横山君とお姉さん
家に帰ると、鬱陶しい前髪を上げた。この長さだと、少しチャラっぽい雰囲気になるが、それも今は結構気に入っている。
姉が嫌がらせ半分、面白半分でいろんな可愛らしいヘアゴムを買ってくる。それで、前髪を結ぶのが最近は好きだ。ちなみに、きょうはウサギが付いている。
「ぶっ、それ使ったの?カワイイじゃない?」
本人が帰ってきた。
姉は女子高に通っていて、今日も完ぺきにメイクをし、髪を巻いている。女子高の女子高生は学校の中が一番に、家の中が二番目にだらしないというのは公然の秘密だ。ただし、姉の外面だけは完ぺきな事を僕はよく知っている。
この姉が友達と遊びに行っては、可愛いヘアゴムを買ってくる張本人だ。なんだかんだと嫌そうにしながら、家の中ではそれを使う僕は、良い弟だと思う。
「さすがに、この前のピンクのラメのハートは無理だけど。」
あれは、手に取ることすらなかった。
「お奨めだったんだけどね。」
絶対嘘だ。疑いを隠しもしない視線を姉に送った。
「あ、せいや、明後日テスト終わったら暇でしょ?ちょっと、付き合ってよ。」
「何かおごってくれるんならいいけど。何すんの?」
「文化祭の買い物に行くんだけど、結構物が大きくなりそうなんだよね。か弱い女子じゃ持てないから荷物もって。大丈夫、あんたのこと知っている友達だけだし。」
―か弱いって誰のことを言ってるんだか―
「んん~、まあ、良いけど。」
「あ、眼鏡は外して来てよ。こんなもっさい男つれて歩きたくないんだから。なんなら、ハートのゴム使ってもいいいし。」
「はあ?何言ってんの。」
一応、テスト勉強するかと思い立ち、自分の部屋に引きこもった。
2日後、テストが終わると、友人のずみちゃんが声をかけてきた。サラサラのストレートヘアのきれいな子だ。
「りんこ、折角だし、どっか行かない?前話ししてた大きいパフェとか??」
「行きたい!!」
ふと、教室の中を見渡すが、横山君はもう帰っていた。いつのまに帰っちゃったんだろう、随分と早い。
「テストどうだった?」
「理科はヤマがあったったんだけどね...りんこは?」
「特別できた、って感じも、特別できなかったって感じもなかったから、多分いつも通り悪いと思う」
「悪いんだ?ま、甘いもの食べて、忘れよう?」
「うん!」
本来は3~4人用の大きなパフェを2人でつつく。
「テストも終わったし、学校祭の準備が始まるね。」
「そっか。そうだった。これから、練習忙しくなるから、今日だけはおやすみだったんだ。」
思わず、テーブルに突っ伏してしまう。
「合唱部と吹奏楽は気合入るものね?あたしは、3日くらい前にちゃちゃっと書けばよいし。」
「やる気ない部員だね~」
「書道部なんて、帰宅部みたいなものだもの。」
「あ、いちご取った!!」
しばらくそんなじゃれあいをしていると、ふと、ずみちゃんが外を指す。
「ねえねえ、あれ、うちの2年だよね?あんな子いたっけ?」
ずみちゃんが指差す先には...。
女子高生に囲まれている、横山君、眼鏡なしバージョンチャラめオプション付きがいた。
―というか、なぜ一女の方々に囲まれているのかがわからない―
「それにしても、囲んでいる一女の人たち、レベル高いね。きれいな人ばっかり。あ、いじられてる。」
たしかに、第一女子高校ということは頭も良いらしい。なのに囲んでいる三人はがり勉の雰囲気ではなくみんなきれいだった。
一人が何かの袋を横山君の目の前で振っている。横山君が手を伸ばすと、さっとその袋を逃がす。そのうち、二人が突然笑い出し、横山君ともう一人の一番きれいな人を指してもう一度笑う。二人がちょっとすねたように顔を見合わせる様子で、二人が親密なのだと分かった。
―あれ?なんかすごくムカムカする...―
「そういえばね、学校祭の時ともえちゃんと周ろうってなったの。」
ずみちゃんが頬を上気させる。ともえちゃんというのは、正真正銘の男の子でずみちゃんの彼氏のこと。
「そうなんだ!良かったね~。これで、公認ですねえ、いずみさん?」
「りんこさんこそ、どうなのよ?
―どう、と言われても特に何もないしなあ。横山君になんて、避けられてるし―
立花君と。」
思いがけない名前に驚く。
「なんで、立花君?」
「え?違うの?仲良いし、てっきりそうかと思ってた。」
「うん、別に、そういう感じじゃないし。」
―なんで立花君?どこからそんなことに?―
ちなみに、その後はしばらくしゃべって、ずみちゃんが部活帰りのともえちゃんと帰るというので、そこで別れた。雨が降りそうなどんよりとした空を見上げれば、何故か溜息が洩れた。
テストが終わると、すぐに教室を出て待ち合わせ場所に向かう。ちなみに、必要性を感じたことが全くないので、ケータイは持っていない。姉達がまだ来ていないのを確認すると、トイレに向かい指示通り、眼鏡を外し、持ってきたワックスでちょいと髪をいじる。
ちなみに、今朝は薄く生えてたひげも剃ってきた。昼間はまだ暑いので、ブレザーも鞄に入れ、シャツのそでをまくっておく。
―そういえば、今日はやけに湿度も高いし雨でも降るんだろうか―
それから、ネクタイを緩めて、シャツのボタンも外した。ついでにペンダントとブレスレットをつけて、チャラっぽさを出す。これで、だいぶ雰囲気が変わるのだからおもしろい。まあ、普段、僕の顔をまじまじと見たことのある人なんていないだろうから、十分だろう。
あ、一之瀬さんにはばれてるのか。
ファーストフードに入るとドリンクだけを買い、読みかけの新書をとりだした。
しばらくすると、姉が来た。いつも通り、他二人もだ。
「せいやくん、久しぶりだね?あれ?ちょっと背伸びた?」
一番背の低い一人が、自分の頭に手をかざし、僕と比較する。
「優子さんに比べたら、いつでも大きいですよ。」
「でも、私も追いつかれちゃった。成長期だね~。」
もう一人の美香さんも、しみじみと僕をみる。
「たしかに、最近、足とか背中が痛いです。で、何買うんですか?」
その後、スーパーや百均や雑貨店を散々連れ回され、最後にたいやきをおごってもらった。
「そこのお店、巨大パフェあるらしいよ。4人くらいで食べるのが丁度いいって。」
美香さんがすぐ近くにあるピンク色の建物を指差す。いかにも、女の子が好きそうだ。見ただけで胸やけがしてくる。
「いや、生クリームとか苦手なんで遠慮します。」
「ええ~残念。しかし、たいやきとか、渋い趣味してるね。」
美香さんが、たいやきの入った袋を目の前でぶらぶらさせ、取ろうとするとさっと避けられる。
「この荷物、学校まで運ばなくていいなら、たいやきは要らない。」
「はいはい、ごめんごめん。」
「渋い趣味で悪かったわね。」
姉が、自分の分のたいやきを頬張りながらむくれて、それを見た優子さんと美香さんが噴き出した。
「そういうところ、姉弟だよね~。うちはぜんぜん違うけど。」
思わず姉と顔を見合わせる。同じ食生活を送っているのだ。好みが似ても当然だと思う。
その後、たいやきを食べて栄養補給をし、学校まで荷物を運び家へ向かう。姉たちは準備をしていくとのことでそこで別れた。
今にも雨が降り出しそうな空を見て、早く家に帰ろうと駅へと急ぐ。




