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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
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忍術習得

 ユウキは様々な不安を抱えつつ、ハイドと共に鍛錬場へと向かう。


「私も見て覚えた技だ。きっとお前もできるだろう」

「そ、そうですかね……?」


 どんな理屈だとユウキは心の中でツッコミを入れたが、よくよく考えれば自分も多様な技を見て覚えたのだった。


「着いたか。久しぶりだな、ここの空気は。さて、それでは始めようか」

「はい! よろしくお願いします!」

「それではまずはこれからだ。忍術、雲隠れ!」


 ハイドは左手の人差し指と中指を揃え、ピンと立てた。


「……消えた!」

「こっちだ」


 ハイドはユウキの背後に回っていた。


「便利な技だ。やってみろ」

「はい!」


 ユウキは目を閉じて心を静める。そして、ハイドと同様のポーズをとって見せた。


「……雲隠れ! ……あれ?」


 ユウキはその場から一ミリも動かなかった。


「失敗だな」

「く……! 俺はできる! 俺はできる!」

「そうだ、お前ならできる!」

「……行くぞ! 雲隠れ!」


 再度ユウキは技の使用を試みるが、結果は全く同じだった。


「……できぬようだな」

「やっぱりそう簡単にはできないか……」

「落胆するにはまだ早い。他の技も試してからだ」

「……そうですね。次、お願いします!」

「次はこれだ。忍術、風乗り!」


 先程と同様のポーズをとった直後、ハイドは宙へと浮いた。


「空を飛べたら……アイリスやマコトに対抗することができる!」

「そうだな。やってみよ!」

「今度こそ……。風乗り!」


 やはりユウキの体は一ミリも浮かなかった。


「……やはりダメか」

「くっ! もう一回だ! 風乗り! ……ああもう!」


 ユウキは苛立いらだちのあまり地団太を踏む。


「焦るな。できることを探せばよいのだ。次はこれ。忍術、転換!」

「おお!?」


 ユウキとハイドの位置が入れ替わった。


「さあ、やってみよ」

「……転換!」


 これも全く発動の気配がなかった。


「中々上手くは行かぬようだな……」

「そんな……」

「トラップはどうだ? まきびし!」


 ハイドが左手を地面にかざすと、透明のまきびしが出現した。


「おお! それもありましたね」


 他の技を使える可能性を見出し、ユウキは目を輝かせた。

 だが……。


「トラップ! まきびし!」


 ユウキが動作を真似ても何事も起きなかった。


「……何も出ていないようだ」

「くっ! やっぱり俺に忍術なんか無理なんだ!」

「慌てるな。どれか一つくらい、お前にもできるだろう」

「……そうですかね?」

「ああ、絶対にできる!」

「……俺はできる。俺はできる。俺はできる!」

「そうだ、自分を信じろ!」

「暗雲! 影縫い! 突風!」


 ユウキは左手をかざし、技名を叫んだ。


「む! 今、反応があったぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「私がわざとかかろう。それっ!」


 ユウキが手をかざしていた方向へハイドが走った。


「……これは!」

「……どうですか!?」

「視界が閉ざされた……」

「そ、それじゃあ!」

「暗雲、習得おめでとう!」

「やったー! 俺もやればできるんだ! そうだ、俺は伝説の勇者なんだから、忍術だって使えるんだ!」


 ユウキはうれしさのあまり飛び上がった。


「それはよいとして、早く解いてくれぬか?」

「あ、ああ、すみません! えっと、こうかな?」


 ユウキは念じながら左手をかざした。


「……うむ、戻った」

「これでまた少し強くなったぞー!」

「……ついでにこれもどうだ? 行くぞ!」

「え? うわっ! ……あれ?」


 ユウキの目にはハイドが切りかかってくるのが見えた。その刃先が当たるところまで見ていたというのに、実際は何ともなかった。


「今のは幻だ。私があのくノ一から盗んだ技の一つ、フェイントだ」

「え!? でも、これって何に使うんですか!?」

「これまでに何度も見ただろう。それにお主自身が使っていたはずだ」

「え? な、何を!?」

「カウンター技だ」

「あ……ああ!」


 ユウキは理解した。カウンターのタイミングをらすのにフェイントが役立つということに。


「これは実際には攻撃していない技だ。当たってもカウンターが発動することもない」

「本当ですか!?」

「やってみるがよい。行くぞ!」

「はい!」

「それっ!」

「レイジ! ……あ、あれ?」


 いつもならパワーが沸き上がってくるはずが、ユウキは何も感じ取ることができなかった。


「タイミングは合っていたはずなのに……」

「これでカウンターに隙を作るのだ。そうすれば、その間に真の攻撃を当てることができる」

「なるほど! それじゃ、やってみます!」

「一応私もアクワイアーを使おう。それでは、来い!」

「はい! 行きますよ? それっ!」

「アクワイアー! ……む」


 ユウキの拳は見えない壁に阻まれた。その動きの反動で、カウンターの効果切れまでユウキは次の動作を行えなかった。


「発動したということは失敗だな」

「く! もう一回! トリャア!」

「アクワイアー! ……今度も発動してしまったな」

「難しいな……。俺、これまでに技を教わる時ってコツを教わったんです。何かこれもポイントとなりそうなことないですか?」

「そうだな……。影になること、かな?」

「影、ですか……」


 ゼフュロスがウィンドを教えた時同様、抽象的な答えが返ってきた。だが、ユウキはそこからヒントを得た。


「さあ、来い!」

「今度こそ……! それっ!」

「アクワイアー! ……む?」


 ハイドのカウンターが空振り、隙が生じた。


「発動しない」

「……え? それって!?」

「習得おめでとう。中々の才能だな」

「お、おお! やったー! ありがとうございます! ちゃんと使いこなしてみせます!」

「そうだな。技は使いこなさねば意味がない。あのくノ一のように、元は自分の技だというのに易々とかかるようではダメだ」

「あれは確かに情けなかったですね……」

「さてと、戻るとしようか。掃除の続きもせねばならん」

「お疲れ様です……」


 ユウキはハイドも案外情けないなと苦笑した。

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