序章 悲劇、怨嗟の声
ちょっと息抜きに。更新は不定期。
眼前に写るのは道路についた大型車両の轍。タイヤの焦げる臭いが鼻をつく。
――ああ、これは一体なんだろうか。
視線を横に向ければ、赤く血ぬれた彼女の体が地面に横たわっている。腕は通常ではあり得ない方向に曲がり、足は複雑に折れ曲がっている。
――さっきまでは、いつも通りの日常であったのに。
たわいもない話をしていた。あの子が少しうざったいだの、体育の教師が汗臭いだのと、至極どうでもいい話だ。しかし、どうしてだろうか。煌びやかで、男女関係なしに人気があって。それでいてなぜか僕と対等に接してくれる彼女が、こんなにもおぞましい姿に変貌してしまっている。
――僕でなくて良かった。
車にひかれ、死にゆくのが僕でなくて本当によかったと、心の底から安堵する僕がいる。誰がどう見ても、僕が死んだ方が皆にとって最良だったのだと、わかっているのに。あんな姿にならなくてよかった、痛い思いをせずによかったと、心の底から思うのだ。
――ああ、僕は本当に最低だ。
わかっている。僕は最低だ。彼女は僕を助けてくれたのに。それでもよかったと思う心に嘘はない。だからこそ、僕は自分を嫌悪することをやめられない。
喉が渇き、足が震える。転んだときにできた擦り傷が疼く。力の入らない足をたたき、僕は歩き始める。事故が起きた反対側へと徐々にスピードを上げて走り出す。
二度とあの光景が目に入らないように。彼女が視界に入らないように。
僕は全力で、死にものぐるいで、転びながらも、彼女から逃げるために、走ったのだ。