超必殺技
ユウキたちは団長を前にし、戦闘態勢に入った。
「さあ、来るがよい!」
「はい! アクア!」
「規律、シヴァルリー!」
「ファイア! ブリザード! サンダー!」
「規律、シヴァルリー!」
マリアの放った水、炎、氷、雷の魔法を、団長は全て受けきった。
「もっと練習したい物があるだろう? 遠慮せず使うがよい!」
「わかりました! それでは……。ポイズン!」
マリアは毒魔法を放った。団長の周囲に見えない魔力が生じる。
ユウキは技名からその効果を悟り、団長の身を案じたが……。
「規律、レイジ!」
ユウキは胸を撫で下ろした。毒などの特殊技も無効化できるらしい。
「スリープ!」
「規律、イミテーション! ついでにこれはもらっておこう」
「なるほど、確かにそれいいかも……」
「ユウキも受け取っておく?」
「あ、じゃあお願いします!」
「パラリシス!」
「イミテーション! おお、やった!」
ユウキは麻痺魔法を一時的に習得した。
「一度しか使えぬから、よく考えて使うのだぞ?」
「はい! 任せてください!」
「さあ、魔力を溜めるがよい。お主はもっと力を秘めておろう?」
「……わかってたんですね。それでは行きます、アクア!」
「もっと来い! 規律、シヴァルリー!」
「アクア!」
「規律、シヴァルリー!」
マリアの魔法を団長がカウンターで受けるというやり取りが何度か続いた後……。
「そろそろ溜まった頃です。行きますよ!」
「ああ、受け止めてみせよう! ユウキは充分に距離を取れ」
「え? は、はい!」
何が何やらわからぬまま、ユウキはマリアたちから離れた。
「それでは……!」
「うむ、来い!」
マリアは両の手に青いオーラを纏った。
「炎よ、水よ、風よ地よ! 汝の秘めたる魔力を現せ!」
マリアは舞いながら両の手を四方にかざしてゆく。すると、その先に四色の光が現れ、直後に団長のそばへ集まり白く輝いた。
「エレメンタルエクスプロージョン!」
団長の周囲で魔力が膨張してゆく。
「規律、シヴァルリー!」
団長のカウンター発動と同時に大爆発が起きた。
「なっ!? これは一体!? 団長、大丈夫ですかー!」
「……さすがに無傷とは行かぬか」
ユウキの予想に反し、団長はほとんどダメージを負っていなかった。
「やっぱり、さすがに受け身技の効果時間内に収まりませんよ」
「そうだな……」
「あ、あの……今の何ですか!?」
「超必殺技だ。お主がこの間使ったエデンは、威力から考えて必殺技だな」
「こんな強力な技が使えたなんて……」
「魔力を溜める余裕があれば、な。私のも見せてやろうか?」
「え!? ちょっと待ってください! あんなの俺、受けきれませんよ!」
「心配要らない。あちらの誰もいない方に向かって撃つ。せっかくだから、必殺技との違いもわかるようにしてやろう。まずはこれだ」
団長が左手を真上へとかざすと、ハンマー状の白い雷が生じた。
「神の鉄槌!」
「ウワァ! しょ、衝撃が!」
団長が雷を床に叩き付けると、まるで地震のように鍛錬場が揺れた。
「では、次に超必殺技を見せようと思うが、今ので魔力が足りなくなったので補充をする。マリア!」
「はい! 行きますよ! アクア!」
「規律、ペイシェンス!」
団長はマリアの水魔法を自身の魔力へと変換した。
「もっとだ!」
「アクア!」
「規律、ペイシェンス! ……よし、これで大丈夫だ」
いよいよ団長の最強の技を見られると、ユウキは胸が躍った。
「行くぞ!」
団長がかざした手の先に白銀の雷雲が生じた。
「こ、これは……!」
そのあまりの強大な魔力に、ユウキは恐怖を覚えた。
「それっ!」
「ウワァァ!」
団長が雷雲ごと地面に叩き付けると、地面が大きく揺れた。
しばらくしてその揺れが収まるまで、ユウキはその場で屈み込むので精一杯だった。
「ああ、びっくりした……」
「といった感じだ。もちろん、ゼフュロスもハイドもスノウも使えるぞ」
「……あれ? 使えないの、俺だけ?」
「そうね」
ユウキは落胆した。ここまでいろんな技を覚えてきたというのに、自分だけが使えない技があるということに。
「まあ、その内使えるようになるであろう」
「ええ!? これは教えてくれないんですか!?」
「こればっかりはな。その人の持ち味がそのまま技となるので、教え様がないのだ。お主のエデンだってそうであろう?」
「……確かに」
「というわけだ。まあ、まずはできることを完璧にしてみてはどうだ? テレポートがまだであろう?」
「そうでした……。練習しまーす、テレポート! うわっとと!」
ユウキは瞬間移動の反動で転びかけた。
「これは本当に時間がかかりそうだな」
「ここは私に任せてください。それより団長はゼフュロスを……」
「そうであったな。そろそろ何か問題を引き起こす頃だろう……」
ユウキの緊張が一気に緩んだ。
「それでは頼んだぞ」
「はい」
団長は入口へと向かった。
「……あのー、マリアさん」
「何?」
「ゼフュロスって、そんなにすぐ問題引き起こすんですか?」
「ええそうよ。彼は問題児だから」
「そうですか……」
ユウキは溜め息を吐いた。
と、その時……。
「何!? なぜ止めなかったのだ!」
入口付近から、団長の怒鳴り声が響いてきた。
「行ってみましょう」
「はい……」
一体何があったのかと、ユウキは不安になりながらも向かった。
すると……。
「団長、どうかしたのですか?」
「これをハイドがゼフュロスから預かったそうだ! もう私は知らん!」
「ああ、ちょっと……! 行っちゃった」
「手紙みたいね」
その内容を読んだマリアの表情がみるみる変化してゆく。
「……な!? あいつ!」
「え? 何ですか? 見せてください。えっと? 団長へ。しばらく旅に出ようと思う。自分探しのためだ、悪く思わないでほしい。もちろん、行く先々でネガティブと会った時には、改心させるのでご安心を。それでは、あなたとの再会を夢見て、自分磨きの旅へ出ます。ゼフュロスより。だって!?」
ユウキは唖然として口を大きく開けた。
「団長ー! 私テレポート覚えましたから、捕まえてきましょうかー?」
「いい! もう勝手にさせておけ! あんな者知らん!」
「あ~あ、怒ってるわね」
「何て言うか……。うん、何て言っていいかもわからないですね」




