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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
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新たなる敵、新たなる味方

 本部の外へ出たユウキは、まず最初に店を見回ることにした。マリアからもらったお金もまだ使っていなかったからだ。

 様々な売り物に目移りしていると……。


「あら、いらっしゃーい。回復薬、毒薬、それから爆薬!」

「うっ!」


 例の薬屋に呼び止められた。


「すみません、遠慮しておきます……」

「はーい。また来てねー」


 ユウキはこの店にはもう立ち寄らないことにした。爆薬は危ないし、ヒールを使えるようになった今は回復薬もいらないからだ。

 しかし、そうなると何を買えばいいのかわからなくなる。武器や防具も彼は使いこなせそうにない。

 悩みながら歩いていたユウキは、とある店の商品に目を奪われた。幽霊をかたどったお茶目な粘土細工、内部に妖精や星の装飾を閉じ込めた半透明の球体、緑色の石を先端に付けた杖などがある。


「おや? いらっしゃい! ここはおもちゃしか売ってないけど。お兄さん、弟か誰かへのお土産かい?」

「あ、えっと、そんな感じです……」

「どれでも好きなのを選んでくれ」

「と、言われましても……。これってどうやって遊ぶんです?」

「何だ知らないのかい? こっちは家のどこかに消えるかくれんぼ用の『探しておばけちゃん』、そっちがお風呂でも使えるオルゴール『歌って妖精さん』、そんでこれが誰でも微風を出せる『魔法使いの杖』だ」


 ユウキは苦笑した。どれも今の彼にはいらないものだからだ。ゼフュロスがいるので人探しもにぎやかなのもたくさんだし、杖に至っては風魔法が使える彼にとって全くの無意味だ。


「他には何かないんです? あまり騒がしくないものがいいです」

「それならほら、これなんてどうだい? 水のランプ! ほら、こうして水を入れるだけで灯りが点くんだよ! 小さいから持ち運びも楽だし」


 店主が取り出したランプは手のひらサイズだった。帰りが遅くなった時に便利そうであり、ユウキにとって珍しいものでもある。


「それ、いくらですか?」

「三百ゴールドだよ」

「じゃあ、買います」

「おお! ありがとな!」


 ユウキはランプをポケットに入れた。

 買い物の次は森へと向かうことに決め、ユウキは町を出る。

 思えば初めてこの世界に来た時も、ネガティブが火を着けようとするのを阻止した時も、彼は森周辺では戦ってばかりだった。

 今回、息抜きに訪れることは彼にとって新鮮な体験でもある。それと同時に、マリアやスノウと来てもよかったと少し後悔した。

 森の入口まで来た彼は、その静まり返った空気を肌で感じ取る。

 と、その時……。


「誰かおるのか?」

「え!? だ、誰だ!」


 ユウキの脳裏にネガティブの存在がぎる。


「おお、すまない。驚かせてしまったようだな」

「あ、大丈夫です」


 現れたのは、穏やかな表情を浮かべた老人だった。だが、その雰囲気とは裏腹に金色の鎧で武装している。


「最近野蛮な奴に追われておってな、少し身構えておったのだ」

「そうだったんですか」


 野蛮な奴と聞き、ユウキはネガティブを連想する。早く何とかしなければと、彼は改めて心に誓った。


「む? 危ない!」

「え? うわっ!?」


 老人は咄嗟にユウキを突き倒した。そのギリギリ上を、鋭い衝撃波が通り過ぎた。


「この技は……斬風!」


 ユウキはアイリスやワイルドが同じ技を使っていたことに気付いた。


「……その老人を渡せ」


 木々の間から低い声が響き渡る。


「な!? 渡すわけないだろ! どこだ!? 出てこい!」

「……む! 来るぞ!」

「おじいさん! 俺が!」

「いや、私が何とかしよう!」


 老人はユウキを庇った。だが、自分の代わりに老人が傷付くことなどユウキは望んでいない。


「おじいさん、危ない!」

「心配ご無用! 天則、シヴァルリー!」


 飛んできた斬風に手をかざすと、衝撃波は老人に当たる直前に消えた。


「その技は……!」


 シヴァルリー。同じ名前のカウンター技を団長が使っていたことにユウキは瞬時に気付いた。


「うむ、これで備えは完璧だ」

「……隙あり!」

「なっ!?」


 黒装束の男が突如現れ鋭い刃を振るったが、ユウキは紙一重でその攻撃を避けた。

 鉄仮面を身に着けているため、その男の表情はわからない。


「……なかなかやるな。忍術、雲隠れ!」


 不意に男は姿を消した。


「出て来い卑怯者! 俺が相手だ!」

「危ない! 天則、シヴァルリー!」

「なっ!?」


 老人がユウキの後ろに周った。またしても衝撃波は老人の使用したカウンターにより消える。

 ユウキは自分が背後から狙われていたことに、ここでようやく気が付いた。


「すみません! ありがとうございます!」

「気にするでない。それより、ここは一度退こう。テレポートが封じられた宝玉を使う!」

「はい!」


 ユウキは老人の冷静さに感心した。


「それっ!」


 老人が宝玉を空へとかざすと一瞬緑色の光に包まれ、その直後ユウキは知らない場所にいた。


「……よし、成功だ」

「……ここは?」

「森にある洞窟だ。帰ることもできたが、あいつを野放しにもできぬ」

「戦うつもりですか!?」

「うむ、この世界の秩序を乱す者は許さん」


 ユウキはこの老人がポジティブの一員なのではないかと思い始めていた。


「お主も力を貸してくれぬか?」

「はい! 喜んで!」

「うむ、ありがとう。さて、ここに一度戻ってきた理由だが……」


 ユウキはごくりと唾を飲んだ。何か策を用意するのかと期待していると……。


「剣を忘れたからだ」


 ユウキは拍子抜けすると同時に、この老人に任せておいて大丈夫なのか不安になった。


「うむうむ、世界に平和を導こうとする者が、剣を忘れたとはな。よし、それでは行こうか」

「あ、はい」

「……と思ったが、どうやら向こうから来たようだな。洞窟の外に気配がする」

「もう見付かったのか……何て奴だ!」


 ユウキたちが洞窟に着いてからまだ一分程しか経っていない。黒装束の男の足の速さと索敵能力を認めるしかなかった。


「同時にここを出て、迎撃を試みるとしよう。よいな?」

「はい!」

「では行くぞ? ……今だ!」

「ライトブリング!」


 老人の合図と同時に、ユウキは遠距離技を放ちながら剣を振りかざして突撃した。


「トリャアア! ……あれ?」


 入口付近ですぐさま剣を無我夢中に振り回したが、黒装束の男はそれを先読みしていたらしく少し離れた場所にいた。


「……出てきたか。大人しくその老人を渡せ」

「誰が渡すもんか! おじいさん、大丈夫ですよ!」

「うむ、頼むぞ」

「力ずくでも渡してもらおう」

「そうはさせるか! ウォォ!」


 ユウキは剣を振りかぶり、黒装束の男へと突進した。

 だが……。


「……ふ、かかったな」

「何!? うわっ!」


 不意にユウキの視界が闇に閉ざされた。


「トラップ、暗雲。お前はそこでそうしていろ」

「く……! ライトブリング!」


 ユウキは男が先程いた場所へと攻撃を放った。

 だが……。


「どこを狙っている。私はこっちだ」


 いつまでもそこに立っているわけもなく、ユウキは完全に男を見失った。


「いざ尋常じんじょうに勝負! In the World……このにぎやかな世界の中で」

「うむ、受けて立とう! In the World……この不完全な世界の中で」

「え? 今何て……」

「ポジティブの一員として、私ハイドはお前を許さぬ」

「ふむ、よろしい。騎士団の名の下に、私ジャスティスがお主をとがめよう!」

「おい……。うそだよな? うそだろおお!?」


 ユウキはようやく気付いた。自分が大きな誤解をしていたことに。

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