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神々に愛されし乙女の転生譚  作者: 楠 のびる
第一部 神々に愛されし乙女
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Act.6 乙女の目的




 無事、帰還の魔方陣を発見し、遺跡へと戻ったフィーリたちは、人攫いの一味の見張りをしていた村人に出迎えられた。


「ケイ、無事だったか! 心配したぞ!」


 そう駆け寄ってきた村人は、フィーリとケイの他に、一人の人外の美しさを持つ青年……オルが加わっていることに驚く。しかしフィーリに寄り添うようにたつ彼に話しかけることも出来ず、ケイに物言いたげな視線を向けるだけだった。


 その視線に気がついて、なんといって言ってかわからないケイ。さすがにあの白い蛇が人化したといっても、簡単には信じてもらえないだろう。


「特に問題は……ないようね。」


 そんな獣人族二人の微妙な空気には気づかず、フィーリは遺跡の大聖堂の中央で、大人しくしている一味や村人たちを見まわして言った。


「じゃ、私は帰るわ。」

「フィーリ?」

「またこの遺跡には、国かギルドから調査の者が派遣されるだろうから。それまでは無暗に立ち入らないように伝えてもらってもいいかな。」


 フィーリの言葉に、村人は頷くと、仲間に知らせるべくその場を離れた。村人が十分に離れたことを確認し、フィーリはケイだけに聞える小声で話しかける。


「一応、核は破壊したから、迷宮から死者が溢れるなんてことはないだろうけど、中には魔物もいたからね。」


 死にたいなら止めはしないけど、と付け加える。


 死者の兵がいなくなったとはいえ、迷宮の中には魔物もいる。だが、宝物も迷宮には存在する。貧しい村の住人が、欲に目が眩んで侵入しないとも限らない。

 自己責任だが、寝覚めは悪い。冒険者で徒党を組めば攻略できなくはないが、一般人では鼠が獅子に挑むようなものだ。


 口が悪くきつい物言いをするフィーリだが、それは村人たちのことを心配してだと知ったケイ。だから再度同じ質問を口にした。


「……なぜ、フィーリは冒険者になった?」

「また同じ質問? それ、あなたに教える必要はあるの?」

「知りたいんだ。」


 ケイは鋭い視線を向けるフィーリに怯まずに、真正面から彼女を見返す。

 彼が引き下がらないことを理解したフィーリは、諦めたように肩を竦めた。


「ま、短い間だけど、一緒に迷宮探索した仲だし……ねえ、もう一度聞くけど、お金持ちは皆、幸せだと思う?」

「それは……」


 ケイは返答に窮する。

 迷宮での問いと同じだった。あの時は、フィーリが会話を拒絶した為、なにも話さず終わった。


 貧乏な村で暮らすケイにとって、金さえあれば生活が楽になると思ったことは何度もあった。だがそれが絶対の幸せか、と問われば、ケイは頷くことは出来ない。

 金があるに越したことはない。だが裕福と幸福は、別ものではないかとケイは思った。


 黙ってしまったケイにフィーリはゆっくりと口を開く。


「私が冒険者になった目的は、『祝福』をなくすためよ。」


 その言葉にケイが目を見開いたが、フィーリは言葉を続ける。


「たしかに『祝福』持ちは優遇される。私は、多くの『祝福』を持っていて『神々に愛されし乙女』なんて二つ名もあるわ。」


 事実、フィーリは冒険者になる前もなった後も、この国だけでなく他国からも、破格の高待遇を条件に、士官を持ちかけられたこともあった。大貴族、大富豪からの誘いも多かった。

 周りから見れば、羨ましいかぎりだろうが、フィーリにとっては、煩わしいだけだった。


「だけど、『祝福』せいで、私は周りを、傷つけた。」


 フィーリから出た言葉に、ケイは息を飲む。その様子を知りながらも、フィーリは口を閉じることはしなかった。


「三歳の時、私は神殿で祝福持ちと神託を受けた。」


 フィーリは父は国の王城の役人、母は専業主婦の、一般的な家庭よりは少し裕福な家庭に生まれた。

 フィーリが三歳の時、母親とともに立ち寄った神殿で、偶然にも大司教と面会し、フィーリが多くの祝福持ちという神託を大司教が受けた。


 神殿は『祝福持ち』を発見した場合、国に報告する義務がある。

 ただまだ三歳ということで、国も教会も、フィーリが祝福持ちということは、秘匿することとなった。そのはずだった。


「その後すぐ、私は攫われた。」


 どこからか情報が漏れたのだろう。敷地内の庭で遊んでいて母が目を離した隙に、フィーリは攫われた。

 両親と引き離され、王都からも離れ、誰もいない森の奥へと連れてこられたフィーリ。幼く恐怖で泣きわめく子どもを抑えようと、人攫いの大きな手が目の前に迫った瞬間、フィーリは前世の記憶……死んだ時の記憶を思い出し、前世と現実の恐怖が混ざり合い、引き金となった。


「まだ小さくて力の制御が出来なかった私は、人攫いたちと一つの森を灰にした。」


 力の暴走は、フィーリが力尽きるまでの三日間、昼夜問わず続いた。その後一週間、フィーリは高熱にうなされると同時に、前世の記憶を思い出したのだ。


 記憶が蘇れば、無力な三歳児とは違った。


「『祝福』で力を制御できるようになった私は、狙われても身を守る事ができた。だけど、次は身内が狙われた……五歳の時、弟が人質にとられ、私はまた、暴走した。」


 三歳の弟を人質にとられ、フィーリは頭が真っ白になり、力の制御ができず暴走した。弟以外の周りのもの全てを、焼き払った。運よく一般人を巻き込まなかったことが、幸いだった。


 父と母は、弟を守ったフィーリを褒めた。だが、その日の夜、ふと目が覚めてると、今で両親が話しているのを聞いてしまった。父が己の無力に震え、母が啜りに泣いていた。


「父と母は、自分達を責めた。私を守れないことに。」


 化け物のような力を持つ自分のことを、両親は心の底から愛してくれていると思った反面、そんな両親を悲しませる自分が憎くなった。


 前世、家族を失ったフィーリは、今世の家族は大切にしようと思っていた。だが周りは、そんなフィーリの希望を裏切った。


 大金を積んでフィーリを養子に迎えようとする富豪、息子の婚約者に仕立てようとする貴族、まだ幼いフィーリに懸想し攫おうとした者……時には懐柔しようとし、時には脅迫し、フィーリを己のものにしようとする者の後は絶たなかった。


「私も家族も『祝福』のせいで、苦労も嫌な思いもたくさんした。いいことなんて、一つもなかった。」


 その都度、苦しみ己を責めたてる両親をフィーリは目のあたりにした。


「だから私は、『祝福』なんていらない。」


 フィーリにとって『祝福』は、家族との幸せを壊す『呪い』でしかなかった。


「家族と心穏やかに過ごせる……普通の幸せでいいの、私は。」


 それがフィーリにとって、唯一の願いだった。前世では当たり前すぎてわからなかった、失って初めて気が付いた幸せ。


「でもこれはきっと、普通の人からみたら、贅沢な願いなんだろうけどね。」


 そうフィーリは苦笑を漏らす。


 金持ちだからといって、金のない人間からみれば、十分幸せだろう。自分の願いは、贅沢者のよくばりで高慢な願いでしかない。

 そうフィーリは理解していても、それでも願わずにはいられなかった。


「……だから、フィーリは冒険者になって、危険な迷宮を探索しているんだな。」

「ええ、迷宮には古代の宝が眠っている。もしかしたら、『祝福』をなくす手がかりが、あるかもしれないから。」


 迷宮は世界が三つに分かれる前につくられたものだ。そこの眠る宝は、現在では作成不可能な、人知を超えたものもある。その中にもしかしたら、祝福をなくす手がかりがあるかもとフィーリは考え、十四の時にとあることがきっかけで冒険者となったのだ。


「これで、答えになったかしら?」


 そういうフィーリにケイは首を縦に振った。

 ケイの答えに満足したフィーリは、視線を捕えられた一味へと向ける。


「さて、じゃあ帰りますか。」

「こいつらはどうするんだ?」


 フィーリにつられて視線を向けるケイ。項垂れる男達は全員で十六名。ここから王都まではかなり離れている。フィーリ一人で連れいくには、不可能だった。

 そんなケイの予想をフィーリは否定した。


「連れて帰る。」

「……どうやって?」

「皆さんは、離れていて。オル、お願い。」


 訝しげに問うケイ。そんな彼からフィーリは指示してから、オルを連れて離れる。


 ケイからも村人や一味からも離れた場所で、フィーリはオルと相対する。そして自分よりも身長の高い美青年へ右の掌をかざした。


《我、リシュフィー・ストラトスは、誓約のもと、汝に命ずる。》


 フィーリが本名を含めた、力ある言葉を紡ぐ。その言葉と同調するように、フィーリとオルの周りに白と空色の光が溢れ踊り出し、室内だというのに風が巻き起こり、フィーリとピンクゴールドの髪と、オルの絹糸のような白く、それでいて薄い空色の不思議な光沢を持つ長い髪を、波打たせる。


《我が魔力を代価に、枷を外し、本来のあるべき姿へと現せ。》


 フィーリの胸元に、光る刻印が浮かび上がった。それが主と使い魔を繋ぐ印であるが、そのことを知らぬ皆は、美しき乙女と青年、そして溢れる光の氾濫という、神秘的な光景に、言葉を忘れ見入った。


《その姿は神に連なる者、翼を持つ大蛇ケツァルコアトル


 フィーリが、オルの本来の姿を呼ぶ。そして名を呼んだ。


《我が授けた真名において、顕現せよ、金の瞳オール・プリュネル


 光が爆発した。


 ケイや獣人達は腕で目を庇い、両手を縛られている一味は上体を伏せた。


 そして光と風が止んだ時、目の前の光景に、息を飲む。


 白く淡い空色の光沢の鱗と黄金の瞳を持つ大蛇が、フィーリに頭をたれるように、鎌首を持ち上げていた。

 高さはフィーリの身長の三倍は越え、全長は彼女の十倍は優に超すだろう大蛇。普通の蛇との差異は、大きさもさることながら、その蛇には一対の翼だった。

 蝙蝠のような黒曜石を溶かした、漆黒の艶やかな翼が、大蛇の頭より下、全長の四分の一のところに生えていた。


 まるで魔物のような容姿。だがその大蛇からは、恐怖は一切感じられなかった。神々しく神秘的で厳かな空気を纏ったその存在の瞳は、目の前の乙女だけに向けられ、周りに向けられることはなかった。


「オル、王都へと道を繋げて欲しいの。」


 本来の姿になった相棒に、フィーリは願う。


《わかった。》


 直接頭に声が響いたとかとケイが認識すると同時に、オルが己の漆黒の翼を一度羽ばたく。


 するとなにもなかった風景が、割けた。

 その割れた先には、草原とさらに先には都が移っていた。オルが、この場の空間と、王都の側の草原の空間を繋げたのだ。


「ありがとう、オル。【重力】【操作】」


 フィーリは礼を言うと、魔法を使役する。力ある言葉が発動し一味たち全員を宙に浮かべると、割れ目の先に放りこんだ。

 先の地面で、蛙がつぶれたような声が聞こえたが、フィーリは気にせず、次々と一味を投げ入れる。


「これで最後。じゃ私は帰るから。」

「……フィーリ!」


 最後の一人を投げ込んで、フィーリは己も割れ目を潜ろうとする。

 あまりにも非現実的な光景に、呆気にとられていたケイは我に返ると、乙女の名を呼んだ。


「ケイ?」


 背中を向けていたフィーリが、訝しげに振り返る。ケイは獣人族の身体能力を生かし彼女との間合いを詰め、彼女の手を握る。


「ちょっと……」


 突然のことにフィーリは不愉快気に眉を潜め、ケイの手を振りほどこうとしたが、思いのほか力強く握られていた為、叶わなかった。そんな彼女に、ケイは言葉を紡ぐ。


「俺は、君を守りたい。」

「……は?」


 フィーリの間の抜けた声が響いた。だがケイは構わず言葉を続ける。


「俺は、君の助けになりたい。」

「なにを……」


 言っているのかわからない、とフィーリは言葉を続けようとしたが、それさえもケイは遮った。


「君は、『星持ちの冒険者』でも『神々に愛されし乙女』でもない。普通の女の子だ。」


 誰かに助けを求めることを忘れてしまった、一人で強く生きていくしかなかった、女の子なのだとケイは気が付いた。同時に彼女を支えたいと、守りたいと強く思った。


 ケイは一拍おいて、覚悟を決めて、口を開く。


「俺は、君を……」

「待って。」


 その言葉を今度はフィーリが遮った。


「ケイ、それは気の迷いよ。」


 フィーリは冷静に断言する。


「そんなことは!」

「私の。」


 詰め寄ろうとするケイを拒絶するように、フィーリは強く言い、彼に掴まれていた手を振り払う。


「私の持つ祝福の中で、この世界で初めての確認されたものがある。」


 ケイに言い聞かせるように、フィーリはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「それが『愛の女神の祝福』よ。」


 神々は加護や祝福を与える。だが、『愛の女神』の祝福だけは、過去一度も確認されておらず、どのような効果があるか不明だった。


「この祝福が、どんなものかはわからない。だけど、言葉のままとるなら、誰からも愛される祝福なんじゃないか、と思う。」


 そうフィーリは苦々しく言う。


「特に異性には、かなり影響するわ……本当に。」


 過去、異性に好意を持たれることは、自意識過剰でなくても多かった。そのおかげで、いらぬ苦労をしたことも多い。

 自分に懸想した複数の男がフィーリの意思を確認もせず、決闘をしようとしたことなどもあった。婚約者がいる男が、フィーリに一目ぼれをして婚約者を蔑にし、その婚約者から恨まれたこともあった。身分を盾に関係を迫られたこともあった。


「あなたは『祝福』に影響されているだけ。気の迷いよ。」

「違う! 俺は本当にッ!」

「そうだとしても! 私にはわからない!! 家族以外、私は信じられない!」


 フィーリの言葉を否定しようとしたケイの言葉を、フィーリはさらに激しく否定する。

 そしてケイから視線を逸らし、己を守る様に自分を抱きしめたフィーリは、彼から離れるように一歩下がる。


「この容姿も『美の女神の祝福』の影響よ。剣技も魔力も、私の全てが、神々に造られたといっても過言ではない。」


 誰もが称賛する。『神々に愛されし乙女』を。だがその賞賛は『祝福』に向けられたものであって、フィーリに向けられたものではない、とフィーリは思っている。


 家族だけが、いつも彼女自身を見てくれていた。


 さらに一歩、フィーリはケイから離れた。


「……フィーリ、俺は確かに君の容姿や強さに惹かれない、といったら嘘になる。」


 ケイは距離を取るフィーリに一歩近づきながら、己の本音を口にする。


 最初出会った時、その美貌に惹かれたことは本当だった。今思い返せば、初めて見た、美しい乙女に、その時から心を奪われたのだろう。


 だが、とケイは言葉を続ける。


「一番に惹かれたのは、君の底なしの優しさだ。」


 誰に何を思われようとも、己を悪く見せても、他人のために自らを犠牲することを厭わない、心優しい乙女。

 今も彼女は自分ではなく、家族を大切に思い、 祝福を利用するのではなく、祝福を無くす方法を探している。


 そんな彼女の心に、ケイは一目ぼれしたのだ。


「……その感情も、所詮造りものよ。祝福がなくなれば、消える。」


 だがケイの本心も、フィーリは首を横に振って拒絶する。


「フィーリ!」


 ケイの言葉から逃げるように、フィーリは背中を向け、裂け目を潜った。


「さようなら、ケイ。もう二度と、会うことはないわ。」


 そして背中を向けたまま、フィーリは別れの言葉を言う。ケイが追いかける間もなく裂け目は閉じ、フィーリも一味も、そして翼を持つ大蛇も消えた。


「ケイ……」


 その場に佇むケイに、村の仲間は恐る恐る声をかける。


 本人は知らぬが、村一番のモテ男の失恋現場に居合わせるとは、思っていなかったのだ。

 ケイは希少な兎の獣人族で、若く働き者で、腕っぷしも強い上、性格も少々不器用だが悪くはない。その上特定の相手はいないから、村の娘たちは誰もが彼の恋人の座を狙っていた。

 そんな無自覚モテイケメンの失恋を目撃するとは、仲間達は思っていなかったのだ。


 何と言って慰めればいいかわからないでいる仲間に、ケイは口を開く。


「悪い、俺は、村を出る。」


 その言葉は、彼がまだ彼女を諦めていない、ということがわかった。


「追うのか?」

「ああ。王都へ行って、俺は冒険者になる。」

「だが、危険だぞ?」


 国内であっても獣人族は珍しいほうだ。それがケイのように希少な種族ともなれば、今回のように人攫いに狙われる危険もある。村にいるならまだしも、一人で旅に出ればその危険は増える。


「それでも、俺は行く。彼女の役に立ちたいんだ。」


 仲間の言葉に、ケイは決意を込めて言った。






「フィー、よかったのか?」


 閉じられた裂け目の前で、草原の風に髪を靡かせる乙女の背中に、人化したオルは話しかけた。

 フィーリは頷く。だがオルに視線を向けることはなかった。


「とりあえず、門番に話を通してくるわ。オル、ちょっと見張ってて。」

「わかった。」


 そう言って王都へと歩き出すフィーリの背中を見送ると、オルはとりあえず団子状に積み重なっている人攫いの一味の周りに結界を張る。フィーリの【呪】がかかっている為、逃亡はしないだろうが念のためだった。

 視線を再度フィーリの向かった方角へ向ければ、彼女の後姿は小さくなっていた。

 草原の風を頬にかんじながら、オルは天界から地上界へと召喚された時のことを思い出す。


「お願い、私から祝福を無くして!」


 召喚された先で最初に耳にしたのは、五歳の少女の懇願だった。神族である己を呼び出したのが幼すぎる少女だったことも驚いたが、その願いにさらに驚き困惑した事もオルははっきりと覚えている。本来の姿、翼の持つ大蛇の姿だったため、困惑の表情は浮かべることはなかったが。

 そんな困惑する大蛇をよそに、少女は言葉を続けた。


「私はもうこれ以上、家族を傷つけたくないの! もう失いたくないの!」


 そうシアンの瞳に涙を溜めて、少女は願った。

 だが至高の存在である神々の授けた祝福を、一介の神族である大蛇がなくすこともできるはずない。だが彼女を見捨てることが出来ず、神族でありながら地上界に留まり、少女と使い魔の誓約をし、彼女を手助けている。


 それから十年以上の時がすぎ、年月は少女を大人へと成長させた。そして彼女は、祝福と努力で力をつけ、世界に勇名を轟かせる冒険者となった。


 だが、とオルは思う。

 身体も能力も成長しても、フィーリはあの時から、なにも変わっていない。

 人を凌駕する力、絶大なる魔力を持っていても、彼女は無自覚に己に自信がない、と。

 前世の記憶と、神々の祝福が、彼女の自信を根こそぎ奪った。

 全てが造られたもので、偽りなのだと。


(それに彼女はまだ恐れている。)


 家族を失う事、大切な人を作る事、そして大切な人をまた奪われることを、恐怖しているのだ。


「全てが裏目に出ているぞ、神々……」


 ついオルは毒づく。

 オルは至高の存在である神々と、面識はほとんどない。あっても遠くから眺める程度だ。


 ただ彼らが気まぐれに地上界の者に祝福を与えることは知っている。

 オルはフィーリと契約した時、彼女の記憶を全て知った。それは彼女の前世の記憶も含まれている。

 きっと神々は、前世のフィーリに憐れんで、次の人生が幸福に満ちるよう祝福を与えたのだろう。


 その良かれとおもってしたことが、悉く裏目にでているわけだが。


 オルは深いため息を漏らしたのだった。







作中のオルの本来の姿は、神話や神獣を参考にしていますが、こちらの神話とは別物です。(念のため

フィーリの本名はオンラインゲームの今は亡きあの人からです。(調べずにわかった人は同志)

仮でつけたらそのまま採用になりました……


次回で一部完ですが、ちょっといろいろまずそうなので、更新はさらに遅くなりそうです。ごめんなさい。



蛇足:ケイさんがまさかの続投フラグを立ててくれました。



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