魔女と悪魔の共通点
バスが海の1つ前のバス停を過ぎたので、雀は晃の体を揺する。
「起きて晃君。ねぇ次、海だよ」
「……ん、わかった」
晃は、ゆっくりと目を覚ました。開いた瞬間赤かった瞳がすぐに黒く染まる。
ゆっくりと体を起こして、晃は辛そうに片手を額に近付ける。
(うわぁ綺麗)
晃の紅い瞳は宝石のようだ。稀にしか見れない、その瞳に雀は魅入られて雀の頬が赤く染まる。
ちょうどバスがバス停について止まった。晃はふらつきながら立ち上がって雀の荷物を棚から下ろして、担いだ。
「ちょ、ちょっと、自分の荷物くらい自分で持つよ」
「いや、構わない」
足取りさえおぼつかなくて、ふらふらと歩く晃に荷物を持たせたくない。
晃は、さっさと雀の荷物を、下ろして担いでしまう。
「待って~」
雀は晃を追ってバスを降りた。その後に加賀見が続く。
3人はバスから降りる。
ザザー
バスから降りると波の引く音と押し寄せる音と潮の匂い。暑い日差しが照りつける夏の海がそこにあった。
(うわあ)
雀が感動していると3人の後ろに止まっていたバスが、ゆっくり動きだし次のバス停を目指して出て行った。
「大丈夫?」
調子の悪い晃が心配で雀が聞く。
「……ああ」
そう答えたが、晃は、動きが緩慢で調子が悪そうなのが見てわかる。
「……折角、海に来たんだ、楽しまないと損だろ。俺の事は気にするな」
「うん」
そうは言ったものの、すぐに気持ちは切り替えられな――。
そう思いかけた時、晃は指で海の方を指した。雀が、つられてきらきら光る海の方を向いて、感動した。
雀は、とっとっと、と堤防の上に乗る。
堤防の先には太陽の光を反射する蒼い海。
「キレー」
その光景がとても素敵で感動が口から洩れた。
確かに楽しまないと損かと思ってしまい、結局晃を気にしつつ楽しむことに決めた。
考えてみれば、引越す時に海岸沿いの道を車で走ったけど、今まで直接海に来る事はなかった。
今、思えば魔女の才を持つ事を人に知られない為には、海水につかれないのを知られないためには当然だと思える。
防波堤の上ではしゃぐ雀の下で、その様子を後ろで2人が見ている。
「お前にもあんな弱点があったんだな。いい事を知った」
加賀見が珍しく、晃に笑いかけた。晃は、雀を見ていて加賀見には返事をしない。
加賀見は無視されて、それがまるで相手にする価値もないと言われている感じがして嫌だった。
「で、あの薬の効能はわかるか?」
「さぁ?ま、悪魔の正体を暴き、その能力を低下させる事は出来るみたいだ」
「そうか」
晃は、簡潔に答えてから加賀見の様子を見る。加賀見は片手を顎に当て、俯いて何か考えているようだった。
どうせ、あの風邪薬の効能が神に影響を与えないかとか、考えているのだろう。丸わかりだ。
「おいてくぞ」
「待てって」
晃は、堤防に上がった雀の横を通る時ちらっと見て通り過ぎた。すぐ後ろを加賀見がついて行く。
「ちょっ、ちょっと待って」
鞄を背負いなおし慌てて雀が2人の後を追いかけた。
晃は、浜に着くとパラソルを立てて、ビニールシートを引いた。その後すぐにパラソルの影の中に入って座った。
少しすると、若葉色のワンピースのような水着に着替えた雀が来た。
「どう?」
雀がもじもじとしながら恥ずかしそうに聞く。初めての事だから尚更、恥ずかしい。
「ああ、まぁ、そんなもんだろ」
特に感動も褒める気もなく、そっけなく答えた。
むぅ~っと雀は頬を膨らませる。
自分が綺麗だとは思わないけど、さすがに興味もなく、あっさり言われると納得がいない。
「綺麗だよ」
「ありがと」
優しい言葉をかけてくれるのは、いつも加賀見君だ。でも、見られて恥ずかしいと感じるのは晃君の方だ。
こっちを見て、他の人にはわからない程度、唇の端を上げた。この優しさを前面に出さない微かな笑みが好きだ。
それが友の苦悩に気付かなかった事、約束さえ守れたつもりはない事、そんなどうしようもない事で、身近な人に迷惑をかけたくなくて、そんな優しい悪魔の隠しきれない優しさが溢れて漏れた笑顔だと雀は知らなかった。
前を向くと加賀見は、砂を掘っている。
雀も中に入って晃の横でちょこんと体育座り。
少しすると顎を膝の上に乗せ海を満喫している人達を恨めしそうに見始める。
「うう……日差しが痛い」
「魔女になったからな」
そう言いながらオレンジジュースを雀との間において、メロンソーダを飲んでその缶も間に置く。
「ありがと」
そう言って晃が置いたオレンジジュースを飲みながら、晃を盗み見た。
晃も同じように、こっちを見ていて黒い瞳と目があった。
晃の瞳は揺るがなくて、見ていて何だか気恥かしくなって雀は、目を反らす。
(晃君、海に入らないな?)
そう思った時、ふと閃いた。魔法使いが魔の法――魔の力を使うのなら悪魔も同じかもしれない、と。それなら魔法使いと同じように悪魔も自然に嫌われるのかもしれない。
「ね、ねぇ、もしかして、晃君も自然に嫌われているの?」
「ああ、その通りだ。俺達悪魔の使う力は、魔女と同じ魔の力だからな」
「そうなんだ」
「まぁ最も、悪魔の力は魔女と比べられんほど強いから、大して気にはならないが」
「じゃあ何で学校のプールで溺れたの?」
「人の姿だったからな。加賀見もそうだが、人の姿になっていると使える力に制限がかかる」
「なるほど」
2人はポツポツと魔女と悪魔の話を続けた。
2人がパラソルの中で会話しているのを砂を掘りながら、加賀見は見ていた。
暫く見ていたが、パラソルの影から出てくる様子が一向にない。
(仕方がないな)
加賀見は横に置いてあったピーチボールを持って立ち上がった。
加賀見が2人の元へ行くと掘っていた穴は海の水に流されて、すぐに埋まってしまった。
加賀見が晃の方まで来ると、晃は眩しそうにこっちを向いた。
「晃」
声を掛けて、加賀見は持っていたボールを晃に向かってると反射的に受け取る。
「そんな所にいて健康に悪いだろ?ビーチバレーでもしないか?」
晃は暫く悩んでから雀の方をちらっと見る。
(海に入れねぇけど、海、楽しませてやりたい)
「わかった」
晃は、持っていたボールを加賀見に向かって投げ返しながら答えると立てていた膝に手を置いて立ち上がる。
「ほら」
「えっ?」
そう言って、雀の前で晃は手を差し出している。
「お前もやるだろ?」
「うん」
雀は、晃の手を取って立ち上がった。前にいる晃を追い越して、雀は、加賀見の所へ駆けていく。
「晃君、早く、こっちこっち」
雀がパタパタと手を振って晃を呼ぶ。
「はいはい、今行く」
晃は、その子供っぽい姿にやれやれと呆れながら、ポケットに手を入れたまま2人の元へ歩いて行く。
「んじゃ、始めるか」
晃は、雀が海に入らないように波打ち際に立ってから、ボールを雀の方に打って飛ばす。
「うん」
パシッ。
ボールを打ち返す音。雀が加賀見の方へボールを打ち返すと加賀見は雀に返す。
「はい、晃君」
「えっ?」
雀が海に入らないように、雀の足元ばかり気にしていた晃は、顔を上に上げる。
反射的にボールを見つけて飛んできたボールを打ち返そうと晃は、何歩か動いて波に足を取られる。
「うわっ」
バシャン。
晃は、海水を跳ね上げて倒れた。
「つぅ」
「大丈夫?」
雀が、心配そうに晃に声を掛け、加賀見は、呆れて見ている。
(晃君どうしたんだろう?)
さっきから、晃らしくない失敗を繰り返している。それもそのはずで魔女である雀が海に足を、とられないように意識をそっちに向けていれば、自分の事が疎かになるからだ。
「はい、晃君。ボール」
「ああ」
雀がボールを拾って晃に渡す。
その後も晃は雀のことばかり気にして同じようなことが数度繰り返した。
「しっかりしろよ」
加賀見が晃を情けないという目で見ている。
「……」
晃は、ゆっくりと立って加賀見を見据える。
(?晃君らしくない反応だ)
雀は珍しい反応に不思議に思った。なんとなくイラっとした気がする。
「ほい、加賀見」
晃は、にへらっと笑いながら、ボールを軽く上に投げる。そして、ボールに手が触れる瞬間、晃は悪魔の力を込めて、加賀見に軽く打ち出す。
飛んできたボールを加賀見は、あまり早くないので、軽く打ち返そうとして――吹き飛ぶ。
ドパァン!!
今度は晃の変わりに加賀見が盛大な水飛沫を上げて倒れる。
加賀見は、がばっと立ち上がって晃を睨む。
「何する!!」
「仕返し」
晃は可笑しそうに唇の端を上げる。
「神への嫌がらせは悪魔のすべき事だ」
「はぁ、あのな~」
加賀見がその言葉に呆れた。晃はさっきまでの仕返しとばかりに加賀見にやり返していた。
そんな2人のやりとりを見て雀は笑う。




