忍術習得
ユウキは様々な不安を抱えつつ、ハイドと共に鍛錬場へと向かう。
「私も見て覚えた技だ。きっとお前もできるだろう」
「そ、そうですかね……?」
どんな理屈だとユウキは心の中でツッコミを入れたが、よくよく考えれば自分も多様な技を見て覚えたのだった。
「着いたか。久しぶりだな、ここの空気は。さて、それでは始めようか」
「はい! よろしくお願いします!」
「それではまずはこれからだ。忍術、雲隠れ!」
ハイドは左手の人差し指と中指を揃え、ピンと立てた。
「……消えた!」
「こっちだ」
ハイドはユウキの背後に回っていた。
「便利な技だ。やってみろ」
「はい!」
ユウキは目を閉じて心を静める。そして、ハイドと同様のポーズをとって見せた。
「……雲隠れ! ……あれ?」
ユウキはその場から一ミリも動かなかった。
「失敗だな」
「く……! 俺はできる! 俺はできる!」
「そうだ、お前ならできる!」
「……行くぞ! 雲隠れ!」
再度ユウキは技の使用を試みるが、結果は全く同じだった。
「……できぬようだな」
「やっぱりそう簡単にはできないか……」
「落胆するにはまだ早い。他の技も試してからだ」
「……そうですね。次、お願いします!」
「次はこれだ。忍術、風乗り!」
先程と同様のポーズをとった直後、ハイドは宙へと浮いた。
「空を飛べたら……アイリスやマコトに対抗することができる!」
「そうだな。やってみよ!」
「今度こそ……。風乗り!」
やはりユウキの体は一ミリも浮かなかった。
「……やはりダメか」
「くっ! もう一回だ! 風乗り! ……ああもう!」
ユウキは苛立ちのあまり地団太を踏む。
「焦るな。できることを探せばよいのだ。次はこれ。忍術、転換!」
「おお!?」
ユウキとハイドの位置が入れ替わった。
「さあ、やってみよ」
「……転換!」
これも全く発動の気配がなかった。
「中々上手くは行かぬようだな……」
「そんな……」
「トラップはどうだ? まきびし!」
ハイドが左手を地面にかざすと、透明のまきびしが出現した。
「おお! それもありましたね」
他の技を使える可能性を見出し、ユウキは目を輝かせた。
だが……。
「トラップ! まきびし!」
ユウキが動作を真似ても何事も起きなかった。
「……何も出ていないようだ」
「くっ! やっぱり俺に忍術なんか無理なんだ!」
「慌てるな。どれか一つくらい、お前にもできるだろう」
「……そうですかね?」
「ああ、絶対にできる!」
「……俺はできる。俺はできる。俺はできる!」
「そうだ、自分を信じろ!」
「暗雲! 影縫い! 突風!」
ユウキは左手をかざし、技名を叫んだ。
「む! 今、反応があったぞ」
「ほ、本当ですか!?」
「私がわざとかかろう。それっ!」
ユウキが手をかざしていた方向へハイドが走った。
「……これは!」
「……どうですか!?」
「視界が閉ざされた……」
「そ、それじゃあ!」
「暗雲、習得おめでとう!」
「やったー! 俺もやればできるんだ! そうだ、俺は伝説の勇者なんだから、忍術だって使えるんだ!」
ユウキはうれしさのあまり飛び上がった。
「それはよいとして、早く解いてくれぬか?」
「あ、ああ、すみません! えっと、こうかな?」
ユウキは念じながら左手をかざした。
「……うむ、戻った」
「これでまた少し強くなったぞー!」
「……ついでにこれもどうだ? 行くぞ!」
「え? うわっ! ……あれ?」
ユウキの目にはハイドが切りかかってくるのが見えた。その刃先が当たるところまで見ていたというのに、実際は何ともなかった。
「今のは幻だ。私があのくノ一から盗んだ技の一つ、フェイントだ」
「え!? でも、これって何に使うんですか!?」
「これまでに何度も見ただろう。それにお主自身が使っていたはずだ」
「え? な、何を!?」
「カウンター技だ」
「あ……ああ!」
ユウキは理解した。カウンターのタイミングを逸らすのにフェイントが役立つということに。
「これは実際には攻撃していない技だ。当たってもカウンターが発動することもない」
「本当ですか!?」
「やってみるがよい。行くぞ!」
「はい!」
「それっ!」
「レイジ! ……あ、あれ?」
いつもならパワーが沸き上がってくるはずが、ユウキは何も感じ取ることができなかった。
「タイミングは合っていたはずなのに……」
「これでカウンターに隙を作るのだ。そうすれば、その間に真の攻撃を当てることができる」
「なるほど! それじゃ、やってみます!」
「一応私もアクワイアーを使おう。それでは、来い!」
「はい! 行きますよ? それっ!」
「アクワイアー! ……む」
ユウキの拳は見えない壁に阻まれた。その動きの反動で、カウンターの効果切れまでユウキは次の動作を行えなかった。
「発動したということは失敗だな」
「く! もう一回! トリャア!」
「アクワイアー! ……今度も発動してしまったな」
「難しいな……。俺、これまでに技を教わる時ってコツを教わったんです。何かこれもポイントとなりそうなことないですか?」
「そうだな……。影になること、かな?」
「影、ですか……」
ゼフュロスがウィンドを教えた時同様、抽象的な答えが返ってきた。だが、ユウキはそこからヒントを得た。
「さあ、来い!」
「今度こそ……! それっ!」
「アクワイアー! ……む?」
ハイドのカウンターが空振り、隙が生じた。
「発動しない」
「……え? それって!?」
「習得おめでとう。中々の才能だな」
「お、おお! やったー! ありがとうございます! ちゃんと使いこなしてみせます!」
「そうだな。技は使いこなさねば意味がない。あのくノ一のように、元は自分の技だというのに易々とかかるようではダメだ」
「あれは確かに情けなかったですね……」
「さてと、戻るとしようか。掃除の続きもせねばならん」
「お疲れ様です……」
ユウキはハイドも案外情けないなと苦笑した。




