破壊者
こちらが攻撃すれば、向こうも避けないわけにはいかないだろう。それがユウキの思惑だった。注意を自分へと引き付ければ放火を防ぐことができるからだ。
だが、敵は微動だにせずライトブリングを体で受け止めた。そして、ユウキのことを気にも留めず、再び森の方を向く。
「おいこらー! 無視するなー! ライトブリング!」
攻撃は再度受け止められた。そしてその直後、敵はユウキに猛スピードで突っ込んできた。
「ウラァァ!」
「ま、まずい! レイ……」
「させるかよ!」
「グハッ!」
カウンターの発動が間に合わず、ユウキは突進を受けて吹き飛ばされた。
「よくも俺様の邪魔をしてくれたな? だが、俺様にアヴェンジを二度も使わせたのは失敗だったな。おかげで力がみなぎってきたぜ!」
アヴェンジ。敵が先程ライトブリングを受け止める際に使ったカウンター技のことだ。ユウキのライトブリングを受け止める際にそれを発動し、自らの力へと変えていたのだ。
「さあて、たっぷり後悔させてやろうか」
敵は残虐な笑みを浮かべながらユウキへと迫ってくる。
地面に叩き付けられたユウキは、何とか痛みを堪えながら立ち上がった。
だが、構える暇もなく……。
「ウオオ!」
「わっ! うわあっ!」
敵は一瞬にしてユウキの目の前まで来た。そして目にも止まらぬ速さで鋭い爪を振り回す。
「オラア!」
「ぐっ!」
ユウキが少しでも受け損ねると、その隙を突いて突進してくる。小さい体からは想像もできない程のパワーだ。
「俺様のクローとタックルの味はどうよ? 破壊者にはぴったりだろ?」
「痛たた……。破壊者、だと?」
「そうさ、俺は破壊者ワイルド。こんな陰湿な世界なんざすぐに壊してやるよ!」
「何勝手なこと言ってるんだ! そんなことはさせない!」
「お前に何ができる? 今の俺は百パーセント充電完了だぜ! もっと見せてやるよ、俺様の力!」
ユウキは焦燥感に駆られる。ただでさえ苦戦しているのに、これ以上何をする気なのかと。
「チャージ!」
ワイルドはそう宣言すると、赤いオーラを纏った。
「……よっしゃ、これでスピードもパワーも強化だ! 大暴れしてやるぜ!」
「何!?」
「行くぜ! オラァ!」
「レ……ぐはっ!」
ユウキはレイジを発動させようとした。しかし、ワイルドの攻撃があまりにも速くてタイミングを合わせることができない。
カウンターがあるから平気だと油断していた彼は、その考えの甘さを悔い改めた。いくら攻撃を無効化できるとは言え、それを上手く発動できなくては意味がない。それはつまり、カウンターが最強の力でも何でもないということを示していた。
当たり前のことだ。もしそうなら、団長一人で全員倒せているだろう。
ユウキは気付くのが遅かったのだ。
「ごめん、マリアさん。俺、あなたのこと救えなかった……。ごめん、スノウさん。俺、あなたのこと守れなかった……。ごめん、ローズ団長。俺、あなたの役に立てなかった……!」
ユウキは動くこともままならず、ただ言い残すことしかできない。
「これで終わりだ!」
ユウキの喉元へ爪が振り下ろされたその時……。
「シューティングスター!」
「痛え!」
星型の岩が飛んできて、ワイルドにぶつかった。
「ユウキさん、遅くなってしまい申し訳ありません」
「スノウさん!」
岩が飛んできた方向からスノウが駆け寄ってきた。
「小娘が……! 俺様に逆らうんじゃねえ!」
「危ない! スノウさん逃げて!」
ワイルドはスノウに向かって突進した。
あのタックルをまっともに受けたら大変だと、ユウキはそう思っていたのだが……。
「ウラァ! ぐあっ!」
その予想に反して、吹き飛んだのはワイルドの方だった。
「……俺様の攻撃が効かない!? 何だこれは!?」
スノウは透明な膜に包まれている。
「バリアです。私には神聖なる力があります」
「バリア、だとお?」
「私はあなたを傷つけたくはありません。どうかお引取りください」
スノウはとても悲しそうな表情で、静かにそう言い放った。
「……ふざけんな! 食らえ、連撃!」
「ブレッシング!」
ワイルドは目にも止まらぬ速さで切り裂く。だが、その連続攻撃を受けてもスノウは無傷だった。それどころか、攻撃する度にワイルドの方が傷ついてゆき、彼女はそれを魔力に変換している。
「何で……。何で俺の方がダメージを受けるんだよコラァ!」
「戦わなければならないのですね……それなら仕方がありません! In the World……この慈悲深い世界の中で!」
「いい気になりやがって! In the World……この陰湿な世界の中で!」
マリアの言った通りだった。ユウキがいなくても、スノウは自分の身を自分自身で守れる。それどころか、逆にユウキが守られていた。
「できればあなたも傷つけたくはなかった……」
「やれるもんならやってみろ!」
一瞬の間を置いてスノウの表情が変わった。覚悟を決めた乙女は、真っ直ぐにワイルドを見つめる。
「それでは参ります。シューティングスター!」
「痛え! 何なんだその技は!?」
スノウの技は一方的に打撃に打ち勝っている。なおかつ、カウンターと違い自分から攻撃を仕掛けている。
「私の技は守りの力を秘めてます。あなたの攻撃は通じません!」
「ちっ! それならこれはどうだ? キマイラウィング!」
ワイルドはコウモリのような羽を生やし、宙へ舞った。
「これくらいなら届きます。シューティングスター!」
「そっちが守りの技なら、こっちも対抗してやる! スラッシュ!」
ワイルドは爪を一振りし、飛んできた岩を砕いた。先程と同じように爪による攻撃であるが、今度はスノウの技と相殺した。
「何だ何だ? 大したことねえじゃんか! 今度はこっちから行くぜ!」
「無駄です! 私のバリアであなたが傷つくだけです!」
「壊せないのなら投げ飛ばせばいい!」
「なっ!? そ、それは!」
スノウが突如焦り出した。
「それならこっちも応じるまでです。ライトブリング!」
「スラッシュ!」
「そ、そんな!?」
スノウの放った光の衝撃波は、爪の一振りでかき消されてしまった。
「それなら俺も! ライトブリング!」
休憩している間に回復していたユウキは、ワイルドに向かって光の衝撃波を放った。
だが……。
「ギャハハ! 遅え!」
あえなくそれは躱されてしまう。
そして、ワイルドはそのままスノウを鷲づかみにし、上空へと舞う。
「捕まえたっと。それじゃ行くぜ!」
「キャアア!」
「やめろおお!」
ユウキが助けに向かおうとするが、もう間に合わない。
「天使は天国へ帰りな!」




