技の属性
スノウは空高く投げ飛ばされ、頭から落ちている。このままでは大変なことになってしまうが、ユウキにはどうすることもできない。
「俺に逆らうからこうなるんだよ! わかったか!」
「スノウさーん!」
ユウキは自分を責めた。結局スノウさんを守れなかったから。それどころか、自分のせいで彼女を失うこととなってしまう。
と、その時。
「ウィンド、微風!」
「……え?」
ゼフュロスの風魔法がスノウを包み、ゆっくりと彼女を地面へ下した。
「遅くなって悪いな。助けに行こうとしたらあの死神とロッカーが邪魔してきてさ。あ、でも今は団長たちが相手しているぜ」
「あ、ああ……! ありがとう!」
「お嬢ちゃんのためさ。女の子は大切にしないとな!」
ユウキは呆れた。やっぱりそれなのかと。
しかし、彼のおかげでスノウが助かったのもまた事実。
「ゼフュロス、気を付けろ。あいつ強いぞ!」
「あ、あー。そうだな、あいつは確かに強い」
「は?」
「俺はあいつと戦ったことがあるのさ」
ゼフュロスは敵を見て、冷や汗を流す。
そして、そんなゼフュロスを指さしてワイルドが大笑いする。
「誰かと思えばあの弱虫じゃねえか! 何しに来たんだよ!?」
「え? 弱虫?」
ユウキは思わずゼフュロスの方を向いた。あれ程の実力者が弱虫と呼ばれているそのギャップに混乱する。
「人には弱点ってのがあるのさ。俺は投げ技の専門でねえ、あいつみたいな脳筋タイプは苦手なんだわ」
「何だとお!? 弱虫よりはましだろうが! 仕留め損ねたが今度こそ行くぜ!」
ユウキは思った。ゼフュロスが来ても、ワイルドが苦手ということはあまり状況は変わっていないのではないかと。
だが、弱点という言葉が彼の中で引っかかる。そして、突破口に気付いた。
「二人とも! それぞれの得意な技でお互いをカバーするんだ!」
「了解。守りを崩すのは俺に任せな」
「私は攻撃技を防ぎます」
ユウキの作戦は、ワイルドの技にそれぞれ有利な技で対抗するというものだ。
「お前らが何したって俺様には勝てねえんだよ! もう一度投げ飛ばしてくれるわ!」
投げ飛ばすという言葉がユウキの脳内で繰り返される。
先程、ゼフュロスは自身が投げ技専門であり、打撃が苦手という意味の発言をしていた。そのことからユウキは推測する。
「投げに有効な技……。打撃だ!」
ユウキは左手を向け、光の衝撃波を放った。遠距離の打撃属性技、ライトブリングだ。
「ちっ! スラッシュ!」
「おっと、俺の出番みたいだな。ウィンド!」
ライトブリングが爪の一振りでかき消されようとしていたが、そこをゼフュロスの放った風魔法が追撃する。打撃に対抗すべくワイルドが放った爪技は、守りの属性を持った技である。したがって、それに対して遠距離投げ属性である風魔法は有効となる。
「お前の攻撃は俺に通用しねえんだよ! オラァ!」
ワイルドは向かってくる風魔法に、タックルで対抗した。投げに対して打撃は一方的に勝つことができる。しかし、それと引き換えにワイルドには大きな隙が生じた。
「今です、スノウさん!」
「神よ、お許しください。シューティングスター!」
星形の岩がワイルドに直撃した。
「痛え! こいつら……! 一人一人じゃ俺様に敵わないくせに!」
「だからこそ力を合わせるんだ! ライトブリング!」
「調子に乗るな! 死にぞこないが!」
ワイルドは光の衝撃波を避け、ユウキへと猛スピードで突進した。
「ウグッ!」
そのままワイルドは鉄拳や蹴りを浴びせる。
「ユウキさん!」
スノウが慌ててシューティングスターで追い払った。
「くっ……。俺を狙ってくるつもりか!?」
「ユウキさん、ガードしてください! 予め守りを固めておけば、カウンターのようにタイミングを合わせる必要がありません」
「ガード!? ど、どうすれば……」
その時、ユウキは思い出した。アイリスとマリアの戦いを最初に見た際、アイリスはドクロ型のオーラを放って攻撃を受け止めていたのを……。
「考える時間はくれてやらねえぜ! オラァ!」
ワイルドは再びユウキへと突進を浴びせた。
だが……。
「なっ!? 効いてねえだと!?」
ワイルドは驚愕したが、一瞬でそれを振り払い鉄拳を繰り出し続ける。
だが、ユウキは光のオーラを放ち、それを全て受けきった。
「ガードくらいでいい気になるなよ!? それなら……」
ワイルドは瞬時にユウキの背後へと回った。ガードは正面からの攻撃しか受け止められないが、ユウキはその速度に合わせて振り向くことができない。
「今度こそ! ……グワッ!」
「させません!」
ワイルドはスノウの放ったシューティングスターによって吹き飛ばされた。
「もう許さねえ! バーサーク!」
ワイルドは炎のように赤いオーラを纏い、ライトブリングにそのまま突っ込んできた。光の衝撃波はその勢いにかき消されてしまい、ワイルドの攻撃は止まらない。
「お前ら全員ここで終わりだー!」
ユウキはカウンターで対抗しようにも、上手くタイミングを合わせられそうにない。カウンターは攻撃を完全に無効化できるが、相手の攻撃の瞬間に発動しなければ意味がない。
「壊れろー!」
ユウキは死を覚悟した。
せめて、スノウたちは無事に逃げ切ってくれと、そう願う以外にどうしようもない。
と、その時。
「規律、イミテーション!」
「なっ! 何だ!?」
団長が駆け付け、カウンターでユウキたちを守った。ワイルドが一瞬にして放った無数の鉄拳と蹴りは、見えない壁によって無効化されていく。
団長の得意なカウンター技。その発動時間は長く、完全に技を受けきられたワイルドは、咄嗟に距離を取った。
「遅くなって済まなかったな。もう大丈夫だ」
「いいえ、助かりました」
団長が加わったことがユウキにはとても心強かった。
「おい! 何でだ!? アイリスとダークは何をしている!?」
「ああ、あの二人か。残念だが……取り逃がしてしまった」
「逃げたのか!? あいつら!」
「それよりいいのか? 私が今使用したのはイミテーションだ」
ユウキも初めて聞く技だった。どんな効果なのか気になり出す。
「そんなの知るかよ! どうせ大した技じゃねえんだろ!? お前も粉々にしてやるよ!」
「そうか……。ではせめて、最後に騎士道精神に則り名乗らせてもらおうか」
「いいぜ! 遺言、残しとけ!」
「In the World……この完全なる世界の中で」
「はっ! 笑わせてくれる。それで? 自慢のイミテーションとやらはどんな技なんだよ?」
「これは……相手の使った技を使用する技だ!」
「なっ!? ま、待て! それってまさか!」
「覚悟しろ! バーサーク!」
「待てって! グアァ!」
悲惨な光景が繰り広げられていた。団長は烈火のようなオーラを纏い、ワイルドへ突進し、無数の鉄拳を浴びせた。
吹き飛ばされたワイルドは地面へと叩き付けられ、同時に骨が折れる音がした。
ユウキは思った。会った時から怖い怖いとは思ってきたけど、戦闘になってもやっぱり怖いと。
「……う、うぐぅ!」
「さて、今度こそ取り逃がさないぞ!」
衝撃で遠くまで飛んだワイルドに、団長が一歩ずつ歩み寄る。その恐ろしい光景に、ユウキとゼフュロスは身震いしている。
「そうはさせねえ。テレポートの魔法が封じられた宝玉、持っててよかったぜ!」
「なっ!? 待て!」
「あばよ!」
ワイルドは緑色の宝玉を天に掲げ、忽然と姿を消した。
「く、三人とも取り逃してしまうとは……!」
「いえ、そんな……。団長が来てくれなかったら俺たち今頃……」
「慰めは要らぬ。これは私の責任だ……!」
「団長……」
「……戻るぞ」




