ネガティブの価値観
その後、ユウキたちは本部へと戻った。
「……で、あれから三十分経つんだけど」
「こら、ゼフュロス! 黙っていろ!」
「だってさあ、あのままずっと放心状態じゃん!」
「……ごめん」
ユウキは俯いたまま顔を上げようとしない。
「無理するな、話したくなったらでよいのだぞ?」
「……いえ、話しておかないと。前に話した俺の友達、ネガティブのリーダーでした」
「ユウキさんのお友達が!?」
スノウは驚愕のあまりぽっかり空けてしまった口を手で隠す。
「怪しいと思ってたのよね……。やっぱりそういうことだったんだ……」
「でも、何で君の友達ともあろう人が、そんなことになったんだい?」
「ふむ、確かにそうだな……」
「……マコトは、白い髪が理由で昔いじめられていたんです。俺の住んでた国では珍しかったので……」
「ほう、酷いことをする者がおるのだな」
「それで、俺がいじめを止めようとしたんですが、今度は俺がいじめの標的にされてしまい……。それを見てマコトは世界を憎むようになったみたいなんです……」
「何だか意外な事実です。その人も、きっと苦しかったのですね……」
スノウがマコトを憐れみ、目を閉じて祈りをささげた。
「私たちもネガティブに対して考えるべきところがあるかもしれぬな」
「俺、どうしたら……」
「……そうだな、しばらくは休むとよい。心の休養が必要であろう」
「そうそう。こういう時は休むのが一番だぜ! 俺も休もうっと!」
「あんたは鍛練しなさいよ」
マリアは外へ向かおうとするゼフュロスの腕をつかんだ。
「えー?」
「いや、他の者も休んでおけ。ゼフュロスもだ」
「何で俺だけ別に言ったの? ねえ、団長」
「その間くらい、ネガティブが大人しくしていてくれるとよいのだが……」
「あ、それなら大丈夫です。マコト、少し俺に考える時間をくれるって言ってましたから……。あいつの意図することとは別なことを考えないといけなさそうですが……」
「ふむ、それなら大丈夫そうだな。では、しばらくは休憩にしようと思うが、その前にそいつが使った技を教えてもらえるか? 私が対策を練ろう」
「はい……。まず団長たちに使ったのが、ダークブリングやスラッシュ、それから黒いウィンドです。マコトはその技をシュバルツウィンドと言ってました」
「ふむ、全ての属性の技を使えるようだな」
「それからネザーワープとルシフェルウィング、ファントムダンス、シェイドムーン、アクワイアーという受け身技もです。それぞれ順に、シャドウ、ブラックパピヨン、ネクロマンシー、ヒール、イミテーションと同じ効果でした」
「なっ!? 移動技も回復も使用するのか!?」
「召喚や技のコピーまで……」
マコトの戦闘力の高さに一同が驚愕した。
「後、不用意に攻撃したため、シューティングスターまでコピーされてしまいました。すみません……」
「思った以上に厄介だな。恐らくそれはまだ、彼の使う技の本の一部であろう」
「……マコト、一体何考えてるんでしょうね」
ユウキはマコト自身に対する心配で頭がいっぱいなため、団長と同じように作戦を立てる余裕がない。
「すまないな、時間を取らせてしまって。もう休んでいてよいぞ」
「はい。少し一人にさせてもらいます……」
「うむ、ご苦労」
ユウキは寝室に向かい、ベッドに腰かけた。
無意識の内に、彼の口から言葉がこぼれ落ちてゆく。
「……これからはマコトとも戦わなければならなくなるのかな? 何で傷つけ合わなければならないんだろう? あいつだって悪を憎んでいたはずなのに、どこで道を踏み外したんだよ? なあ、マコト!」
ユウキは悔しさを噛みしめるように拳を握った。なぜ、悪ではなかったはずの者が悪になってしまったのか。
ユウキの脳内に死んだ時の映像がフラッシュバックする。自分を刺した男、つまり襲われていた女性の夫は、なぜ悪にならなければならなかったのか。人が悪に染まってしまうその理由が、彼にはわからなかった。
「……アイリスやダークもそうなのかな? 元はこんなことをする人間じゃなかったのかもしれない。あいつら、そもそも何であんなに世界を憎んでいるんだろう? ネガティブが口々に言っていたIn the World……それぞれの価値観。その中に、何かヒントとなりそうなものはないのか?」
ユウキはネガティブたちのIn the Worldを思い出した。
アイリスは、In the World……この醜い世界の中で。
ダークは、In the World……この夢のない世界の中で。
ワイルドは、In the World……この陰湿な世界の中で。
「……何で世界をそんなに否定的に捉えるんだ? あいつらも、本当は被害者なのか……? わからない……。 わからない!」




