絶望的な戦い
ネガティブの反撃が始まった。
アヴェンジにより攻撃力を増したワイルドが、爪による斬撃や勢いに任せた突進を連続で繰り出す。マリアとスノウは、その暴れ狂うごとき猛攻をウォールで何とか凌いでいる。
「俺も行くぜえ?」
ダークは弓を構える動きを見せる。それは以前の戦いで彼が使った技、ソニックアローの初動だ。見えない攻撃なので、先に封じないと厄介だとユウキは判断した。
「シューティングスター!」
「狙い通りだ。それっ! ウィンド!」
「何!?」
ダークは体勢を瞬時に立て直し、風魔法でユウキの攻撃を返した。先程のソニックアローの動作はフェイクであり、ユウキは守りの技を使うように誘導されただけだった。
「星は任せな。ウィンド!」
「私は風を消します。ライトブリング!」
ゼフュロスとスノウは上手く技の軌道に合わせ、それぞれの技で再び返す。
だが……。
「後ろががら空きよ? 斬風!」
後ろに回り込んでいたアイリスが攻撃を仕掛けてきた。しかも、ブラックパピヨンまで使用済みだ。
「邪魔はさせないわ。ウォール!」
「みんなまとめて眠りなさい。秘術の参、ネクロマンシー!」
半透明の壁で攻撃を防いだマリアだが、アイリスは攻撃の手を緩めない。鎌を両の手で天へと掲げ、赤紫の魔法陣が高速で回り出す。そして、それらは黒い光を放ち、三体の骸骨を召喚した。
「これは俺に任せてください! ライトブリング! シューティングスター!」
「もう一体いるけれど?」
ユウキは遠距離技を連発するが、三体目まで手が回らない。
目前に迫った骸骨の攻撃を防ぐのも間に合いそうになく、ユウキは一撃もらうのを覚悟したが……。
「エレガントダンス!」
「なっ!? ギャアア!」
ゼフュロスが瞬時に助けに入った。投げ飛ばした骸骨が命中し、アイリスは苦しみもがいている。
一息ついたかと思ったその時。
「俺様を忘れてないか? チャージ完了だぜ!」
後方から野蛮な声が轟いた。ダークとアイリスに苦戦している間に、ワイルドが自身の強化を済ませてしまっていたのだ。
「ついでにクレイジーも使わせてもらった。しばらく俺は痛みを感じない!」「な!? そんな技まで!?」
「行くぜ!」
ワイルドは爪をかざして襲いかかってきた。
「シューティング……」
「させるかよ!」
「うぐっ!」
ワイルドのタックルが炸裂する。咄嗟のことでカウンターのタイミングが合わないどころか、前もって守りの技で応戦することすら間に合わない。
「俺も行くぜえ? ダークブリング! ウィンド!」
「私が防ぎます! シューティングスター! ライトブリング!」
ダークの打撃と投げの遠距離技に、スノウが守りと打撃の遠距離技で対抗している。闇の衝撃波と風魔法はそれぞれ星形の岩と光の衝撃波により撃退され、的確に防げたかのように見えたが……。
「隙あり! ブラッディクロー!」
「きゃー!」
恐ろしい速さでワイルドがスノウの方へ向かい、背後から鋭い爪で攻撃した。その痛みにより怯んだ隙を突き、ワイルドは鉄拳と蹴りを重ね、さらに上空へと投げ飛ばした。
「スノウさん!」
ユウキはどうすることもできなかった。目も思考も動きも追いつかない。
「暴れてやるぜ! キマイラウィング!」
ワイルドは羽を生やし、空へと舞い上がった。そして、スノウへとさらなる追撃を試みる。
「まずはお前からぶっ壊れてもらう!」
「おっと、そうはさせないぜ」
ゼフュロスが瞬時に助けに入った。高く跳躍し、そのまま再び空気を蹴りつけてより高く跳ぶ。二段ジャンプを駆使してスノウのいる高さまで辿り着き、彼女を抱えて着地した。
だが……。
「甘いな!」
ワイルドが瞬時に移動し、大きく振り被った爪の一撃を浴びせた。
「グアァ!」
ゼフュロスはスノウを庇い、その一撃をまともに受けてしまった。けたたましい悲鳴と共に彼はその場へと倒れこんでしまう。
「離れなさい! ワイルド!」
マリアがアクアを放ち、ゼフュロスのそばからワイルドを退けさせる。
傷ついたゼフュロスはスノウのヒールを受けて回復しているが、劣勢は明らかだった。
「まずい! みんな守りを優先してください!」
「無駄だ!」
ワイルドは斬風を放ち、直後にユウキの目前まで飛び込んだ。そして、クロー、タックル、連撃と重ね合わせてゆく。
ユウキはその攻撃を全てガードすることにより受けきっていた。
だが……。
「甘いぜ!」
「何っ!? うわぁっ!」
そこに生まれた隙を突いて、ワイルドに投げ飛ばされてしまう。
そのあまりの動きの速さにユウキは絶望すら覚えていた。彼には全く反撃の糸口が見えない。
「さあて、それじゃそろそろ俺も行くぜえ? ロックンロール!」
ダークがギターを乱暴に弾き鳴らし始めた。
「うわあ! やめろー!」
「俺の音を聞けえ! おらあ!」
ユウキはますます窮地に立たされたと悲観した。音と声による攻撃に、味方が全員為す術がない。挙句にワイルドも暴走しているせいで、ゼフュロスも対抗できないだろうと思った。
だが……。
「グワァ! やめろ!」
ダークの攻撃に苦しんでいるのは、ユウキたちだけではなかった。同じネガティブであるワイルドもまた、その被害を絶大に受けていた。
「やめろっつってんだろうが! ダーク!」
「うるさい! お前も俺の音を聞けえ!」
「グワワワ! こうなったらお前から切り刻んでやる!」
「黙れ! 俺の芸術がわからねえのか!」
ユウキたちをそっちのけで、ワイルドとダークは仲間割れを始めた。
「うらあ! クロー!」
「カウンター投げ、ブレイクダンス!」
「わっ! こっちに来た!」
ダークの技により、ユウキの方へワイルドごと投げ飛ばされてきた。
「私に任せてください! シューティングスター!」
「痛え! ぐっ……!」
ワイルドはスノウの放った岩に激突し、倒れ込んだ。
「な、何か知らないけれど、これで一体倒したぜ! 後はダークを何とかすれば……」
「そうはさせないわ。さっきはよくもやってくれたわね?」
「アイリス!? いつの間に!?」
「闇よ、我の契約に応じよ!」
アイリスが鎌を天にかざすと、虚空に生じた赤紫の魔法陣から黒い靄が這い出てきた。
「もう怒ったわよ。秘術の参、ネクロマンシー!」
アイリスはさらに骸骨を三体召喚した。
「止めればいいんだろ? ウィンド!」
骸骨たちに向かってゼフュロスが風魔法を放った。
だが……。
「ダメだゼフュロス! やめろ!」
「え? 俺何かまずいことでも……?」
「もう遅いわよ! 生贄の儀式!」
瞬時にアイリスは骸骨たちの前に現れ、風魔法から庇った。そして、同時に発動させた生贄の儀式により、さらに敵の数が増える。
現れた黒い異形はゼフュロスに向かって突進した。
「お、おい! 何だよこれ!?」
ゼフュロスはそれをウォールで防いだが、異形はその一撃では倒れず再び襲い来る。
「く……厄介だな」
「だから言ったんだ。不用意にアイリスに攻撃すると危険だ!」
「うふふ、これはおまけよ。ドッペルゲンガー!」
アイリスは鎌を頭上でバトンのように回しながら詠唱した。
「そんなばかな……。アイリスが……二人に増えた!?」
ユウキは目の前で分裂したアイリスに驚愕と同時に戦慄した。
「時間稼ぎ助かったぜ。今度こそ大暴れしてやるぜ!」
復活したワイルドが殺気を充満させながら不敵に笑う。
「ふふ、あなたのためではないけれどね……。さてさて、あらあ? これで四対九よ? 形勢逆転ね」
ほぼ無傷のダーク、怒りが頂点に達したワイルド、五体の駒を操り自らの分身まで作り出したアイリス。ユウキたちは絶望的な戦況を迎えていた。




