帰還
ユウキとハイドは本部に向かいながら話していた。
「久しぶりに戻ることになるな。団長たちは元気か?」
「あ、はい。みんな元気ですよ。それにしてもスパイだなんて、危なくなかったのですか?」
「団長に先に断ったら、きっと止められただろうな……」
無断と聞いてユウキは呆れた。ポジティブの男はみんな勝手なのかと。
だが、よくよく考えると自分も山岳地帯でスノウに迷惑をかけていた。
「さてと、着いたな」
「あ、ちょっと待ってください! 怒られる心の準備、できてるんですか?」
「怒られる? なぜだ?」
ユウキは思った。ゼフュロスとは違う意味でこの人はダメだと。
「ただいま戻った」
「あ、ちょっと!」
「……そんな! お主は!」
団長が驚きのあまり口を開けっ放しにしている。
「団長、久しぶり。元気にしておったか?」
「ハイド! 生きておったのか!?」
「む? どうして私が死ぬというのか?」
「無事で本当によかった! あの戦闘の後、姿が見えなかったのでな……」
「ネガティブに潜伏しておったのだ。奴らの動きを知るためにな」
「何!? お主まで勝手な真似を……!」
ハイドが怒られると思ったユウキは思わず顔を背けた。
「このっ! ばか者がー!」
「どうしたのだ? 団長?」
「人がどれだけ心配したと思って……! うっ……うっ……!」
ユウキは驚いて向き直った。団長がハイドに抱き着き、泣いている。
「おいおい、俺の時とは随分違うじゃん。俺が戻った時は一喝して終わりだったのに……」
ゼフュロスが不平を漏らした。
「いや、俺もそうなると思ってた。ハイドさんも怒られるんだろうなって」
「罰として掃除だ掃除!」
「あ、やっぱり怒られてる……」
「悪かった、心配をかけたな。だが、おかげで奴らの技を少々盗んで参ったぞ?」
「おお、やるじゃん! やっぱり世の中行動が大事だよな!」
ゼフュロスが余計な一言を漏らした瞬間、団長が鬼の形相を向けた。
「何てことを言っておるのだ! お主も一緒に掃除しろ!」
「あ~あ、言わなきゃよかった……」
「ほら、掃除して来い!」
「はいはいっと」
ゼフュロスはハイドと共に掃除用具を取りに向かった。
「あ、そうだ。俺も報告しないと! 団長、森で二人のネガティブと遭遇しました!」
「何!? まだ他にもおったのか!」
「はい。あ、でもハイドさんの調査によるとこれで全部らしいです。一人は団長と同じ技を使う老人、もう一人はハイドさんと同じ技を使う女でした」
「ふむ、くノ一か……」
団長が考え込んでいたその時……。
「あ、ちなみに私と同じ技を使っている女というか、私が奴の技を盗んだのだ」
「わあ! 一体どこから……」
突然宙に現れたハイドにユウキは腰を抜かした。
「いいからお主は早く掃除しろ!」
「承知!」
また変な仲間が増えたことにユウキは深く溜め息を吐いた。
「団長、ハイドさんの技はどれも強力な物です。見えない罠を設置したり、空も飛べます! あれと同じことをしてくると考えると、かなり厄介な存在です!」
「ふむ……」
「そうでもないぞ? あのように短気であってはな」
「わっ! それ、びっくりするからやめてくれません!?」
「それとはどれのことだ?」
ハイドは本気でわからない様子で首を傾げた。
「お主はいいから早く掃除に行け!」
「承知!」
ユウキは再度溜め息を吐いた。
「で、その罠というのはどういったものだ?」
「透明なまきびしに動きを封じるもの、それから視界を奪うものも! 後は突風を起こすものもありました」
「四種類か……。おい、ハイド」
「お呼びか?」
ハイドは天井に貼り付きながら応答した。その手には雑巾が握られている。
「今ので全てか?」
「左様。そして忍術は雲隠れ、風乗り、転換の三つだ。それぞれ順に縮地、飛翔、入れ替えの効果だ」
「わかった。掃除に戻れ」
「承知!」
ハイドは天井を雑巾がけしながら奥へと消えた。
「ふむ、後でマリアとスノウにも伝えておこう」
「そういえば二人は?」
「少し外に出ておる。あの二人なら心配要らぬであろう」
団長の言葉には、ゼフュロスだと心配だという意味が込められていた。その身を案じているのではなく、いなくなることが心配なのだった。
「ハイドが技を盗む元となった女。そして、私と同じ技を使う者か……」
「はい。シヴァルリー以外は別な名前でしたが、恐らく同じ技です。レイジの代わりにアヴェンジ、イミテーションの代わりにリタリエイション、それとこれは多分ですけどペイシェンスの代わりにヘイトレッドです」
「メディテーションの代わりもあることだろう……。厄介な敵だな。今後、戦いはより激しくなるだろう」
「そうですね……。俺も、もっと強くならないと!」
ユウキは握りしめた右手を見つめた。
「ふむ、やる気が出たようだな。それならハイドに忍術を教わってはどうだ?」
「忍術を!? 俺にできますかね……?」
「お主なら大丈夫だろう。というわけだ、ハイド」
「承知致した!」
「わあ!」
ハイドは壁から姿を現した。
「あの……その出方、やめてもらえません?」
「普通に出ただけだが? さあ、鍛練場へ行くとしよう!」
「それがあなたの普通なんですか……」
ユウキは溜め息を吐き、ハイドの後を追った。




