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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
16/55

旧友との再会

 あれからすでに数十分が経過していた。ユウキは溜まりゆく疲労と戦っているが、そろそろ限界を迎える頃だ。彼を今突き動かしているのは、精神力などではなくスノウに対する見栄である。


「スノウさん、大丈夫ですか?」


 余裕がないのは自分の方なのに、スノウを気遣おうと顔を上げる。しかし、その先に彼女の姿はなかった。

 いつの間にか霧まで立ち込めている。

 はぐれたことに気付きユウキは焦った。


「スノウさーん! いたら返事してくださーい!」


 ユウキの思いもむなしく、スノウの声が返ってくることはなかった。

 ユウキは不意に心配になってきた。スノウのことがではなく、自分のことがだ。気付いた当初はもちろんスノウの無事を案じていたが、よくよく考えれば彼女の方が強い。危険なのは、むしろユウキの方だった。

 帰り道もわからず立ち往生していたその時……。


「さっき声がしたのは……この辺りかな?」


 霧の中から誰かの声が聞こえてきた。


「だ、誰かいるのか!?」


 ユウキの脳裏に浮かんだのはネガティブの存在だ。

 彼は思わず剣を構える。揺らめく人影はゆっくりとこちらに向かってくる。


「……なっ!? お前は!」

「え? ……あ、まさか!? ユウキ君!?」


 霧の中から現れたその男を見てユウキは目を丸くした。その驚きは恐怖から来るものではなく、歓喜から来るものだった。

 ユウキはこの男を知っている。高い背丈と白い髪、そして穏やかな顔。その男はユウキの旧友だった。


「マコト! マコトじゃないか!」

「久しぶりだね。元気にしてた?」

「あ、まあ、そうだな」


 ユウキは言えなかった。死んでしまったのでこの世界に来ただなどとは。


「マコトもこっちの世界に来てたんだな」

「うん。いろいろあってね……」

「そっか、お前も大変だったんだな」

「でもよかった。こうして再び会うことができて。僕、あの時ユウキ君が助けてくれたこと、今でもちゃんと覚えているよ!」


 ユウキは思い出していた。髪が白いことを理由にいじめられていた彼を庇った時のことを。


「いじめられている人がいたら助けるのが当たり前だろ!? 気にすんなって!」

「いやいや、ユウキ君は僕の目標だよ。今は僕も悪と戦うために聖騎士団を率いているんだよ!」


 マコトは背負っていた剣を自慢げに見せた。


「おお! お前もがんばってるんだな! 実は俺も今、悪と戦っているんだぜ?」

「わあ! やっぱりユウキ君はすごいよ。僕もユウキ君を目指してがんばるからね」

「それは大変だ。いい見本になれるようにがんばらないとな! あ、そうだ! 後でマコトに仲間を紹介してやるよ! ……と言っても、この山を下りられたらの話だけれど」


 ユウキは自らの置かれている立場を思い出し、不安を表情に浮かばせた。


「それなら大丈夫だよ。僕に任せて!」

「え? どうするんだ?」

「簡単だよ。瞬間移動で下まで連れてってあげる」

「おお! そんなことできるのか! すごいじゃん!」

「僕だっていっぱい修行してがんばったんだよ。それじゃ、行くよー?」

「……これは!?」


 一切の動作や前触れもなく、その技は突然発動した。どこまでも広がるような闇が二人を包み込む。


「さ、そっちに行けば戻れるよ」


 マコトの指差した先に大きな光の円が浮かんだ。


「それじゃ、また会おうね」

「え? マコトは?」

「僕はちょっと用事があるんだ。仲間が三人も怪我をしちゃってね。痛そうだし早く治療してあげないとかわいそうでしょ? みんな一生懸命戦ってくれたんだよ?」

「そっか。仲間思いなんだな!」

「当たり前だよ。僕はみんなのことを家族だと思っているよ」


 マコトの微笑みを見たユウキは、少し暗い印象を受けた。


「ごめんな。そんなに心配する仲間がいるのに、俺のために時間使わせちゃって」

「そんなことないよ! ユウキ君だって大切な友達だから」

「やっぱりお前はいい奴だな! きっと仲間もいい人ばかりなんだろうな……。俺のこともよろしく言っておいてくれ。俺もマコトのこと話しておくからさ」

「もちろんだよ! それじゃそろそろ僕も戻らないと」

「ああ、そうだな。それじゃまたな!」

「うん、また会おうね」


 ユウキが光の円をくぐり抜けると、そこは山の入り口だった。振り返っても、もうそこには何もない。

 ユウキはその場にたたずみ、再会の余韻に浸る。久しぶりに会ったマコトは心身共に成長しており、戦う覚悟を決めていた。自分も負けていられないと気合いを入れ直したその時……。


「あ! ユウキさん、やっと見つけました!」


 スノウが駆け寄るのを見て、ユウキはようやく気付いた。彼女に心配をかけていたことに。


「一体今までどこにいたのですか?」

「ええと……。昔の友達に会ってですね、それでここまで移動魔法をかけてもらったんです」

「そうでしたか。すごく心配しました」

「本当にすみません! いつの間にかはぐれていました……」

「山から落ちてしまったのではと思い、下の方を探したのですが見付からなくて……」

「大丈夫ですよ。どこも怪我していませんから」

「よかったです……。本当に……!」

「わっ! す、すみません!」


 泣き出したスノウにユウキは焦った。


「もう心配かけませんから!」

「……次からは、一人で無茶しないでくださいね?」

「もちろんです。約束します」


 それを聞いて安心したスノウは泣き止み、ユウキも安堵した。

 それから二人は山岳地帯を後にし、町へ向かって歩き出した。その道中、ユウキはふと思った。団長への手土産はどうなったのだろうかと。だが、その答えはすぐに見付かった。スノウのポケットから、一際ひときわ美しい水晶が顔を覗かせている。


「あ、マリアさんとゼフュロスさんも丁度来ましたね」


 スノウの指さす方を見ると、森から出てくる二人と目が合った。


「ただいまです。お二人とも、お疲れ様です」

「ええ。あなたもお疲れ様。ユウキ、あまり足を引っ張らなかったでしょうね?」

「え!? あ、あの! その……」

「大丈夫でしたよ。とても頼もしかったです」


 ユウキがはぐれて迷惑をかけてしまったことを、スノウは言わなかった。ユウキは改めてスノウの優しさにれそうになったが、すぐに自分の情けなさが上回る。


「そう? それじゃ、団長のところに向かうわよ」


 マリアは怪訝な視線を送り、町へと入った。

 ユウキも不甲斐ふがいなさを引きずりつつ、三人の後に続いた。

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