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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
21/55

魔法習得

「……ほう、時間前に来るとはな」

「だ、団長!? いたんですか?」


 鍛錬場にいた先客にユウキは驚いた。


「うむ、今度こそネガティブを取り逃さないためにな」


 団長はこれ以上ユウキたちに心配をかけまいと明るく振る舞っていたが、実のところ先日の一件を自分の失態として引きずっていた。


「お主も何か思うことがあったのか?」

「はい……。俺、新しい技を覚えて、それも難しいと言われた技でしたので喜んでました。けれど、よく考えたら俺が習得済みの技って、まだまだ少ないなあと……」

「……ふむ、そうだな。だからマリアとスノウに手伝ってもらおうと思ったのだ」

「え? それはどういうことですか?」

「私にばかり教わるよりも、その方がバランスが取れるであろう?」

「……確かに」


 団長は自分の戦闘スタイルを確立しているが、逆に言えば偏っているとも解釈することができる。カウンターの心得に精通しているわけではないユウキにとっては、マリアの魔法やスノウの守りを習得する方が身になるとの判断だった。


「まあよい。せっかく来たのだからな」

「何か教えてくれるんですか!?」

「そうだな……。他の受け身技は少々性格の違うものなのでな、扱えぬかもしれぬ」

「何だかよくわかりませんけど、そうなんですか……」

「そういえばお主、基本の受け身は使っておるのだろうな?」

「え? 基本? レイジのことですか?」

「違う、本当に基本の受け身だ。レイジは技であろう? 技は確かに強力ではあるが、咄嗟に出せる基本の受け身も使い勝手がよいだろう」

「基本の受け身……」

「あれ程の技ができて、基本ができぬはずがない。剣を構えるがよい」

「あ、はい」


 技ではなく基本の動きとしての受け身、つまりカウンター。団長は今までユウキがそれを使える前提でいたのだった。


「……そうだな、一応私の方も備えておこう。そちらから来い」

「え? えっと、ライトブリングでいいですか?」

「何でも構わん」

「わかりました。それじゃ、ライトブリング!」


 光の衝撃波が団長へと向かってゆく。


「ふむ、しっかり撃てるようだな。規律、シヴァルリー!」


 団長は防御力を上げるカウンター技を使用した。これはユウキのカウンターを受けるためだ。


「もう一度だ」

「了解です! ライトブリング!」

「狙いが定まっておるようだ。規律、シヴァルリー!」


 二度のシヴァルリーにより、団長はちょっとやそっとの攻撃ではダメージを受けない程にまで堅くなっていた。


「さて、これでいいだろう。では行くぞ!」

「え? な、何!?」

「私の攻撃を弾き返すのだ!」

「えええ!?」

「行くぞ!」


 団長はユウキへとゆっくり峰打ちを放った。

 こうなればヤケだと、ユウキはがむしゃらに左手をかざした。


「おりゃー! ……あれ? 何ともない」

「言ったであろう? できぬはずがないと」


 ユウキは奇声と共に左手をかざしただけだったが、それでもカウンターに成功した。そんなでたらめな方法でも成功したのは、基本たる所以ゆえんである。


「ありがとうございます! これでまた強くなれました!」

「うむ」


 と、その時……。


「おーやってるやってる」

「見させてもらったわよ」

「かっこよかったです!」


 不意に聞こえた声に振り向くと、鍛練場の入り口にマリアたちがいた。


「な!? マリアさん、スノウさん!? いたんですか!?」

「おい、俺も! 俺もいる!」

「私たちもまだまだ実力が足りないから、がんばらないとね」

「ふむ、よい心がけだ。それでは少し早いが鍛練を開始しよう!」

「よし! がんばるぜ!」


 ゼフュロスもいつになく張り切っている。


「ゼフュロスはこちらへ来い。マリアとスノウはユウキとだ」

「わかりました」


 ユウキは急に不安になる。マリアとスノウの技は、どう見ても魔法そのものなので原理がわからない。そんなものを自分が使えるのか、甚だ疑問でしかなかった。


「さて、どうしましょうね」

「団長は二人から技を習えって言ってました」

「そう。それじゃ、私たちがお手本を見せるから、ユウキは真似してみて」

「はい!」

「行くわよ! ウィンド!」


 マリアは誰もいない方向へ風魔法を放った。


「おおー」

「さあ、やってみて」

「はい!」


 ユウキは目を閉じ、意識を集中させる。


「……ウィンド! ……あ、あれ?」


 マリアの真似をして手をかざしたが、何も起きなかった。


「大丈夫、ゼフュロスも最初はそうだったわ」

「聞こえてるぜー!」


 遠くからゼフュロスの声が届いた。


「いけない。彼、耳がよかったんだった」

「ええと、ゼフュロスは置いといて。何かコツとかありません?」

「そうね……。団長の受け身技は精神論で何とかなったのかもしれないけれど、魔法となるとまた勝手が違うと思うわ」


 今までの方法では上手く行かないと知り、どうすればいいかと悩んでいると……。


「風と一体化するんだよ! そうすればできるぜ!」


 遠くから助言が飛んできた。


「……全く、何でよりによってあいつにこんな能力が備わったのかしら」

「ま、まあ、今のは参考になりそうですし。ありがとなー! ゼフュロスー!」

「おうー! 大声じゃなくても聞こえてるぜー!」


 ユウキは言われて気が付いた。遠くにいるからつい大声で言ってしまったが、相手は地獄耳なのだから普通に話せば伝わる。


「さてと、風と一体化か……」

「ゼフュロスもなぜかウィンドを使えるようになったし、間違いではないかもしれないわ」

「そうですね」

「おーい! 聞こえてるってばー!」


 とても抽象的なヒントだったが、ユウキの中には確信が芽生えた。


「……今度こそ! ウィンド! うわっとと!」


 突然の成功に対応できず、発動した風魔法の勢いでユウキは転んでしまった。


「な!? 二回目で成功だなんて!」

「痛た……。ちょっとまだ使いこなすのは大変そうだけど、できました!」

「これが……伝説の勇者の力……」

「うーん。マリアさんまでそう言うってことは、やっぱりそうなんですかね……? 自分ではあまり実感できていませんけど」

「私だって断言はできないけれど、多分そうだと思うのよね……。とりあえず、次行ってみましょ。スノウ、頼んだわよ」

「はい。よろしくお願いします、ユウキさん」

「こちらこそ!」


 スノウと一緒の鍛錬ということを意識し、ユウキの心は舞い上がった。

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