してみて」

「はい。わかりました」


 ユウキは鍛錬場内へと走って向かい、その中心付近で立ち止まった。


「さあ、やってみて」

「はい! 逆側を意識して……! テレポート!」


 ユウキは瞬間移動した。

 だが……。


「どう?」

「……ダメです。前へ飛ぼうと思ったのですが……」

「左へ飛んでしまったわね。もう一度よ」

「はい! じゃあ今度は右に飛びます! テレポート! ……あれ? ウワァ!」


 ユウキは空中に移動してしまい、頭から落下した。


「危ない! ウィンド!」

「っとと!」


 マリアが咄嗟に風魔法で受け止め、事なきを得た。


「すみません、助かりました」

「完全にランダムのようね……」

「どうしてでしょう? 珍しく発動はできるのに……」

「発動はできる……。きっとそれが解決の糸口ね」

「なるほど! それじゃあ何で発動できるのか考えてみます!」

「そうね。何か心当たりはないの?」

「特にこれと言って何も……」


 ユウキは自分に問いかけたが、これと言った答えは見付からなかった。


「もしかしたら深層心理かもしれないわね」

「深層心理?」

「意識下で何か強い思いがあるのよ。それがきっと発動を促しているんだわ」

「強い思い……。マリアさんの呪いを解きたい! っていうのはテレポートとは関係なさそうだし……」

「そういえば、私がヴィジョンでこの世界を見せた時、あなたとても感動していたわね」

「それはもちろん! こんな美しくて広大な世界、もっと見て回りたいと思いました!」

「きっとそれよ! その思いがユウキにテレポートを発動させ、勝手に暴走してるのよ!」

「なるほど……。そうかもしれませんね。じゃあどうすればいいんでしょう?」

「……ゼフュロスみたいに旅をしてみるとか?」

「ええ!? それ、俺も団長に怒られちゃうじゃないですか!」

「ちゃんと許可を取ってすぐに帰ってくれば大丈夫よ。後でいいところに連れてってあげるわ」

「本当ですか!?」

「ええ。団長やスノウも、一緒にね」


 ユウキは肩を落とした。てっきりマリアと二人きりの誘いだと思ったからだ。


「そろそろ夕食の時間だし、食べ終わったら行きましょう」

「はい! 楽しみにしてます!」


 二人きりとはいかなかったものの、どんな場所なのかとユウキはわくわくしていた。マリアが紹介するのだから、きっと綺麗な場所なんだろうと。

 今から待ち遠しくなったユウキは、妄想を膨らませた。


「何してるの? 団長来ちゃうわよ?」

「あ、それはまずい! 今行きます!」


 まずはごはんが先だ。彼はこれからネガティブを救わなければならないのだから、しっかり食べていつでも戦えるようにしておかねばならない。

 それに、遅れたら団長に怒られてしまう。ユウキは慌ててマリアの後を追い、食卓へと向かった。


「あ、ユウキさん。お疲れ様です」

「ありがとうございます! 結局、まだ使いこなせてませんけど……」

「ユウキさんなら大丈夫ですよ。自信を持ってください!」

「はい! がんばります!」


 スノウに応援され、ユウキはやる気を回復させた。


「おお、全員揃っておるな……ゼフュロス以外は」

「どうせすぐ戻ってきますよ」

「そ、そうなんですか……」


 ユウキにはわからないゼフュロスの事情が、マリアたちの間で共有されていた。


「それではいただくとしよう」

「はい! いただきまーす!」


 ユウキは満面の笑みを浮かべ、食べ始めた。


「団長、今夜みんなで星の涙へ行こうと思います」

「そうか。ユウキに見せてやるのだな」

「星の涙……ロマンチックな名前ですね! あ、そうだ。マリアさんからもらったお金で、これを買ったんです」


 ユウキは水のランプをポケットから取り出した。夜の散歩にはぴったりだ。


「ああ、それにしたのね。あなたのいた世界では魔法はなかったかしら?」

「はい。すみません、珍しかったのでつい……」

「いいわよ。丁度いいから持っていきましょう」

「はい! どのように光るか楽しみです!」

「それに、ゼフュロスも海からそちらに向かって歩いているみたいよ。ついでに捕まえましょう」

「ああ……。あの人、本当に何してるんですかね……」

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