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~In the World~ この世界の中で……  作者: 愛守
第一編 それぞれの価値観
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束の間の平穏

「団長! ただいま戻りました!」

「ご苦労。早かったな」

「森へ探しに行こうとしたところをネガティブに襲われてしまいましたが、何とか追い払いました」

「ハニー! それ俺のおかげ! 俺が戦ったおかげだから!」


 マリアに腕をつかまれながら、ゼフュロスが情けなく自分の功績を訴えている。


「その戦闘中に、このわめく男も捕まえました」

「いやだから、戦闘は俺も助けに入ったじゃん。というか、ほぼ俺のおかげで勝てたのにそんな……」

「ふむ、よく見つけてくれたな二人とも。ご苦労であった」


 団長はゼフュロスの言葉に耳を貸さず、マリアとユウキをねぎらう。


「あのー! ローズ団長ー! 俺のおかげなんですよ?」

「そして、ゼフュロスよ」

「はい! 団長! 愛を語りましょう! 二人で!」

「このっ……! ばか者がー!」


 団長は全力の鉄拳をゼフュロスにお見舞いした。


「痛い! 何で!? 何で殴るんですか!」

「全く、何度言えばわかるのだ! 勝手な行動はつつしめとあれ程言ってあるだろうが! いつもいつも迷惑ばかりかけおって! 大体お前はあの時も……」


 ユウキは団長のすさまじい剣幕を見ながら、これは長くなるパターンだと気が滅入った。


「団長、とりあえず私とユウキは休みます」


 ユウキは助かったと胸を撫で下ろした。自分では言いづらいことをマリアが代わりに言ってくれたからだ。


「うむ、二人とも休むがよい」

「ありがとうございまーす! あ、じゃあちょっと俺ごはん食べさせてもらっていいですか」

「そうだな、先に食べていてよいぞ。もう準備はできておるはずだ」

「やったー! ごはんごはん!」

「全く、男はどうしてみんなこうなのかしら……」


 そう言われても、ユウキは朝食を食べ損ねていたので仕方がなかった。人探しのついでに何か食べようと思っていたが、その余裕すらなかったので空腹のままなのだ。


「あ、ユウキさん、マリアさん、お疲れ様です」

「スノウさん! おはよう……の時間ではもうないか」

「ユウキさん、ごはんの時間に間に合いませんでしたので心配してました。おなか空いてないかなって」

「すみません、寝過ごしてしまって……」


 自分のことを気遣ってくれていたことを知り、ユウキは改めてスノウが天使のように思えた。


「お昼はしっかり食べてくださいね。はい、どうぞ」

「わあ! おいしそう! いただきまーす!」


 ユウキは鶏肉のソテーを頬張った。


「……どうですか?」

「最高だよ! あ~あ、寝過ごしちゃったのが悔やまれるよ。一回分食べ損ねちゃった」

「お昼までお預けにならなくてよかったわね。あまり寝坊ばっかりだと、その内ゼフュロスみたいなことになるわよ?」

「うっ! 気をつけます……。って、え? マリアさん、ゼフュロスはもしかしてこのままお預け……」

「多分そうなるわ。後、罰として掃除とかさせられるんじゃないかしら?」


 ユウキの背に冷や汗が流れる。しっかりしないと、次は自分の番だ。


「……にしても、食べるの早いわね」

「あ、おいしいのでつい……。それに、ちょっと店を見て回りたかったので、早めに向かおうかと」

「店? お金持ってないでしょう?」

「あ、まあ……はい」

「……ほら、これあげるから」


 マリアはポケットから三百ゴールドを取り出し、ユウキへと渡した。


「ええ!? いいんですか?」

「まあ、初任務の報酬だと思えばいいんじゃない? さ、行っておいで」

「あ、ありがとうございます! それと、スノウさん、ごちそうさまでした!」

「喜んでもらえて私もうれしいです。行ってらっしゃい」


 ユウキは皿を片付け、早速店へと向かった。

 彼はまず、一番近い武器防具屋を通りかかる。


「いらっしゃい。うちの武器はとっても性能がいいよ! 防具もほら、軽くて丈夫」


 ユウキは剣を試しに持ってみた。その途端、見た目以上の重さにバランスを崩し、転んでしまった。


「お、お客さん、大丈夫ですかい?」

「痛た……。だ、大丈夫です」


 ユウキはここで初めて気が付いた。自分の授かった剣が空気のように軽いということに。

 となると、武器はいらないことになる。防具もよくよく考えれば、カウンター技があるので必要ない。それでもあえて装備しようものなら、その重さでユウキの体力が先に尽きてしまう。


「う~ん、他の店も見てきますね」

「ああ、お客さん……!」


 店主には悪いが、せっかくもらったお金だ。ユウキはそれを大切に使いたかった。


「いらっしゃいませー」


 ユウキは再び呼び止められる。

 小瓶や葉っぱを並べているその店は、一見して何を売っているのかがユウキにはよくわからなかった。


「何をお求めですかー?」

「あ、えっと……。ここって、何の店なんですか?」

「ここはお薬を売ってるお店ですよー。回復薬に毒薬、爆薬もありますよ!」


 爆薬と聞き、ユウキは身構えた。と同時に、それは買わないでおくことに決めた。

 回復薬は、マリアやスノウが怪我した時のために役立つかもしれない。チラっとそう考えたが、彼女たちにとってそれは無用の心配そうだった。


「どうしますかー?」

「後でまた考えます。すみません」

「はーい、またどうぞー」


 もう少しいろんな店を見ようと歩き回っていたその時。


「お、おい! 何だあれ!?」

「大丈夫なのか!?」


 町の入口が何やら騒がしいことにユウキは気づいた。


「ネガティブだ! ネガティブが森に火を放とうとしているぞ!」


 その言葉に、ユウキは表情を変えた。

 無意識に彼は森へと駆け出す。


「あ! ちょっとあんた! 危ないから町から出ちゃダメだ!」

「ご心配なく! 俺はポジティブの一員ですから! それより、早く仲間にも知らせてください!」

「お、おう! わかった!」


 ユウキは己の正義感に突き動かされ、一人で戦いに向かう。

 今すぐ向かわなければ間に合わないと、責任を自分一人で背負い込もうとしていた。


「やめろー! その火を消せー!」


 その声に敵は振り向いた。そいつは背が低めで髪は短い。距離が離れているので表情まではわからないが、明らかに先程戦ったダークとは別人だった。

 その敵は再び森へと向き直り、火を放とうとする。


「ライトブリング!」


 敵が無視できないようにするため、ユウキは遠距離攻撃を仕掛けた。

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