朝
「……早く……伝えないと」
「早く起きなさい! また朝食抜きになるわよ?」
「え? ……おおっと!」
ユウキはいつの間にか寝てしまっていた。
「マリアさん、おはようございます! すみません、起こしていただいて。ありがとうございます!」
「いいから急ぎなさい」
「はい!」
ユウキは初朝食に胸を躍らせつつ向かった。本当なら昨日食べられたはずの朝食である。
「あ、おはようございます。ユウキさん」
「おはようございます! スノウさん」
スノウはすでに席に着いており、料理も並べられている。
「おはよう。小鳥のさえずりが聞こえてきそうな、いい朝だね」
「あ、うん……おはよう……」
ユウキは溜め息を吐いた。ゼフュロスの性格、何とかならないのかと。
「よかったわね、団長が来る前に間に合って。初日と違って倒れたわけじゃないから、きっと遅刻は許されなかったでしょうね」
「え? 遅れていたらどうなってたんですか?」
「さあ、知らないわよ。ゼフュロスは問題児だけど朝はちゃんと起きているから」
「うわあ……。もう少しで未知なる現象を引き起こしてしまうところだったなんて……。マリアさんのおかげで助かりました!」
「言っておくけど、昨日も私が起こしてあげたわ。あなたが起きなかっただけでね」
「な!? す、すみません! そんなに全力で寝てしまっていたとは……お恥ずかしいです。今日もマリアさんが起こしてくれなかったら、今頃俺はどんな目に……」
「ふむ、何の話だ?」
「なっ!? ななな、何でもないです。おはようございます……」
突然現れた団長を見て、ユウキは焦った。
「おはようございます」
「おはよう。全員揃っておるようだな」
「おはよう、ハニー。早速だが、ハニーのために朝の一曲を……うぐっ!」
ゼフュロスがマリアに肘打ちされた。
「それではいただくとしよう」
「はい! いただきまーす!」
ユウキは目を輝かせながら朝食を口にする。パンとジャムにミルク、そして卵とサラダとベーコン。こっちの世界でも、朝はこういう感じだ。
「今日は他の者も鍛練してやろう。しっかり食べておけ」
「え? 俺はいいよ、鍛練なんか」
「そんなことはないぞゼフュロス。お主も弱点があろう?」
「え、えっとそれは……」
「逃がさぬからな」
「あ~あ、だから俺はここに来たくなかったんだ」
「まずはその曲がった根性を叩き直さねば……」
ユウキは思った。確かにゼフュロスはその方がいいかもしれないと。
「私も協力しますよ、団長」
「おおハニー、俺が団長に取られないか不安なんだね?」
「はいはい、そう思っていたいのなら思ってなさい」
さすがにマリアもあきらめた様子だ。何と言おうとゼフュロスのこの癖は治らないと。
「あの、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「スノウはユウキに技を教えてやってくれ。マリアもだ」
「ゼフュロスを団長一人に任せて大丈夫でしょうか?」
「ああ、絶対に逃がさぬから大丈夫だ」
ユウキは自分のことのように恐れ、身震いした。これにはさすがのゼフュロスも愛を語る余裕がなくなるのではないかと思ったが。
「おお、そんなに俺が恋しかったのかい? いいぜ? 団長の愛、受け止めてみせよう」
そんなことはなかった。彼はどうあっても彼なのだ。
「さてと、食べ終わったな。ごちそうさま」
「俺も、ごちそうさま!」
「早いって、お二人さん。もっとゆったりできないのかい? 食後に一曲弾きながら紅茶でもいかがかな?」
「ゆったりなどできぬな。一時間後に鍛練を始めるので、必ず来るように!」
「はい、ゼフュロスは私が見張ります」
マリアがゼフュロスに鋭い視線を向けた。
「心配いらない。ゼフュロス、もしこなかったらわかっておろうな?」
「なっ!? ふ、ふられる!? それだけは嫌だー!」
そもそも脈無しだとは、当の本人はわかっていない。
「……まあいい。絶対に来るのだぞ?」
「一気に三人にふられる危機とあっては、さすがの俺も行かざるを得まい」
あまりのばかばかしさにスノウまでもが苦笑している。
「さてと、久しぶりの鍛練だし、しっかり食べておくか」
そう言うと、ゼフュロスはパンに噛り付いた。
「いつもあまり食べないものね」
「ハニーのことを考えるだけでおなかいっぱい」
まだ言うか! と、ユウキは心の中でツッコミを入れた。
「ちょっと俺、先に鍛練場へ向かいます」
「気合が入ってるわね。誰かさんと違って……」
「おっと!? 俺も急にやる気が出てきたぞ!? 俺も早く鍛練したい!」
「あ、えっと……。ゼフュロスのことはマリアさんに任せますね。行ってきます」
「おい何だよそれ! 俺が一体何をしたって言うんだ! なあ、何とか言えよ! おーい!」
ゼフュロスの呼びかけを完全に無視し、ユウキは鍛錬場へと向かった。




