テレポート
ハイドが鍛練場を出ようと入り口へ向かう。
すると……。
「がんばっているみたいね」
「あ、マリアさん、スノウさん」
二人が顔を覗かせた。
「団長から聞きました。お帰りなさい、ハイドさん」
「ただいま戻った、スノウ嬢」
「で、ユウキはまた鍛練していたのかしら?」
「はい、トラップとフェイントを覚えました!」
「わあ、さすがユウキさんです!」
スノウにほめられて、ユウキは照れるあまり少しニヤけた。
「後のことは二人に任せるとしよう。私は掃除に戻る。それと、フェイントのことも団長に話しておかねばな」
「あ、はい。ありがとうございました!」
ハイドは影のように消えた。
「ユウキはどうするのかしら?」
「俺はもう少し鍛練しようと思います」
「それなら私も手伝うわ。丁度新しい魔法を覚えたから」
「ええ!? それ、見たいです!」
「見せてあげるわ。テレポート!」
マリアが左手をかざし詠唱すると、その姿が消えた。
「おお!」
「どう? これなら敵の技を避けることができるわ」
マリアは少し離れた場所に再び姿を現した。
「いいなあ……」
「かなり難しい魔法だから、さすがに使えないかもしれないわね」
「確かに……。マリアさんでもやっと覚えた魔法だしなあ」
ユウキはテレポートを発動させる自信がなかった。つい先程も、同じ効果の雲隠れを成功できず仕舞いだったからだ。
「まあ、今の内から練習しておけばいつか使えるようになるかもね」
「はい! やってみます! ……テレポート!」
ユウキはマリアの動作をまねてみた。
「ああ、やっぱりダメか……」
ユウキは自分が同じ位置に立っていたことから、失敗したと思い込み落胆した。
だが……。
「なっ!? 今、一瞬だけ消えなかった!?」
「私も、本の少しだけ消えた気がしました!」
「ほ、本当ですか!? もう一度! テレポート!」
一瞬だけ、ユウキの姿が消えかかった。
「……やっぱりだわ。少しだけ、発動しているわよ!」
「ええ!? 俺が!? 俺がこんな難しそうな魔法を!?」
「もう一回! ほら!」
「はい! 今度はちゃんと発動するようにがんばりますよ!」
ユウキは目を閉じつつ全神経を集中させた。
「テレポート! おお!」
「成功した!? ……五センチだけ」
「でもすごいですよ! さすがユウキさんです!」
「す、すごい! 俺にもテレポートが使えるなんて! ……あ、でもこれ実戦で使えるレベルではなさそうですよね……」
「もう少し練習すれば距離を伸ばせるはずよ! やってみましょう!」
「そうですね! よおし……!」
「がんばってください」
「はい! ……テレポート!」
再びユウキは瞬間移動を成功させた。
「また距離が伸びた!」
「あれ? でも、俺が行こうとした方向と逆に飛んでしまいましたよ?」
「……コントロールも、必要そうね」
「そうですね。テレポート!」
ユウキの瞬間移動が発動し、その結果……。
「何をしておるのだ?」
「わっわっわっ! わー! 痛い!」
入口にいた団長とご対面し、転んだ。
「お主もハイドの真似か?」
「いえ、団長、マリアさんにテレポートを習っているんです……」
「そうか。入り口へ飛ぶのは危ないから、あちらに向かって使え」
「それが、まだコントロールができないんですよ……」
「ふむ、難しい魔法だからな。使えるだけでも大したものだ。だが、それでは無闇に使うわけにもいかないであろうな……」
「そう思って練習してまーす。テレポート! あれ?」
今度は鍛練場から出てしまった。
「これは時間がかかりそうだな……。スノウは何をしておる?」
「見学です。お夕食まではまだまだ時間がありますので、お料理は後で作りますよ?」
「いや、そうではなく……。ゼフュロスが階段から落ちてな、回復を頼みたいのだ」
「あら、それは大変ですね……。今行きます」
「どうせまたハイドと張り合って調子に乗ってただけよ。そうですよね、団長」
「うむ……その通りだ。全く、情けない奴だ」
なぜ掃除しているだけでそんなことになるのかと、ユウキは不思議がった。
「さて、私はお主らの鍛練をしてやろうか?」
「はい、私も魔法の精度を上げたいので、よろしくお願いします」
「うむ。ユウキはテレポートは後だ。今使ったら危険だ」
「あ、はい。わかりました」




