決意
「ただいま戻りました!」
マリアが元気に帰還を告げるも、誰もいない室内に反響しただけだった。
「……いないみたいよ」
「あまり思い詰めてもいいことなんてないのに……」
ゼフュロスはやれやれと両の手を肩の高さまで上げ、首を左右に振った。
「だから! あんたはもう少し反省を覚えなさいってば!」
「ハニー、俺だってちゃんとわかってるんだぜ? ハニーや団長、そしてお嬢ちゃんに寂しい思いをさせてしまったことは、本当に済まないと思っているよ」
「それが反省してないって言ってるのよ!」
マリアはゼフュロスの頬を叩いた。
「痛い! 痛いよハニー!」
ユウキは心に決めた。ゼフュロスのことはマリアに任せることにしようと。
それよりも当面の問題は団長のことだ。
「心配ないですよ、ユウキさん。団長はすぐに帰ってくると思います」
ユウキの思いを汲んでスノウが話しかける。
「え? そうなの?」
「はい。きっと、すぐにでも……」
「お、何をしておるのだ?」
丁度現れた団長にユウキは驚く。だが、三人は特に慌てる様子はない。
「団長、どこに行ってたんですか?」
「少し頭を冷やそうと思ってな。マリアたちこそ、どこへ行っておったのだ?」
「私たち、団長に元気を取り戻してもらおうと思って、喜びそうな物を探していたのです」
「私のために……?」
「そうだぜ、団長。俺の気持ち、受け取ってくれるかい?」
「あ、ああ。ありがとうな」
団長はゼフュロスに困惑の表情を向けた。
「俺とマリアからは、たくさんの花をプレゼントするぜ!」
「おお! とても綺麗だな」
「よければこれに一曲を添えようと思うのだが……」
「それはやるなってあれ程言ったでしょ! ほら、こっちに来なさい!」
マリアはゼフュロスの頭を殴り、外に向かって引きずり出した。
「痛い痛い! 引っ張らないでよハニー! 心配しなくても、後でハニーにも愛の歌を捧げるよ」
「いらないわよ! 気持ち悪いだけだわ」
「全く、ハニーは素直じゃないなあ……」
二人が外に出てからも、数秒の間気まずい空気が流れていた。
「ええと……。私はユウキさんと水晶を集めました」
団長とユウキが話を切り出せずにいるのを察し、スノウが先陣を切った。水晶は光の当たる角度によって色を変えて見せた。
「おお、こちらも綺麗だな」
「あの……団長。俺たちは団長のおかげで助かったんです。ですから、何も落ち込むようなことはないと思います」
「ユウキ……。済まない、皆には心配をかけたようだな。私は、皆に失望されたかと思っていたが、こんなにも私のために……」
「そんなわけないじゃないですか。団長は立派な人です! 俺、団長を尊敬してますよ」
「そうですよ、団長。私たちには団長が必要なんです」
いつの間にか戻っていたマリアがユウキの言葉に続けた。
「そうそう。俺も団長にはもっと誇りをだな……」
「ユウキ、マリア、スノウ……。ありがとう!」
「あの、団長……? 俺の話途中なんだけど。後、今俺の名前だけ忘れてたような……」
「ああ、いたのか」
「酷い! 俺だって団長のことを思って一生懸命歌を作ったのに……!」
「ゼフュロスもありがとうな」
「お、おお! 団長がお礼を! 夢なら覚めるな夢なら覚めるな!」
ユウキはゼフュロスに苦笑した。
だが、よくよく考えれば自分も人のことは言えない。これ以上仲間に迷惑をかけないためにも、しっかりしなければならない。
「団長、また俺を鍛えてもらえませんか?」
「ほう? あまりの過酷さに倒れた者の言葉とは思えんな」
「俺……やっぱりまだ弱いじゃないですか。このままだと足手まといにしかならないので、どうしても戦うための力が必要なんです!」
「……そうか。では鍛練してやろう! ついて参れ!」
「はい!」
今回の件でユウキは思った。最低でもスノウたちの足を引っ張らない程度には強くならなければと。鍛練が辛いだなんて言っている場合ではない。
そして、マコトの存在も彼をより意欲的にさせた。
「よし、着いたな。それでは始めるとしよう」
「はい! お願いします!」
「……と言っても、何を教えたらよいものか」
「え?」
「見ておったぞ、お主がライトブリングを使っているところを」
団長が言っているのはワイルドとの戦いについてだった。実際にユウキがその技を習得したのはダークとの戦いにおいてだったが、無我夢中だったのでどのようにして覚えたのかわかっていなかった。
「あ、そういえばそうなんです! 俺、何でか知らないんですけど、あの技を使えちゃって……」
「……伝説の勇者というのは、私の想像を絶するようだな」
「そ、それ程でもないですよ。あ、そうだ! 何を教えていいのかわからないんでしたら、俺からリクエストをしてもいいですか?」
「ほう? 言ってみるがいい」
「さっき使ってたイミテーションっていう技、俺も使ってみたいです!」
イミテーション。それは相手の技をコピーするカウンター技だ。団長はワイルドの使用した必殺技バーサークを受け止め、その技を返していた。
その強力さを目の当たりにし、ユウキは自分もその技を習得したいと思ったのだった。
しかし、その申し出に団長の表情が変わる。
「なっ!? あれはお主には無理だ! 他の受け身技と違って、これには特別な素質が要るのだ!」
「特別な素質……?」
「ああ。私のように規律に特化しているか、あるいは……。ごく稀に変わった奴がおってだな、技を見様見真似で使えるようになってしまうという恐るべき才能を持った者でしか……」
「え? でも、それって……」
「う、うむ……。確かに、お主は二つの技を使えるようになった。その内の一つ、私が教えたレイジは初歩的な技ではあるが……」
「お願いします! 俺、もっともっと強くなりたいんです! お願いします!」
「……そこまで言うのなら、わかった」
「本当ですか!?」
「ああ。だが、無理はするなよ?」
「はい!」
口ではそう約束しても、ユウキは無理してでも覚えてやると意気込んでいた。
「習得したかを判別できるよう、お主がすでに使えるライトブリング以外の技を使おう。なるべく掠らせるようにするが、剣を使う技なので気をつけるのだぞ?」
「はい、わかりました!」




