技の呼吸
「ええと、何を教えたらよいのでしょう?」
スノウは豊富な守りの技を使えるので、ユウキはどれがいいか悩んだ。
「確か、あの時ウォールは使えていたわね」
マリアの言うあの時とは、ダーク戦のことだった。マリアの優しさを否定され、頭にきたユウキは自分でも無意識で技を発動させていた。
「そういえばそうでした。あの時はもう夢中で……」
「それでしたら、プロテクションはどうですか?」
「確かそれ、マリアさんが使ってたような……。防御力を上げる技でしたっけ?」
「そうね。あなたをアイリスから守るために使ったわ」
それは、初めてユウキがこの世界に来た時のこと。……と言っても一昨日のことだ。マリアがアイリスの隙を見てかけていたプロテクションのおかげで、ユウキは鎌の餌食とならずに済んだのだった。
今度は自分がマリアたちを守るためにもと、ユウキは意気込んでいた。
「では、お手本をお見せしますね」
スノウは目を閉じ、左胸に手を当てて祈った。
「おお! 何だか体の内側から温まるような感触があります」
「では、ユウキさん」
「はい!」
ユウキも見様見真似でプロテクションを発動しようとするが……。
「……成功したのかな?」
「魔力を感じなかったわ。失敗ね……」
「そうですか……」
マリアの言う通り、ユウキはただ目を閉じたに過ぎなかった。
「やっぱり難しいですね」
「他にもいろいろありますよ。使えるのを探すのはどうでしょう?」
「おお! それいい考えです! そうしましょう!」
「では次はバリアをお見せします」
スノウは一切の挙動もなく技を発動し、半透明の膜に身を包み込んだ。
「おお! 今度は目で確認できる!」
「ではやってみてください」
「はい! では……バリア!」
どのように発動すればいいのかわからないユウキは、左手をかざして技名を唱えた。ライトブリングやウィンドを発動する時の要領で試したのだが、結果は何も変わらない。
「……失敗ね」
「やっぱりダメか……」
「大丈夫です! 次行きましょう! シューティングスター!」
スノウが誰もいない方向へかざした手から、星形の岩が放たれた。
「おお! これ好きですよ!」
「とっても便利な技です。ウィンドには投げ飛ばされちゃいますけど、ダークブリングには勝てます」
「ちなみに、スノウもライトブリングを使えるから、ウィンドにはそれで対抗できるのよ」
「なるほど……。これは是非使えるようになりたいな」
「スノウ、何かコツを教えてあげたら?」
「そうですね……。私、そんなこと考えたことありませんでしたから……」
スノウは元から守りの素質があったため、どうすれば上手く行くかなど意識したことがなかった。
「ま、まあ、がんばってみます! 今度こそ……!」
ユウキは心の中で使いたいと連呼した。
「シューティングスター! うわあ!」
かざした左手から星形の岩が放たれた。突然発動した反動でユウキは転びかける。
「なっ!? 成功!?」
マリアが驚きのあまり口を開けっ放しにしている。
「すごいです! さすがユウキさん!」
「ああびっくりした……」
「それはこっちよ! シューティングスターが一番難しそうなのに……」
「え? そうなんですか?」
「よくはわからないけれど……。唯一遠距離技だし……」
「確かに。そう考えるとそんな気もします」
ユウキは改めてその難易度を認識した。
「きっと他の技も使えますよ! やってみましょう!」
「そうですね。シューティングスターが使えたんなら、他の技だって……!」
ユウキは調子に乗って、プロテクションを発動させようと左胸に手を当てる。
「……どうですか?」
「魔力を感じないわ」
「ええ!? それじゃ、バリア! ……これも!?」
「まあ、一つでも使えるようになったのならよしとしましょう」
「そうですよ、ユウキさん。他の人の技を使えるなんて、すごいです」
「そ、そうなんですか?」
「……あ、これなら使えるかもしれませんよ! ヒール!」
スノウの両手が柔らかな光を纏い、その光がユウキへと移った。
「おお! 疲れが吹き飛んだ!」
「それも難しいと思うけれど……」
「いえ、やってみます!」
ユウキは自分でコツを予想し、スノウのような優しい心を持つことだと推測した。彼はマリアの呪いを解きたいという思いで心を満たす。
「……ヒール!」
ユウキの両手が微かに光り、その光がマリアへと移った。
「おお! 使えた! やったー!」
「信じられないわ。まさか本当に使えるだなんて」
「さすがです! ユウキさん!」
「本当にどうなってるのかしら。こんな難しそうな技が使えるなんて……」
ユウキはあまりのうれしさに、ヒールを連発する。
「後は、今覚えた技を使いこなせるようにすれば、今度こそ俺も一人前に戦うことができそうだ!」
「そうだなー! ちゃんと使いこなすことが大切だぞー!」
せっかくの盛り上がりにゼフュロスが水を差した。マリアは言い返すのも疲れたのか、大きな溜め息を吐いただけだった。
「あ、団長がこちらに来ましたよ」
スノウに言われてユウキが奥の方へ顔を向けると、団長がゆっくりとこちらに向かって来ていた。その後ろにはゼフュロスもいる。
「どうやら技を覚えたようだな」
「はい! ウィンドとヒール、それからシューティングスターを!」
「何!? この短時間に三つもだと!?」
「やるじゃん! 俺の次くらいに」
ゼフュロスがそう言った瞬間、団長はその頭を殴った。
「痛っ! 何で殴るのさ!?」
「お主は私がどれだけ教えても技を覚えぬであろうが!」
「えー? 気のせい気のせい」
「お主は守りが甘い! 何か技を覚えろ!」
「人には向き不向きって物があってねえ……」
ワイルド戦の時にも言っていたが、ゼフュロスは打撃主体の相手を苦手としていた。それは、彼が投げ技に特化しており、守りの技に精通していないことによる。
「スノウ! マリア! 今度はこいつに守りの技を教えてやってくれ!」
「はい! わかりました!」
「おお! 専門家が教えてくれるなら俺もできるかも」
「私の教え方が悪いとでも言うのか!」
「い、いや! 言ってない言ってない!」
団長がゲンコツを振り上げたのを見て、ゼフュロスは慌てて頭を庇う。
「全く……」
団長は深い溜め息と共に拳を戻した。
「さて、今度は私がお主の相手をしよう」
「だ、団長が!?」
「うむ、技の精度を上げねばなるまい? より実践的な方式としよう!」
ユウキは少し怖気づいたが、すぐさまそれを振り払う。怖くてもやらなければならないことだからだ。




