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渡辺さんと横山君1

「渡辺さんと横山君」という同名のお話をそのまま持ってきてます。

別々のお話にしていたのですが、番外編という扱いにしました。

内容に変更はありません。


この作品とは全く無関係ですが、このお話に出てくる「イケメンの方の高橋君」が主人公の作品が「水平線に帰す」です。作品のテイストは全く異なりますが、お時間がある時にでもご覧ください。

 2年生になって、クラス替えがあってまた知らない人と一緒の一年が始まった。

 私は名字が「わたなべ」のせいで、必ず出席番号は一番後ろか、せいぜい後ろから二番目だ。

 

 新学期、クラスに入り、迷うことなく窓際の席を目指す。黒板に席順が書かれているが、相変わらず一番最後だった。まだクラスの人は数人しか来ていなくて、知り合いもいなかったので大人しく席に座って本を開く。


 しばらくすると、前の席に誰かが来て椅子を引く。

 本から顔を上げると、知らない男の子だった。寝癖は無いけど、いまいち整ってもいない髪、太い黒ぶちの眼鏡、前髪は眼鏡の上まで覆いかぶさっていて、爽やかさは皆無だ。しかも、うっすらひげも生えたままで、まあ何と言うかもっさりとした男子だった。

―身だしなみくらい整えてくれば良いのに。フケとか落とされないと良いな。後ろの席だから、私の机に落ちるんだろうし―


 ちょっと憂鬱になっていた時、隣の席にも誰かが来た。

―あ、ラッキー―

 隣に来たのは立花君だった。

 実は1年の時から、ちょっとだけカッコいいなと思っていたのだ。私みたいな女子じゃ相手にはならないだろうけど、隣の席になったってだけでも嬉しい。

 染めてはいないけど、わずかに明るいウェーブがかった髪。それを軽く空気感を出して整えていて、カッコよさが際立っている。

「あ、おはよう。俺、立花ね。よろしく。」

「お、おはよう。渡辺です。」

―きゃーっ、話しかけられちゃった―

 クラスメイトとしてだろうけど、たまに立花君と話すことが出来て中々良い新学期だと思った。



 昼休みの時、前から仲が良かった美紅ちゃんの所へ行って一緒に食べようと誘う。お互いお弁当だったので、教室で食べることにして誰かの席を借りようとなった。

「あ、あたし動くから良いよ。使って。」

 すぐに席を空けてくれたのは、美紅ちゃんの隣の一之瀬さんだった。

 一之瀬さんは本当可愛いし良い子だ。大体、こういう垢ぬけた子ってのはとっつきづらい感じがあるけど、一之瀬さんは誰にでも話しかけてくれる。

「ありがとう。」


 そう言って、一之瀬さんの席を美紅ちゃんの席にくっつける。一之瀬さんはどこに行くのかと見れば、佐原さんの前の席に移動していた。佐原さんの隣は立花君で、イケメンの方の高橋君と4人で食べていた。何と言うか、華やかな集団で楽しそうだった。

―立花君と一之瀬さんって、やっぱり付き合ってるのかな?―

 立花君みたいな男子には一之瀬さんみたいな可愛い子が似合うんだろうな。ちょっとだけ落ち込んだ。


 そうそう、イケメンの方の高橋君というのは、私のクラスには高橋君が二人いて、一人は立花君と同じバスケ部の高橋君、もう一人はこれまたもっさりした感じの高橋君。もっさりした高橋君は一人で食堂に行ったのかいなかった。



 新学期は楽しみなものだけど、新学期早々テストがあるのは嬉しくない。ただでさえ短い春休みなのに全然楽しめない。それでも、全教科じゃなくて国数英だけだったからまだマシだったけど。

 数学のテスト中、8割くらい解き終わって一息つく。ふと前を見ると、前の席の、えっとそうそう横山君は机に突っ伏して寝ていた。

―何なのこの人?―

 身だしなみもそうだけど、自己紹介の時もぼそぼそと喋るから何言っているかよく分からなかったし、覇気がなかった。こういう人見てると、本当イライラしてしまう。

 僅かに眉をひそめると、再びテスト問題へと視線を戻した。


 

 6月。

 GWの時の暑さが嘘のように、毎日曇りで少し肌寒い。この頃には、私も少しクラスに慣れて友達も増えていた。


 体育の後、暑くはないけど何となく湿度が高くて教室の空気もすっきりしない。中2にもなると男子がちょっとむさ苦しくなっていて、体育の次の授業の時は何とも言えない汗臭さが教室に満ちていた。

―やだなあ、何で横山君、前なんだろう―

 見るからにむさ苦しい横山君の後ろ姿はそれだけでイライラさせられた。よりによって、嫌いな古文の授業で憂鬱さは増す一方。

 先生が配布資料を回す。横山君が後ろを向いて渡してくれた時、タイミングが悪かったのかプリントが落ちて、横山君のバッグの下に滑り込む。


―プリントくらいちゃんと渡してよ―

 ただの八つ当たりなのは分かっていたけど、いちいち横山君の行動が癪に障るのだ。横山君がバックの下からプリントを拾う。


―えっ?―


 予想外だった。横山君は落としたプリントでなく、自分の机のプリントを私に回して来て、落としたのを自分の机に置く。

「あ、ありがとう。」

 さっきまでのイライラはどこへ行ったのか、私は茫然としてその後ろ姿を見ていた。



 あれ以来、横山君の行動がいちいち目につく。それも数日前までとは違う意味で。

 よく本を読んでいるけれど、難しそうな本ばかりだった。それから、気がついた時は驚いたのだけど、実はピアスをしていた。横山君の長い髪じゃ目立たないけど、小さい黒いピアスが両耳についていた。眼鏡を拭くときも、ちゃんと眼鏡ふきを出して、それを綺麗に三等分に折ってケースにしまっている。


 ある日、教室に入ろうとした時、丁度教室から出ようとした横山君とぶつかってしまった。私は何ともなかったけど、よけようとしたのか横山君はドアに軽くぶつかっていた。

「わっ、ごめん。」

「あ、ごめん。」

 ぶつかった拍子に眼鏡が顔に当たってしまったのだろう。横山君が眼鏡を外す。眼鏡ふきがなかったのかポケットからハンカチをだして眼鏡を拭いていた。

「えっと、大丈夫?」

「あ、ああ、気にしないで。」


 すぐに眼鏡をかけ直すとすっと出て行ってしまった。

―初めてちゃんと顔見たかもしれない―

 混乱しながら、席に座る。

―あれって、横山君だよね??―

 思ったより綺麗な顔が見えた。



 その日のHRでまさかの席替えになり、私は通路側の一番後ろになってしまった。横山君は教室の真ん中あたりの席。私の前は鈴木君というあんまり良く知らない男の子だった。鈴木君は陸上部らしい。良く日に焼けていたのはそれでかと思う。でも屈託なく笑って明るい感じの男子だった。


 梅雨も終わりに近づき、蒸し暑さが加わっててきた。

 さすがに誰も長袖を着ている人はいなくなっていて、団扇や扇子で煽いでいる人もいる。

 ここしばらく、私の悩みの種は前にいる鈴木君だった。

 汗っかきなのだ。だから、体育の後とかはなんというか汗臭さが一段と増す。こればっかりは、本人にはどうしようもないから仕方ないのだけど、せめてハンカチで拭うとかして欲しい。その上、癖なのかよく頭を掻く。さすがにフケとかは落ちてこないけど、目の前でわしゃわしゃと頭を掻かれるのはあまり良い気がしない。

 

 このテストが終われば夏休みが来るのか。ちょっとだけ嬉しくなる。

 最後の理科のテストが配られるのを待ちながら、私は夏休みの予定に思いを馳せる。宿題はあるけど、何せ1カ月もある。

「っと、悪ぃ。」

 鈴木君が手を滑らせたのかテストの解答用紙が教室の隅に落ちた。椅子に座ったまま、それを拾うと、私の机の上に置いてくれた。

「あ、ありがと。」

 口ではそう言いつつ、顔が引きつっていなかったか心配だ。

 だって、回答面には埃がついていたのだから。

 せめて払ってから渡してくれれば良いのに、と思いながら、ふと横山君が前に座っていた時は、今思っているようなストレスが全くなかったことを思い出した。

 


 テストが終わっても、数日は授業があるがそれも今日で終わり。

 相変わらず、横山君の事は何でも目についてしまう。『東方と西方の数学論』これまた難解な新書を読んでいた。ちょっとだけ、夏休みの間横山君を見れないのが残念だな、と思った。


 夏休みの5日目。

 美紅ちゃんと一緒に遊ぶ約束をして近くの大きな駅の駅前で待ち合わせをする。少し早くつきすぎてしまったので、近くのファーストフードに入ってドリンクだけを頼み座って待っていた。


「ちょっと、あ、そこ空いてるでしょ、座ってて。」

 後ろから女の人の声が聞こえて、はいはい、といううんざりした男の子の声が横を通り過ぎて行く。

―ん?―

 何となく後ろ姿に見覚えがある。黒い小さいピアス。取り出した新書は『東方と西方の数学論』。


―えっ!!?横山君!!!?―

 確かに、そうなのだけど、クラスの横山君とあまりの差に驚く。

 どこからどう見ても遊んでる感じの中学生じゃないか。あのもっさりはどこへ!!?多分、立花君よりカッコいいかもしれない。その証拠に隣の大学生くらいの女の人たちも、「あの子、将来イケメンなりそうだね」なんて話をしてる。

 横山君は、私に背を向けて座ってしまったので、恐らく気が付いていないのだろう。

「はい、おまたせ。」

 高校生くらいだろうか。可愛いと言うよりはキレイ系の女の人が横山君の前に座る。


「あっつ。頼まれたの姉さんなんだから、一人で行けばいいのに。何で僕まで。」

「良いじゃない。ご飯おごるって言ってんだし。大体、あんた引きこもりすぎなのよ。彼女一人でも作ってデートでもしたら?せっかく夏休みなんだし。」

「うるさいな。自分がこの前振られたからって、八つ当たりすんなよ。」


 横山君、お姉さんがいるのか。

 あまりにも目の前にいる横山君が意外すぎる。

 見た目もそうだけど、横山君はこんなによくしゃべる人だったのかと思った。主に一方的にお姉さんがしゃべってるだけだけど、たまに相槌打ったり、3倍くらいの嫌みを返したりしている。

「食べ終わったら、さっさと最後の店行こーよ。お客さん来るの2時なんだろ??」

「あ、ほんとだ。急がないと。」


 二人は慌ただしく出る準備をする。その時もさっとトレーやごみを片づけて、荷物を持つ横山君。その横で、悠々とリップクリームを塗り直すお姉さんを見て、どうしてあんなに気を使える男の子が育ったのかが良く分かった。


 ぼーっとしていたせいか、美紅ちゃんからメールが来たのにも気がつかず、電話が鳴って初めて気がついたくらいだった。

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