ハイド見参
「覚悟しろネガティブ……。斬風!」
「正義は我が名の下に! ダークブリング!」
ユウキは敵と味方を勘違いしていた。ハイドと名乗った黒装束の男がポジティブの一員で、ジャスティスと名乗った老人がネガティブだ。
「やるな……。だが、時間の問題だ。斬風!」
「天則、アヴェンジ!」
アヴェンジ。ワイルドが同名のカウンター技を使っていたのをユウキは思い出した。
「無駄だ、大人しくしろ。命だけは助けてやる」
「誰がそんなことを! ダークブリング!」
「忍術、転換!」
「何!? グォォ!」
ユウキには何が起きているのか見えないが、二人の間では技の応酬が繰り広げられていた。ハイドの技により二人の位置が入れ替わった結果、ジャスティスは自分で放った技をその身に受けた。
「一つ聞きたい。あいつもお前の仲間か?」
「うむ、先程あったのだがな、同じ志を持った者だ」
「おい待て!」
ユウキが慌てて叫ぶ。
「俺は勘違いしていただけだ! おじいさんがポジティブでお前がネガティブだと思ったから協力しただけだ!」
「……新しいタイプ、嘘をつくネガティブか?」
「違う! 本当だ! 何で信じてくれないんだよ!」
「……まあいい、後でまとめて団長に引き渡そう」
ユウキにとって引き渡されるのは構わなかったが、その前に攻撃してきそうな気がしてならなかった。
「行くぞ、忍術、風乗り!」
ハイドは宙へと舞った。
そして……。
「連撃!」
そのまま目にも止まらぬ速さで何度もジャスティスを斬り付けた。
しかし……。
「天則、リタリエイション!」
その技はカウンター技に吸収されてしまった。
「む?」
「お主の技、返してやろう! 連撃!」
「なっ!? くっ!」
リタリエイション。技名は違うが、相手の技をコピーするという効果はイミテーションと同じだった。
「大丈夫か? お主、咄嗟に嘘をついてやり過ごすとは、さすがだな」
ジャスティスがユウキに駆け寄り、声をかけた。
「ウォォ! ライトブリング! シューティングスター!」
「お、おい! 私に当たるであろう! 落ち着くのだ!」
「俺はお前を狙っているんだよ! どこだ!? どこにいる!? ウィンド! シューティングスター!」
「ふむ。天則、ヘイトレッド! なるほど、そういう作戦なのだな」
「違う! 俺はお前の仲間じゃない!」
ジャスティスもハイドも、ユウキをネガティブ側の人間と信じて疑わない。
「私にはどうもお前が演技しているようにしか思えん。まずはお前からだ、連撃!」
「何でわかってくれないんだよ! レイジ!」
ユウキは視界を封じられたままカウンターで対抗した。
「……この技は!」
「いい加減にわかれよ! 俺はポジティブの一員、ユウキだ!」
「今のオーラ、確かに聖なるものであった。それに、先程のライトブリングとシューティングスターも含めて考えると……」
「そうだ! やっとわかったか!」
「こいつ、相当演技が上手いな」
「そうじゃないって言ってんだろうが!」
「冗談だ。さすがに技のオーラを感じ取れば正義か悪かわかる。疑ってすまなかったな。私はハイド、今お主にかかった暗雲を解いてやろう」
「本当か!? って、もう見えるようになった!」
「さて……」
ユウキとハイドはジャスティスの方へ向き直った。
「これでいよいよお主が追い詰められたわけだが、まだ降伏しないのか?」
「ふむ、確かに少し不利だな」
「それなら……。む? 後ろに気をつけろ!」
「なっ!? レイジ!」
ハイドのおかげでユウキのカウンターは間に合った。飛んできた技は斬風だった。その方向を見ると……。
「全く、帰りが遅いから来てみれば……」
緑の頭巾と着古したマントを纏った女性がこちらへ向かって来ていた。
「おお、ネメシス殿! よくぞ来てくれた!」
「私が来たからには、この勝負決まりね」
ネメシスと呼ばれたその女性は、ユウキたちの頭上を越えてジャスティスのそばに降り立った。
「な、何だ!?」
「奴もネガティブの一人だ」
「何よネガティブって! 私は聖騎士団の一員よ! In the World……この孤独な世界の中で!」
ネメシスはユウキたちに向かって高らかに宣言した。
その様子を見ながら、ハイドはユウキにささやく。
「私はネガティブに潜伏して情報を得た。それによると、あやつらと後は四人だけだ」
「アイリス、ワイルド、ダーク、マコトか!?」
「その通り。すでに知っていたのか……」
「お取込み中のところ悪いんだけど、私はあんたに用があるのよね。よくも私の技を……!」
「これのことか? 斬風!」
「そうそれよ! っと、スラッシュ!」
ハイドの放った衝撃波を、ネメシスは青く透き通った刃で弾き飛ばした。
「防がれたか……」
「当たり前でしょ!? それは私の技よ?」
「簡単だったのでな、習得させてもらった」
スパイ活動をしつつも技を盗むハイドの仕事ぶりにユウキは感心した。
「私のことも忘れてもらっては困るぞ? ダークブリング!」
「丁度いい、試してみよう。アクワイアー」
アクワイアー。それはマコトが使っていたカウンター技と同名だった。
ジャスティスの放ったダークブリングがハイドに当たる直前消えた。
「どうせはったりよ! そんな技使えるわけが……」
「どれどれ? ダークブリング!」
ハイドは左手をかざし、ネメシスに向かって黒い衝撃波を放った。
「なっ!? うそでしょ!? っと、スラッシュ!」
ハイドのアクワイアーは紛れもなく発動していた。それにより一時的に使用可能となったダークブリングに、ネメシスも認めざるを得なかった。
「これは団長へいい土産ができたな。彼らの技も教えてやろう」
「あ、すみません……その……」
「む? 何だ?」
「俺がほとんど、多分ほとんど教えちゃいました……」
「……無念」
ハイドは落ち込むあまりその場に屈み込んでしまった。
「チャンス! 行くわよ! なっ!? キャー!」
飛び込んでこようとしたネメシスが、そのまま後方へと吹き飛ばされた。
「甘い。トラップ、突風!」
さっきまでがっかりしていたというのに、もう立ち直っていた。
「お前にはかからぬようにしておいた。安心してよい」
「あ、えっと……はい」
「おのれー! それも私の技じゃないか! 私の華麗なる妖術をよくも易々と!」
「すでに私の技として生まれ変わっている。これはもう紛れもなく、私の忍術だ」
「もう許さないわよ! 胡蝶の舞!」
ネメシスは妖精の翅を生やし、宙へと舞った。
「このまま行くわよ! ってあれれ!? 動かない!」
「トラップ、影縫い! お主は落ち着きがないようだな」
「うるさいわね! 全部私の技じゃないのよ!」
ネメシスは顔を真っ赤にして叫んでいる。
「ネメシス殿、今助けに参る!」
「まずい! せっかく動きを止めたのに!」
ユウキは慌ててジャスティスを妨害しようとする。
しかし……。
「心配要らぬ、見ておれ」
「え?」
「痛た! な、何だこれは!?」
ジャスティスは悲痛の表情を浮かべながら足を擦っている。
「トラップ、まきびし。透明なので厄介だろう?」
「おのれー! 一度帰るわよ!」
「う、うむ! テレポートアイテム発動!」
ジャスティスがかざした宝玉が緑色の光を放ち、一瞬の後に敵は姿を消した。
「ああ! あいつら逃げた!」
「深追いは禁物。さて、戻るとしよう」




