一話
「はいはーい、さっさと文化祭の出し物を決めるわよー」
他称、委員長。真面目な正確と人をまとめる才能、そして特徴的な黒縁めがねをかけた彼女は、そう呼ばれている。首の付け根あたりまで伸ばしている髪の毛と、眉毛あたりで切りそろえられた前髪。もちろんのこと、髪は校則に沿って、一切染められておらず、綺麗な黒髪を保っている。
「えぇと、なになに・・・・・・メイド喫茶、お化け屋敷それにSSP? なによこれ」
「せくしーすしぱーてぃー!」
僕の隣から声があがる。友人である佐藤勝だ。こいつは髪の色を茶髪に染めており、委員長から目の敵にされている。まあでも実際、校則なんて守ってるやつはあんまいない。クラスを見渡せば茶色い頭なんていくらでもいるし、制服を着崩しているやつなんかも多い。たぶん言動が残念だから目の敵にされてるんだろうな。
「あんたのことだからまたゲームかなんかで得た知識なんでしょう? だいだい寿司なのにセクシーってなによセクシーって」
「委員長はわかってない! 女子が素手で寿司を握る。そしてなおかつ格好はセクシー! これは男のロマンだよ!」
椅子から立ち上がり、両手を机につきながら、勝は吠えた。その発言に半数程度の男は湧くが、無論女子は黙って冷たい視線を向けいている。
「はいはい。ほかに何か意見はない? えーっと、皆木、あんたはなんかないの?」
「ん、ああ・・・・・・」
なぜ僕に聞く。それなりの付き合いだから、何も言わないのはわかるだろうに。
「なんでもいいよ」
「あんたは本当に駄目ね。僕はここにいませんよー、みたいな態度をいつまでしてるのよ。あの馬鹿ほどとは言わないけど、もっとこう、熱くなりなさいよ」
馬鹿とはなんだ、と隣でうるさくしている勝を見ながら、僕はひとつため息をついた。
「――ッ」
仕方なく意見を適当に言おうかと思うが、口から声が出てこない。喉から流れる空気は声にならず、漏れるばかりだ。
怪訝に思ったのか、委員長と勝が僕を見つめている。
――私を見捨てたのに、あなたは勝手に自分を楽しむの?
声が、聞こえる。
「おい、大丈夫か要!」
「ちょっと、顔色悪いわよ!」
胃のそこからなにかが這い上がってくる。嘔吐感を必死に押さえながら僕は口を押さえながら立ち上がる。
――また、逃げるの?
声は止まない。僕を呪う怨嗟の声は耳に止まずに入り込んでくる。
足がもつれ、椅子と机の群れに倒れ込むが、痛みなんて気にしてられない。わき上がる吐き気と止まぬ声が僕を攻撃してくるからだ。
ああ、僕は、未だ彼女から逃げられないでいる。
彼女がこちらを見ている。あのときのおぞましい姿のまま、僕を見下ろしている。
僕は、赤く嗤う彼女を見ながら、気を失った。