表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの館の物語  作者: 優緋
悪魔と魔女の内緒の約束
4/28

晃と館の主の会合

 空に線を残して飛んで来た影が、魔法使いの館――山奥にある古びた洋館の門の前に落ちて黒い服を着た少年の姿になる。

 洋館の塀は錆びていて周りとの調和が見られず、洋館は怪しくそして禍々しく建っていた。

「ここ、か……」

 晃はズボンから手紙を取り出して、地図を確認する。

 門の表札には、志田切と書かれている。恐らくは手紙の差出人の名前。

 晃は記憶を辿ってみるが、志田切なんていう人物に会ったことなんかないし、知らない。

 門を押すと開いたので中に入って行く。


 辺りは草が伸び放題で、塀には蔦が巻きつき苔も生えていた。もう長い間、放置されていたのがわかる。

 サクサク……。石造りの道の上をゆっくりと掃かれないまま降り積もった落ち葉を踏みながら洋館に向かう。

 満月の光だけが灯りの暗い夜を歩く姿が、晃にはとてもよく似合う。町の明りさえ届かない山の中で、足元さえもはっきりと見えないにも関わらず、晃は当然のように歩く。

 まるで『ここ』こそが、自分の居場所だとでも言うように。

 歩きながら横目で見ると庭には色の禿げたテーブルや椅子が幾つもあった。ここは、何人もの人が集う場所だったのだろう。

 それらが大切にされていたのを感じる。

 今はこんな寂れた場所になっているが、この館が使われていた頃は、とても素敵な場所だった事だろう。日差しの中、温かくゆっくりとした優しい時間が流れるような。

 その光景を思い描き微笑んでいたが、そんな自分に気づいて、足を止めて笑みを消す。

(日差しの中?温かく?優しい?)

 そんなもの俺には似合いはしない。俺は……悪魔なのだから。

「くくくっ……馬鹿みたいだ」

 自分の考えた事を自分で自嘲気味に笑う。何故なら俺に似合うのは、暗い夜、深い闇だから。

 あちこちに皹が入り、がたがきている洋館の前に来て館を見上げた。

 入口の扉の上には、無残に割れた天使のステンドグラス。割れた天使の顔は口元までしかなく、歪んだ笑みをしている。

 そう、これこそが自分に相応しい場所だ。日の届かない、優しさ、温もり、そんなものとは無縁の闇の中。

(さて……何があるかな?)

 悪魔の中でも特殊な存在である晃には、魔法を使っているとはいえ、手紙を届けることは簡単ではないはずだ。まして変わり者に手紙を出す人間がいるなどとは、思ってもみなかった。

 だからこそ晃は、こんな事をする差出人に興味があった。そしてこの手紙に籠められた強い想いにも。

 これから何が起こるかを考えると、晃は楽しくてついつい口の端が上がってしまう。

 入口の扉は、晃が軽く押しただけでギィィィ……と音を立てて、開いた。

(また、か)

 この館の中へ、手紙の主に誘われているのを感じる。

 晃は、闇に溶けるように洋館の中に入って行った。


 館の中は暗く、埃の匂いがした。足元には花瓶やガラスの破片が散乱していて歩くたびにシャリっという音がする。

 灯りは、割れたステンドグラスから差し込む僅かな月の光だけ。

 周りは所狭しと本が積まれていて、どこもかしこも埃を被っていた。

 積まれた1番上の本を手に取って、埃を手で払い落とす。本の表紙に書かれている題名は『魔女の手記』。

 晃は、数多くの魔法書を呼んでいるがこの本はまだ読んだことがない。

 本を捲ると、書かれていたのは遥か昔に使われていた神官の使う文字。書き手の癖で丸みを帯びた、晃の見慣れた忘れられない文字。晃と共に旅をした少女――明樹璃あじゅりの文字だ。

 書かれていたのは、優しくも悲しい旅の記録。

(こんなことを書いていたのか)

 晃はたたずんだまま、明樹璃の手記を静かに読んだ。

(成程、これはお前が導いた運命なのか……)


 そういえば明樹璃と一緒に旅をしていた時、そう確かあれは――珍しく1月程も止まった村の宿の事だ。

 俺が部屋に入ると明樹璃が窓際の机で何か書いてたっけ。

「何書いてるんだ?」

 言いながら近づいて日記帳に手を伸ばす。

「見ないで~」

 声に気がついた明樹璃は日記帳に覆い被さってまで、取られないようにした。

「そこまでして、見られたくないのかよ」

 ポリポリと頭をかいて俺は部屋を後にした。この時、扉の前でちらっと後ろを見ると、日記帳の背表紙の裏、カバーの下にも何か書いているのが見えた。


 かつての事を思い出しページの最後、背表紙の裏のカバー下を捲る。そこには2行に分けて『幸せになってね』と書かれている。

(簡単に言うなよ)

 晃は、困ったような顔をする。

 傍の本を何冊か手に取り、本を数ページ読んでから、パタンッと閉じて元の場所に戻す。

 他の本も保存状態に問題があって、読みにくそうではあるが他の蔵書も読んだことのない珍しいものが多い。果ては、晃が読みたくて何10年も探している本まである。

 これだけあれば、当分は退屈しないで済みそうだ。

 恐らくこれが、契約の代価なのだろうと晃は思う。

 玄関から少し奥に進むと天井が吹き抜けになっている場所に出た。上の階に本棚が見えるし、本が積まれているのも見えた。この階と同じで本棚に本が入りきらなかったようだ。

 2階に続く階段はあるものの、吹き抜けの場所に繋がっている様子はない。周りを見るが、梯子も見当たらない。

(……これは……なるほど)

 晃は状況を多少理解し、納得した。

 晃は似たような構造の建物を知っている。これは吹き抜け場所に行くために階段や梯子を使う必要のない者達が使う構造だ。つまりは、空を飛ぶことが出来て、本を読むことのできる者達が使用していたのだ。

 自分の知っている限りでは、天使、悪魔、妖精、精霊、魔法使いと魔女――その他、何種族か。

 つまり、自分に手紙を出したのはそういう存在なのだろう。そのうち手紙を書くという物理的な事をするのは、魔法使いか魔女――その他何種族か。それならただの人間よりは納得がいく。

 吹き抜けの場所の本も見てみようと晃は悪魔の翼を背中から出そうとして止めた。契約すればいつでもここの本を読める。

 残った疑問は、呼ばれた理由だけだ。娘をお願いの1文では、何をすればいいのかわからない。

 最後の疑問の答えを探そうと周りを見ていると、微かに力の気配を感じて、前を向く。そこには暗い中、青白い人魂のような光が浮いていた。その光は晃と一定の距離を取り、漂っていた。近づくと、その分だけ気配は館の奥へと移動し離れれば、その分だけ手前に戻る。

(……呼んでいるのか)

 晃はその気配に従い、ついていった。気配は晃を館の奥へと誘う。気配は廊下を照らしながら進み、館の奥にある部屋の前でたゆたってから消えた。

 その部屋の扉は他の部屋と違い、両開きになっていた。最も扉は軋んでいて片方しか、開けることはできなかったが。

 部屋の中は大きな机があって、左右の壁の前には本棚が置いてあった。この館にある調度品はいい物が多かったが、この部屋は他の部屋よりもいい物が使われていた。

 部屋は茶系のシックな色で落ち着いた雰囲気の部屋だ。何よりも床に本が積み上げられていないのが1番の違いだ。

 恐らくこの館の主の部屋だったのだろう。

 そんなことを思いつつ、机の前に行くと金色の髪に青い瞳の女性が白地の縁取りが青いワンピース姿で半透明の幻――強い思念の残滓が現れる。この人が、手紙を送ってきた本人なのだろう。

『娘を……お願い……』

 手紙に書かれたのと同じ言葉。この女性が手紙の差出人だと確信する。

 物腰の柔らかそうな美しい女性だが、その姿に何の感心もみせない。

 彼女の残滓が、大怪我で動けないのか幽閉されたのか分からなかったので暫く、この幻をじっと見て彼女がもう天界へ行ったのだとしった。それは晃にとっては、とても些細なことで別に驚くような事でもなかった。

「ん……わかった」

 心に届いた言葉に晃は、仕方がないという感じで簡潔に答える。面白そうなので実は返事は最初から決めていた。『魔女の手記』を見て断れなくなったが。

 幻は、少しずつ薄くなっていき、そして消えた。幻のいた机の上には不思議と懐かしい感じのする埃を被った1枚の写真が残っていた。晃が写真を手に取り、埃を払うと、そこにはさっきの女性と幼い女の子が笑って映っていた。

 懐かしさの正体は、優しさだ。晃にも、この写真のように穏やかに過ごしていた時期があった、と思い出す。

「なるほど……これが、彼女の」

 映った少女の笑顔につられて、晃は知らずに口元が綻んでいた。

 その表情は慈愛に満ちていて、悪魔のものとは思えない程、優しいものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ