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魔法使いの館の物語  作者: 優緋
私は魔女になる、雀の決意
10/28

魔法使いの館での出会い ~晃~

 門を潜り2人は館の庭に入る。黄金お婆ちゃんは、懐かしそうにあちこち見て回る。

「このテーブルには、魔女達が毎日のように座っていたよ。杏がよく、クッキーを焼いて持ってきて皆に配っていたよ」

 そう言いながら、黄金お婆ちゃんはテーブルを優しく手で撫でていた。

 黄金お婆ちゃんの話にお母さんが出て来て、雀は嬉しかった。それが、とても嬉しそうだから尚更。でも何処か悲しそうなのは、もう杏が、思い出の中にしかいないからだろう。

「ちょっと待って、魔女が集まってたって……、魔女なんているわけないよ。魔法なんてないんだし」

「じゃがの、雀。魔法をあると証明は出来んが、ないと証明することもできんじゃろ」

「それはそうかもしれないけど……」

「まぁ、魔法使いや魔女達は、魔法の存在を隠してきたからねぇ。魔法を使って隠してしまえば、まず見つけることなんて出来ないよ」

「……うっ」

 確かに魔法があるとしてそれがどういったものか全く分からない以上、魔法を使って隠されたらないとは、雀には言えなかった。

「さてと、行こうかね。館の中へ」

 話を聞きながら扉の前に来た黄金は扉の鍵を開けた。

「今はこんなになってしまっているが、この館はねぇ、杏が結婚するまで使っていた館だったんだよ」

「えっ?」

 驚いて雀は問い返す。

 シャリッ。

 館の中に黄金が1歩踏み入れると、ガラスを踏んだ音がした。

 室内は埃と古い本の匂いがした。

 雀は、黄金の背中から館の中を覗き込むが、中は暗くて、何も見えない。それでも黄金が言った通り、大分荒れているのがわかる。

「さてと」

 黄金はそう言って屈んでマッチを擦って、横にあるランタンに火を灯す。

 ランタンを黄金が翳したので館の中が、ぼんやり見えるようになった。

 館の中は所狭しと本が積まれていた。雀も読める本は、僅かしかなく、いろんな国の本があるみたいで、本によって書かれた文字が違う。その本達の中でも『魔女について』と同じもが多い。

 つい雀は大事な話をしているはずなのに本に目が奪われてしまう。

「杏はね、代々魔女が護ってきたこの館の主だったんだよ」

「えっ?」

 言葉の意味を理解するまでの僅かな間をおいてから黄金は話を続けた。

「ああ、そうさ。杏は、魔女だったんだよ」

「でも、そんな事って」

 信じられなくて、頭を抱えて悩んでいると明りがついた。黄金を見ると電気のスイッチに手をかけていた。

「雀も古き魔女の血を継いでいるのじゃよ」

 雀が、鳩のように目を丸くして黄金を見た。言われた事が頭で理解は出来なかったけど、何故か納得は出来た。

 ランタンの明りだけ見えた時以上に、すごい量の本がそこにはあった。

「雀が魔女になったら、この館の主になる。そうすれば、ここの本は読み放題だよ」

 本が好きな雀にはたまらない言葉だった。

 上の階の床を丸く、2階分くり抜いたような吹き抜けがあった。天井が高い位置にため電球は天井につけられてはおらず、壁につけられていた。

 雀は、辺りをきょろきょろと見回すが、この上の場所に続く階段は、見つからない。それに梯子が立てかけてあるわけでもない。

 それにしても不思議な作りの建物だな。空でも飛ばない限り、上の階に行けないようになってるなんて。

 この建物は元々、空を飛べる魔女達が使うための館として建てられた。そのため、一般の建物とは違う造りをしていた。

 黄金の言葉を聞きながら、吹き抜けになっている2~3階の場所にまで本が積まれているのを感心していた。

 黄金は傍にあった本を手に取って、怪訝な顔をした。その本『魔女の手記』には、埃を払った痕があったからだ。それは、この館に誰かが入った事を示している。

 この館にある本は魔法の奥義や秘伝に書かれている物が多い。さらに魔法の薬の材料も豊富に取ってある。

 それらは使い方次第で危険な物になるため、勝手に使われたりしては困る。実際にここから持ち出された物が悲劇を何度か起こしている。

 一体誰がここに来たのか知るために黄金がきょろきょろと辺りを睨むように見まわすと雀が目に入った。

 雀は、吹き抜けになった場所の上の階を見ていた。

「雀、どうしたのじゃ」

「あ、うん。なんか、上が気になって」

「そうな……」

 黄金は声をかけかけて、雀は魔女の才を持っていた事に気づいた。雀の見ている先に誰かがいるのだと。

「誰じゃそこにいるのはっ!!」

 黄金お婆ちゃんが横に来て、杖を上に掲げた。すると先端のくるっと丸まっている部分が淡く輝いた。

「え、え、え~?」

 雀は、初めて見る魔法に驚く。魔女の才が血で受け継がれるのだから、魔女の母である杏の母なのだから当然黄金も魔女なのだ。

 雀が、上を見ていると青い縁取りの黒い服を着た少年が、上の階から浮かび上がる。

「すごい」

(これが、……魔法)


「うわぁ!!」

 上の階で本を読んでいた、晃は、黄金の魔法で落とされた。

 まさかこんなところに人が来ると思わなかった。しかも魔法で落とされるなど、予想出来るはずもなかった。

 油断して落とされた晃は、地面に落ちる寸前、白い鳥の翼を背中から出した。はばたかせて風を起こし、落ちる勢いを消し、僅かに体を浮かせて、足からゆっくりと着地した。

 あたりには白く光る羽が舞い散った。

 翼の起こした風で埃が散ったため、晃の足元には埃がなかった。積まれた本を崩すことなく晃は丁寧に着地した。

「天、使……?」

「……!!」

 軽やかに舞い降りたその幻想的な光景に見とれて雀が呟いた。手前にいる黄金も声すら出せなかった。

 晃は、雀の言葉を聞いて、天使の翼を使っていた事に気づき、急いで翼を消した。まるでその翼が、自分のものではないように、誰にも見せたくなかったかのように。翼は空気に溶けるように消えていった。

 翼の起こした風で埃が散ったため、晃の足元には埃はなかった。

「……違う」

 何処か懐かしそうに何処か悲しそうにそう答えた。

 翼が消えたことで、雀の意識が彼の顔にいった。闇のように黒い髪に黒い瞳の顔。

「藤堂、君?」

 そこにいるのは、雀のクラスメイトの鈴木晃だった。

 信じられなかった雀は、呆然としながらとことこと近づいていってぺたぺたと本物かどうか確かめるように晃に触る。

「おい、志田切、何している?」

「えっ?」

 晃に問われて、雀は、自分が何をしていたか気づく。気づいて頬に触ろうとしていた手を止めて、真っ赤になる。

「え、あ、う、……ごめん」

 雀は、両手を後ろに隠しながら慌てて晃に謝る。

「知り合いなのかい?」

「あ、うん、同じクラスの藤堂君なの」

 雀が、同じクラスの晃を紹介する。

「それで、何でクラスメイトがここにいるのかねぇ?」

 雀は、答えに困った。でも、よく考えれば、私を魔女だと知っていた事を知っていたんだから、鈴木君がここにいることは別に驚くことではないのかも。

「どうかしたかの、雀?」

「あ、うん。何でもない」

 でも、黄金お婆ちゃんは納得しなかった。鈴木君が、何故ここにいるかではなく、目的を問いただす。

「……契約だ、まぁ、志田切を悪いようにはしない」

 正体を隠そうともしない堂々たる態度。その態度が、驚いていた雀の気持ちを落ち着かせた。

 黄金は、晃を疑わしそうに睨む。

 晃は、にやりと笑いながら、1枚の写真と手紙を取り出す。雀と杏の写真に杏から送られてきた手紙だ。

「………」

 それを見て少し黄金お婆ちゃんは、考え込んでからいつもの優しい顔に戻った。

「まぁ、信じようとしよう。ただし詳しく話を聞かせてもらうとしようか?」

 晃は、答えずにちらっと私の方を見た。黄金は、その様子を見て、晃の意図を理解した。雀には、聞かせたくない話なのだろう。恐らく、契約内容に関する話だろうと。

「話は、奥の部屋で聞かせてもらおうかの」

「わかった」

 そう答えた晃は、館の奥へと黄金お婆ちゃんと一緒に行った。黄金お婆ちゃんがいったん足を止めて、私の方を見た。

「雀はここで、待っていておくれ」

 そう言って、黄金お婆ちゃんは再び、歩きだした。2人が、見えなくなってから奥の部屋の1室の灯りがついた。

 明りがついたので、さっき晃が下りた場所に行って、上を見上げた。上の階がどうなってるのか見てみたかったのだ。上を見上げて雀はぽかーんと口を開けた。

 ふと、視線を戻すと、埃を被っていない本を見つけた。さっき、黄金お婆ちゃんが見ていた本だ。雀は、その本を手に取った。表紙には『妖精と魔法』と何とか読める文字で書かれていた。

 最初はパラパラと眼を通すだけだったが、次第にじっくり読むようになり、最後には、床が埃だらけだということを忘れて、床に座って本を読んでいた。


 晃と黄金は、奥のこの館の主人が使っていただろう部屋に入る。

 先に入った、黄金がゆっくりと晃の方を向く。それは、さっきまで雀といた表情とは違う、見る者を不安にさせる怖い表情。とても、魔女らしい表情だ。

「何で、ここに天使がきたのかねぇ? 何をしに来たのじゃ?」

 魔法使いは魔の力の法則――悪魔の力の法則を使うため、天使とは対立関係にある。

「……俺は、天使じゃない。悪魔だ」

「何をいっとる?」

 ついさっき、晃が背中から天使の翼を出したのを見ている。晃が、悪魔だと言っても信じられはしない。

 そう思った瞬間、黒い羽が、舞い散る。ばさっと音を立て、蝙蝠の翼を晃は広げ、唇の端を上げる。黄金には灯りをつけたはずの部屋が闇に包まれたような錯覚を起こす。

 ゆっくりと開いた晃の瞳が深く暗い血のような赤色に変わる。口を横に広げ、唇の端が上げる。着ていた服が、闇よりも深い黒色に染まる。眼が笑っていないだけでいつも通りの表情だが、まるで違う印象を与える。明らかに人の上立つ、恐怖を与える表情。黄金の魔女としての表情など、比べる事さえ憚られる。

「俺は、破壊と殺戮を司る契約の大魔」

 晃は、厳かに、さとすように、ゆっくりと告げる。

 黄金の顔から表情が、消える――。大魔といえば、神と同格の存在。それも破壊と殺戮の力を持つ、あきらかな恐怖の対象。

「な、何で、そんな存在がここに――っ!?」

 黄金が、信じられないと恐怖と恐慌の入り混じった大声を上げる。

「当然、契約だが?」

 晃が、当然のように答えたため、黄金は冷静さを取り戻した。晃は、黄金にここにいる理由を話した。

「たぶん、この館の主に呼ばれたんだと思うんだが」

 黄金は、納得した。

「なるほどのう。して、これからお主はどうするのじゃ?」

「それが、具体的には、何をすればいいのかは、わっからない」

「ふむ、それならば雀の祖母として、わしから頼みごとをしても良いかな?」

「ああ」

「もし、雀が魔女になったら、娘に魔法を教えてくれんか?」

「……だが、俺は悪魔であって、魔女じゃない」

「構わんさ」

 ……はぁ

「……わかった」

 2人はこれからのことを相談し始めた。

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